絵本は残酷だよ、どこまでも
「こんな話、うそだ!!デタラメだ!」
怒りに任せて竜力を一気に爆発させたゼンは、手にした本を叩き付けようとしたが、
「お静かに」
ゼンの身体から力が抜け、クタンと倒れ込み、そのままソファへ沈んでいく。
管理人はそんなゼンのもとへ歩み寄ると、肩を軽く揺らした。
けれど、ゼンは目を覚まさない。
呼吸を確認した管理人は、特に気にする様子もなくゼンの真正面にあるソファへ腰を下ろし、
「全く、どうして皆様、本を乱暴に扱うのでしょうか?どんなに受け入れ難い事実や真実を見ようとも、本を投げつけて変わるはずもないのに」
管理人はそう言うと、ゼンが投げつけようとしていた本を手に取り、静かに読み始めた。
◇◇◇
神さまは、ひとりで世界を作っていました。
神さまが1番最初に作ったのがりゅうでした。
りゅうをとても大きく、とてもとても強く、かしこく作りました。
神さまは、ある日、
「りゅうよ、おまえには、私のかわりに、この世界をずっと見てほしい。
もしも世界が乱れたときは、おまえが整えるのだ」
「神さま、わかりました」
かみさまはりゅうに、ひとつの贈りものをしました。
それは、神さまとおなじように、死なずに長い長い時を生きる力でした。
こうしてりゅうは、神さまのかわりに世界をみまもるものとなりました。
ある日、りゅうの池に、とてもとても心のきれいな女の子が、遊びにきました。
りゅうはびっくりして、女の子にたずねました。
「君は、だれ?」
「わたしは、日菜乃 桜子です。あなたのお名前は?」
りゅうはこまりました。
りゅうには、名前がなかったのです。
「ボクは、名前がないんだ。神様は、ボクのことをりゅうとしか呼ばないから」
「それなら、わたしがあなたに名前をつけてあげるわ!」
桜子は少し考えると、にっこり笑いました。
「ポチ!」
「なんだか、とてもいやなひびきだから、名前はいらないよ」
りゅうはしょんぼり言うと、桜子はくすくすと笑い、
その笑顔を見ているうちに、りゅうもうれしくなりました。
「やっぱり、ボクも名前がほしい」
「わかったわ。それなら、とてもかっこいい名前をつけてあげる」
「そうね……仙一はどう?」
「せんいち?」
「そう。わたしのおにいちゃんの名前よ」
「僕だけの名前がほしい」
桜子は考えてから、紙にひとつの文字を書きました。
「それなら、仙一の『仙』を変えて、善一!」
りゅうは、紙に書かれた文字をじっと見つめました。
「なに?そのくねくねした文字は?」
「漢字よ、知らないの?」
「知らないよ」
「私の国には、たくさんの漢字があるの。わたし善一に会ってとても嬉しいから善一にしたのよ。あとね、りゅうも龍ってかっこいい漢字があるのよ」
桜子は何度も善一の池へあそびにきました。
2人はたくさん遊びたくさんお話をしました。
善一は、桜子と話すことが大好きになり、桜子も善一とあそぶことが大好きになりました。
2人はたくさん仲良くなっていきました。
仲良くなった2人に、三人の子どもが生まれました。
「神様!」
善一が空に向かって大声で、神様を呼ぶと、
神様はりゅうのもとへやってきました。
ところが、そこで神様が見たのは、自分が作ったおぼえのない、新しいしゅぞくでした。
「これは、どいうことだ?」
神様は、自分が作っていないしゅぞくを見て、びっくりして消してしまおうとしました。
けれど、善一と桜子は三人の子どもを抱きしめ、とてもとても泣きました。
「おねがいします。この子たちを消さないでください」
龍も桜子も、子どもたちを守ろうと必死でした。
そんなふたりを見て、神様は困ってしまいました。
「わたしが作ったしゅぞくではないし、桜子も私が作ってない」
りゅうは、神様が作ったものです。
桜子は、神様が作ったものではありません。
他の世界から、この世界へ呼ばれたものでした。
そんなふたりから生まれた三人の子どもたち。
神さまは、悩みました。
すると、友達の女神様が言いました。
「女の子は私の世界の子。消すのはいつでもできる。かんたんだよ」
神さまは、決めました。
「わかったよ。りゅうは僕のたいせつなものだ。女神は大事な友達だよ。生きる事をみとめよう」
三人のうち、ふたりは龍の力をとても強く受けついでいました。
そのため、神様はふたりを新しい種族
――竜人族としました。
もうひとりの子どもは、人族の姿によく似ていたので、その子が人族のなかで暮らすことを認めました。
こうして、龍と異世界人から生まれた、子供たちは、この世界で生きていくことになりました。




