最終話・恋の神速フルスロットル。最高潮のビートは鳴りやまない
ロンドンと京都を結ぶ画面が消え、静けさを取り戻した中庭には、初夏の心地よい風だけが吹き抜けていた。
「さぁ、蓮真様。放課後はまだ始まったばかりよ。次はどこへ行く? 図書室? それとも、土御門の屋敷に帰って私との未来を白妙さんたちに宣言しちゃう?」
「ちょっと待って、急にアクセルを踏みすぎだって! まだ授業も残ってるし、そもそも僕は心の準備が……!」
相変わらずフルスロットルでまくし立てるエレーナと、それにタジタジになりながらも、どこか嬉しそうに腕を掴まれたままの蓮真。
二人の青春のギアは、もう誰にも止めることのできない最高回転数へと突入していた。
――そして、その遥か遠く、ロンドンにて。
通話を終えたアリスは、満足げに微笑みながらリビングのソファに深く体を預けた。そこからは、彼女と愛娘のミヤビによる「パパ争奪戦」が勃発しており、マリーを抱っこする両腕をガッチリとホールドされながら朔夜が遠い目をしている。
「ふふっ、エレーナもなかなかいい仕事をしてくれたわね。あの子ならきっと、蓮真君の『安全装置』を木端微塵にしてくれるはずよ」
アリスが愛おしそうに自身のふっくらとしたお腹に手を当てながらそう言うと、朔夜は娘のミヤビと妻のアリスという二人の「愛の猛攻」をなんとかいなして、呆れと深い愛情が入り混じった笑みを向けた。
「……やれやれ。お前のそういう『恋の伝道師』みたいなノリに巻き込まれた結果が、今の俺というわけだ。蓮真も、我が弟ながら前途多難だな」
「あら、不満なの? サクヤ。こうして私とミヤビがあなたを独占しようとしてて、さらにマリーとこれから産まれてくる赤ちゃんにも恵まれてるのに」
「……不満なわけがないだろう。お前たちがいるこの日常が、ようやく見つけた俺の居場所であり、最高の『調和』だ」
朔夜が柔らかく微笑みながらアリスの手を取り、その手の甲にそっと口づけを落とす。
大好きな妻と可愛い娘たちに囲まれ、日本を飛び出しロンドンに流れ着いた時には想像もしなかった幸せを、朔夜は噛み締めていた。
かつて孤独な『氷の死神』と呼ばれた男は、いまや世界で一番温かな家族の中心にいた。きっとこれからも、アリスの尻に敷かれながらラブラブな日常を過ごし、たくさんの子に囲まれ、仲良く年をとっていくのだろう。
「サクヤ、大好き。愛してるわ」
「アリス、俺もだ」
そして重なる、二人の唇。未来永劫変わることの無い、二人の愛の誓い。
京の都の緑深き校庭で、少女が轟かせる恋の爆音。
ロンドンの穏やかな陽光の中で、静かに重なり合う夫婦の心音。
形を変え、世代を超えて受け継がれていくのは、愛する者のためならどんなブレーキも踏み潰す、世界で一番強くて甘い「独占欲」という名の魔法。
それぞれの場所で、それぞれの全速力を誓い合いながら、二組の物語はいつまでも、終わらない最高潮のビートを刻み続けていく――。




