父の贈り物
冷たい水に手を浸し、アカギレの裂け目に染みる痛みに、私は思わず歯を食いしばった。洗濯桶の中のシーツが水を吸って重くなるたびに、手のひらの皮膚が裂け、血がにじむ。けれど、それを拭う余裕もなかった。
(痛い……でも……終わらせないと、また怒鳴られる……)
そう思いながら、硬く凍った布を何度も揉み洗いしていると、屋敷の奥から甲高い声が響いてきた。
「まあ!お母様見て!父様から手紙と……きゃあっ、贈り物が山ほど届いてるわ!」
義姉マルグリットの弾んだ声に、胸がざわつく。
「なんて素敵なのかしら。ほら、絹のストールに香水、宝石まで……まあ、こんな高価なドレスまであるわ!」
「おほほ、うちの子にぴったりじゃありませんか、ねぇ? さすがは我が夫ですわ。」
継母リディアの上機嫌な声が響く。私は手を止め、思わず息を呑んだ。父が帰還中の地から送ってきた贈り物。もしかしたら……私にも、何か……。
(そんなはず、ない。期待するだけ無駄。だって私は……)
でも、やっぱり心のどこかで、ほんの少しだけ期待していた。もし、父が私のことを……ほんの少しでも、気にかけていてくれたら。
そんな淡い希望は、次の瞬間、義姉の声によって粉々に砕かれた。
「お父様ったら、やっぱり私が一番可愛いってことね。あら、手紙の内容……『愛しい娘へ。君の笑顔を思い出しながら、贈り物を選んだ』ですって! ほらお母様、やっぱり私のことを!」
「ええ、ええ。アメリアなんて名前はどこにもありませんわ。まぁ当然ですけれどね。あの子に贈る価値なんてあるはずがないじゃありませんか。」
笑い声が突き刺さるように洗濯場まで届いてきた。
(やっぱり……そうだったんだ……)
涙が頬を伝うのを止められなかった。冷たい水より、痛む手より、何よりも――父の名前を呼ぶことさえ許されなかった、その現実が痛かった。
すると、背後から使用人の女中が鼻で笑った。
「アンタには無理よ、最初から。旦那様には奥様やお嬢様のような“本当の家族”がいるのよ。アンタは……ただの失敗作よ。」
「そうそう。いたっていなくたって、変わりゃしないってね。掃除と洗濯だけしてりゃ十分。」
違う。私は、娘のはずなのに。父の――愛された娘だったはずなのに。
(でも……誰も、そうは思っていない……誰も……)
心が砕けたような音がした。誰にも聞こえなかったけれど、私の中で何かが壊れて、静かに崩れていった。




