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69 魔術師、恐ろしい相手を知る

自在剣もどきをノアたちに見せて宿に戻ると、僕があたらしい剣を下げていることにトールが気づき、興味を示した。トールに手渡すと


「なんだ、このなまくらは。それにやけに軽いじゃねぇか。張りぼてじゃねぇのか」

「はーりぼおてぇ、はりぼおてー」


ノアが茶化している。どっかで聞いたことがある気が…


トールとゴードを連れ、もういちど裏庭に行って、自在剣もどきの説明をした。なまくら剣を壊して見えない剣の状態にすると、トールが貸せと言って数回振り回す。


「切れ味は凄いが軽すぎるな…。身につけた動きが狂う。実は俺とゴードも昨日剣を新しくあつらえたんだ。俺はそれで充分だ」

ゴードも無言で頷いている。


それを聞いて僕は安心した。作るのは出来るが自在剣もどきの使い手が増えると奇襲の意味がなくなってしまう。


トールたちと一緒に宿に戻り、待っていたノアたちと一緒に朝食をすませた。



朝食後、ノアが商業区に行きたいと言い出した。

「ここのレストランは堅苦しくてやだ。屋台で食いたい!」

「組織の者に見つかると困ったことになりますよ」

ソアが言うと、

「市民エリアならそうだけど、商業区はメリッサの件で拠点をつぶしてあるじゃん。大丈夫だよー、きっと」

「しかたがない、僕が一緒に行って、万一のときはテレポートでここに逃げてくるか」

「わたしも一緒にいきます」

ソアも行くことになった。アリサとエマは僕について行くのが当然という顔をしている。

「もう、奴隷は買うんじゃないぞ」

トールが笑いながら僕に言った。


結局、僕とノア、それにソア、アリサ、エマの5人で商業区に行くことになった。各エリアの検問は、以前もらった王家の紋章の入ったカードで通してもらえるだろう。エマは持っていないが、一緒ならば大丈夫だと思う。ダメなときはエマはテレポートで出入りさせるという手もある。



商業区の広場に着くと、ノアが屋台に突進する。僕たちもそれぞれ屋台でB級グルメを楽しむと、全員揃って広場の中央で一息をついていた。


「ミスター様ではありませんか」

僕たちに声をかけてきたのは、第三王女の付き人だった。エマによればガーベラという名前だったはず。

「意外なところで会いますね、ガーベラさん」

名前を呼ぶと、エマの方をちらっと見て、

「名前を覚えて頂けたとは光栄です」

そういって軽く頭を下げた。謁見の時と同じ服装で、その上に前掛けのようなエプロンを着けている。

「ガーベラさんは何の御用でこちらへ?」

「エイダ様の使いの帰りです」

「どちらへの使いなのでしょう」

「それは申しあげられません」

「余計な詮索、失礼しました」


挨拶の後は、どの屋台が美味いかなどと雑談をしていると、チンピラに絡まれてしまった。

「にいさん、いい身分だな、ひとりくらい俺らに回してくれねぇかな」

5,6人の仲間が下品に笑いながら後ろに立っている。僕が返事をしようとすると、ガーベラが前に出て、

「皆様のお相手はできません。どうぞお引き取りを」

そう言って頭を下げた。

「そんなつれないことを言うなよ」

そういって頭を下げたガーベラに手を伸ばすと、ガーベラがその手を払いのけた。

「おやめください」

男は手を引っ込めると

「痛ぇ!折れちまったんじゃねぇか。どうしてくれんだ、え、おい」

そういってガーベラにすごむ。ノアが魔法を放とうとしているので、それを止める。

「もう少し様子を見ていよう」

小声でノアに言った。

「申し訳ありません。これでお納め願います」

そう言ってガーベラはエプロンのポケットから金貨1枚を取りだすと相手に差し出す。それをひったくるように取って懐にしまった男が、よせばいいのに調子に乗った。

「ものわかりがいいな、他のやつらは行っていいぞ、かわりにあんたには俺らの相手をしてもらおうじゃないか。一緒に来るんだ」

そう言って、ふたたび手を伸ばす。

「調子に乗りすぎです」

そう言うとガーベラは、今度は振り払うのではなく、相手の腕を取ると身体を入れ替えるように移動し、ひねりあげ、そのまま投げとばした。

「何しやがる!」

後ろの連中がガーベラを取り囲む。アリサが動こうとしたが、エマがそれを止める。

「大丈夫です、アリサさん。このまま見ていましょう」


ガーベラは、エプロンを外すと、くるくると巻いて棒のようにして言った。

「これなら打ち身くらいですむでしょう…」

それを聞いて逆上したのか、チンピラたちはナイフを抜いた。


後ろから襲いかかったチンピラを、振り向くこともなく右に避け、左の肘をみぞおちに打ち付ける。前から突き出されるナイフを身体を横にするだけで避けると、エプロンの棒でナイフを持った手をしたたかに打ち据えた。それと同時に残りの連中がいっせいに襲いかかった。


ガーベラの回避がすごい。あらゆる攻撃をすべて余裕で躱している。そのとき、アリサが僕に言った。

「マスター、あれを」

アリサが指し示す方を見ると、屋根の上に弓を持った男がいる。

「頼むぞ、アリサ」

そう言うと、アリサが男のいる建物の入り口に向かって走った。


アリサが建物に入ろうかというところで、男が矢を放ったが、ガーベラは男の方を見ることもなく、一歩後ろにさがる。矢は目の前の石畳にあたって跳ねた。その直後、ガーベラは前に一歩でる。ガーベラの後ろを二本目の矢が通り過ぎた。そのとき、屋根の上で悲鳴が上がり、男がひとり広場に落ちた。声を上げることなく石畳の上に横たわった男の首と手足があり得ない方向に曲がっている。落ちたときにはすでに死んでいたのだろう。


視線をガーベラの方に戻すと、すでに立っているチンピラはひとりもいない。気を失っているか、痛みに呻きながら、全員地に伏していた。


建物の入り口から女の悲鳴が聞こえた。そちらを見ると、アリサが転がっている死体を見て、わざとらしく悲鳴を上げている。その悲鳴で野次馬が集まると、その間を抜けて僕たちのところに歩いて戻ってきた。


「殺さなくとも…」

ガーベラが言う。アリサは返事をしない。

「警備の兵が来る前に、去りましょう。死人がでていますから兵にかかわると面倒です」

そう言って、ガーベラは中央区への検問所がある方向に歩き出した。僕たちもガーベラに続く。



「それでは、これにて失礼して、王城にもどります」

検問所を通過すると、ガーベラは僕たちを残して去って行った。僕たちは宿に戻り、いつものテーブル席に着いた。トールとゴードは外出中のようだ。




「ガーベラは異常だ。エンダーに負けたことがないと言うのも嘘ではないかも知れん」

やっと話せるとばかりに、エマが口を開いた。

「回避が凄かったよねー」

「凄いとか、そんなレベルではない」

とエマが言うと、ソアが続ける。

「エマやアリサの方が動きはずっと早いと思いますけど」

アリサが答える。

「速さや動きでは、そうですね。でも彼女は異常です」

「どーゆーこと?」

ノアの疑問に、エマとアリサが僕の方を見た。僕が頷くとエマが話を始めた。


「彼女の回避はわたしたちとレベルが違う。回避の動き自体はわたしやアリサの方が速い。しかし、回避の動作を始めるのがガーベラは圧倒的に早い。回避するためには相手の攻撃を見るか予測するか、いずれかだ。見てから回避するのは強者が相手だと至難の業だ。だから相手の攻撃を予測して回避する。相手の目の動き、筋肉の動き、体重の移動、呼吸、あらゆる兆候を見て瞬時に予測する。長い年月をかけてこれを身につける。ところがガーベラはこのいずれも見ずに攻撃を予測しているように思える。アリサに見えたかどうかわからないが、二本目の矢を避けたときはっきりと分かった」


「矢を避けたとき、彼女は初めから一度も弓使いを見ていない。最初の矢は、飛んでくる矢が風を切る音で避けたのかも知れない。しかし、二本目は違う。どうやってコースを読んだのかわからない」

「一本目と同じじゃないの」

ノアが言うと

「違う。あいつは二本目が放たれる前に、すでに避ける予備動作に入っていた。射手の方も見ずにだぞ。どうやって矢のコースが分かったのだ?」

「偶然じゃないの」

「命がかかってるんだ。いちかばちかで避けたりしない」

「そこに矢が放たれることを予知したとしか…」

アリサが言った。

「そうだ、そうとしか思えん」

エマも同意する。

「予知なんて、できるわけないじゃん。そんな魔法はないよ」

「だから異常なんだ」


相手の動きを予測するどころか、予知できるとしたら、恐ろしい相手だ。未来が見える相手に勝てる方法が思いつかない。ガーベラが刺客でなくて幸いだ。


「彼女とは闘うことになりたくないな…」

「でも、予知できても避けるだけじゃ勝てないじゃん」

ノアが言うと、エマが答える。

「こちらが次にどう動くか予知できれば、あらかじめそこに攻撃をすることができる。こちらから見れば、避けようのない攻撃を受けることになる」

「そうか…でも、こっちをエンダーの仇とか思ってないので良かったねー」

ノアの言葉を聞いてエマが言う。

「そうだな。しかし、なぜ、あいつはさっきのチンピラたちを相手にしたんだ。ほうっておいても、主殿なら簡単にあしらえるのは分かっていたはずだ。自分の力をわざわざ示す必要はないのに…」


しかし…予知などということが本当にあり得るのだろうか…



★あとがき(撮影現場にて)★


ノア:「ちわー」

ロケ弁、持ってきてくれました?

ノア:「今日からは、あたしの手作りお弁当をたべてもらうから」

おー、僕の分も作ってきてくれるのかい。

ノア:「あんたの分は作ってくるわ」

え、じゃ、ノアのお昼は?

ノア:「あたしの分のロケ弁あるし、あんたのロケ弁ももらうしー」

自分の分もついでに作ればいいのに。

ノア:「あたしが具合悪くなったら撮影にならないでしょ」

ちょ、そんな危ない弁当なのか?

ノア:「万一よ、万一」

そうだよね、そんなはずないよね。

ノア:「そうよ、あたしが何度も失敗を繰り返す分けないじゃない」

えっ、繰り返すって…

ノア:「昔の話よ、小さいことは気にしないで」

気になるんですが…

ノア:「ところで、予知能力なんて本当に可能なの?」

シュレディンガーの猫じゃないけど、未来なんてその時がこないと確定しないんじゃないかな。

ノア:「つまり分からないってこと?」

そ、予知できたとしても、予知したことで未来が変化しちゃう。つまりは予知できないのと一緒ってことかな。

ノア:「じゃ、ガーベラの予知能力ってのは架空の設定なわけね」

そこがポイントで、ガーベラの力が未来予知とは書いてないからね。

ノア:{違うの?」

ネタバレはなしでってことで…



★★ 70話は12月2日00時に投稿

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