気づいちゃいました
転生していたことに気づいた主人公は果たして自分の力で幸せを掴めるのか?!
冷たい石畳に額を打ちつけた瞬間、鈍い衝撃が頭の奥に響いた。視界が滲み、世界の輪郭がぐにゃりと歪む。頬に伝うのは血か涙か。わからない。ただ、響き渡る甲高い笑い声だけが耳に焼き付いて離れなかった。
「まあ、ご覧なさい、マルグリット。アメリアったらまた転んで、泥だらけよ。ああ、恥ずかしいったらありゃしない。」
「本当よ、お母様。あれじゃまるで乞食じゃない。お父様の顔に泥を塗るとはこのことだわ。」
継母リディアの冷たく澄んだ声、そして姉マルグリットの嘲笑。石畳の冷たさより、その声の方が私の体に鋭く突き刺さった。
私は、アメリア・フォン・グレイスフィールド。伯爵家の次女……のはずだった。けれど、この家での私の立場は名ばかりの令嬢。日々、継母と姉に召使いのように扱われ、命じられるままに朝から晩まで雑用に追われる。屋敷の誰もが、そんな私を見ても目をそらし、見て見ぬふりをするだけだった。それだけならまだしも、義母や義姉とともに嫌がらせまてしてくる使用人すらいた。
「立ちなさいよ、アメリア。いつまでそのみっともない格好でいるつもり? ほら、掃除がまだ残ってるんでしょ?」
マルグリットの足先が私の肩を小突いた。その勢いで再び頭が石に当たる。ゴツリと鈍い音がして、今度は本当に意識が遠のきかけた。
……暗闇の中で、私は夢とも記憶ともつかない光景を見た。
高くそびえるビル群。人で賑わう交差点。携帯電話を握りしめ、誰かと笑い合う自分。そして、交通事故の瞬間。響くクラクション。砕けるガラスの音。視界を覆う赤と黒の混じった色。
(そうだ……私は、死んだんだ……)
あの世界で確かに命を落とした。ならば、ここは……?
ハッと目を開ける。見慣れたはずの灰色の空が、今はまるで別の世界のように感じられた。
「……転生、していたの……?」
小さくつぶやく声は、風に紛れて誰の耳にも届かなかった。
私は震える手で地面を押し、ゆっくりと立ち上がった。膝は泥だらけ、袖はほつれ、髪も埃まみれ。それでも、この瞬間から私は変わる。いや、変わらなくてはならない。
(私はただの令嬢じゃない。私は……日本での知識と記憶を持つ、アメリアだ。)
心の奥に小さな炎が灯ったのを、私は確かに感じた。




