3-3 驚きは続くよ、どこまでも
とある一室……
「馬鹿な!!!!ありえん!」
ドラガンは思わず声を荒げたが、
「いや・・すまん、話を続けろ」
1呼吸置いた後に、影の王は続けた。
「新王は、発動紋を所持しておりません」
「それはお前に見せていないか、伝えてないだけでは?」
「いいえ、新王本人が、焦っております。
発動紋がわからないと宰相や将軍、魔術師団長の前で言い切り、
『どうしたら良いのか』と焦り相談されておりました」
「……考えられん!
フォルデンは、もう500年近く王家が続いている、
歴史上でも稀に見る長命な王家だ」
「宰相は?宰相は発動紋が、
歴代の王の頭の中にある事を知ってる人物だ、何と言ってる?」
「はい。貴方様とほぼ同じ感じでございます。
『発動紋が無いとは信じられない』と」
「当たり前だ! 私たちはずっと疑問だった。
なぜ消えない?なぜ異世界召喚だけは今も続いている?それが、この段階で……ない…だと…?」
ドラガンの脳裏に蘇る、積み上げられた真実。
記録も、記憶も、本来ならどこかで途切れる。
革命。侵略。王の急死。災害等様々な事で、
しかし、どれほど変わっても──召喚だけは続いている。
ドラガンは思わず額を押さえた。
「何がおかしい……長命の王国でいきなり発動紋が消えるなど、
……他国の動きは?軍の動きは?闇ギルドは?ダンジョンは?」
「全て、想定の範囲内で動いております」
「…………お前の違和感は?」
「はい。2つございます」
「2つとも言え」
「はい。1つ目は、魔術師団長が、落ち着いています。
私の見立てでは、そのうち判明する……そんな感じです」
「宰相ではなく、魔術師団長か、
確か今の師団長は、クォーターだったはず」
「もう1つ、新王は、宰相に『お前がもっと私に発動紋のことを聞いていれば、こんなことにはならなかった!』と、
なぜか宰相に言っております。」
「待て、新王は、愚王並に馬鹿だったか?」
「……いえ、あの方、聡明です」
「なんだ、その違和感だらけの言葉は。
このままだと、王になる条件……いや、これはチャンスなのか…」
仕える王が、ついに王座へ近付いている。
王の影は、その手応えを感じていた。
「来月の就任式典までは特に、宰相・魔術師団長、将軍の動きを見逃すな」
「はっ!質の良い影を忍ばせております」
☆ ☆ ☆
オルスティン帝国 夕刻。
茜色に染まった帝城の回廊を、
皇帝は側近たちを従えながらゆっくりと歩いていた。
夕餉の時間が近い。
一日の政務を終えた皇帝は、
今日も執務室から食堂へ向かう途中だった。
書類を抱えた側近が、明日の予定を淡々と読み上げていく。
「――以上が明日の予定でございます」
「うむ」
皇帝は短く頷くと、不意に何かを思い出したように口を開いた。
「そういえば……息子はまだ立ち直っておらんのか?」
その問いに、一人の側近が苦笑を浮かべた。
「はい。あの日以来、公務に支障はございませんが……
以前ほどのお元気は戻っておりません」
「ほう」
「食事の量も少々減っております」
「そうか」
皇帝はそれだけ言うと、再び歩き始めた。
怒るでもなく、呆れるでもない。
「仕方のない奴じゃ」その一言だけだった。
やがて前方の回廊から、数名の護衛を従えた王太子が姿を現す。
互いに気付くと、自然と歩みを緩め王太子は止まる。
皇帝は歩みを緩めることなく、息子の前まで来る。
「父上」
「おお、ここで会うのは珍しいな」
護衛たちは一定の距離を保ったまま後方へ控え、
夕刻の回廊には侍従や文官の姿もある。
そんな中で皇帝は、まるで世間話でも始めるように
歩きながら口を開いた。
「お前、」
「はっ」
「姉を恐れすぎじゃ」
王太子の身体が僅かに強張る。
思わず周囲へ視線を走らせた。
護衛。
侍従。
廊下を歩く役人。
物陰。
柱。
誰が聞いているか分からない。
王族同士の話としては、あまりにも不用意だった。
「父上……ここは……」
「構わん」
「しかし……」
「誰が聞いても困る話ではない」
父は最初から承知している。
それでも、いや――だからこそ、この場所で話しているのだ。
「まったく、お主は……王に向いてにないヤツに怯えよって」
「……え?」
「アリアドネは、愚王じゃ」




