1.ニューゲーム
どうも、俺は転生者です。
今どき流行りのトラックに引かれて異世界転生する系の人間です。
いやおかしいだろ。
異世界転生は漫画や小説やアニメだけにしとけよ、なんだよ異世界転生て。
さて、普通の漫画やアニメ、なろう系小説ならここでチート系能力を手に入れて異世界生活を謳歌する話が始まるのだが、俺が転生したのはとあるエロゲー。
それは【対魔師】と呼ばれるエロゲーで、ここでは主人公とヒロインによるハーレムハッピーENDとヒロイン達が全員NTRバットENDがある。
ここではNTRENDでも幸せENDでも寝取りキャラである主人公の同級生の極道 薬覚をぶっ殺せます。
さて、俺の転生先はと言うとその寝取りキャラである極道 薬覚です。
もう一度死ねと?
詰みです、どうしようもできません、死んでやり直してください。
諦めるのは早いって?
バカ言っちゃ行けません、なんとこの極道 薬覚くんの死亡ルートはなんと1000ルートあります、1000個です。
病死、事故死、殺害、毒殺、裏切り、撲殺、呪殺、様々な死に方のフルコースメニューが味わえます、良かったね。ざっけんな。
もうね、このゲーム寝取りキャラは絶対悪とでも言いたげなくらい殺意がヤッバイのよ。
普通にやってたら絶対主人公のハーレムハッピーEND行くもん。
バットエンドとかまーじで難しい。裏ボスと戦ったり、隠しキャラ見つけたり、隠しアイテム隠しクエスト、もう隠された全て見つけなきゃ普通無理。
ちなみにヒロインの好感度が低い状態で主人公が性行為を行おうとするヒロインは死にます。
はい、寝取られる訳ではありません、死にます。
もうアホ、俺にどないせーちゅうねん。
ヒロイン味方に付けられません、主人公が殺しに来ます、そうでなくても一歩間違えれば死のフルコースメニュー(強制)が来ます。
神様はあれか、もう一度俺に死ねっちゅうことですか?俺なんかした?したんだよね、前世で。
「それで、もう一度聞くよ?君の名前は?」
「極道 薬覚です」
「ふざけてるね?」
「俺もそう思います。主に名ずけ親が」
俺は今警察に事情聴取を受けています。
なぜかと言えば、まず見た目。
俺は昔親に虐待を受け、小中で虐め(過激)をていたため身体中に傷があり、身長が186cmと日本人ではだいぶ高めでガタイも良く、何より目付きがめちゃくちゃ悪い。
こんなどう見ても堅気に見えない男が学生服を着て駅の前でウロウロしてたらそりゃぁ警察に声かけられる。
で、名前を聞かれて名前を言ったら偽名だと疑われてる。
当たり前だ、なんだ極道 薬覚って、どう考えてもふざけてんだろ。
名ずけ親であるクソ親父に会ったらぶん殴ってやりたいが、あいにく俺の親は2人とも死んでる。
「何やってんだ?」
「あ、おじちゃん」
「時間になっても来ないから心配したぞ。約束の物はできてるぞ」
すると目の前のドーナッツ屋の店員であるおじさんが店の扉を開けて声をかける。
「・・・・とりあえず薬物検査をさせてもらう。それとこの店を調査させてもらう」
「は?」
おじさんが困惑した顔で警察を見る。
まぁ当然だ。
駅前のドーナッツ屋の店員がジェイソン・ステイサムみたいな顔のオヤジだったら普通に疑う。
しかもその周りをウロウロしてたのが俺となれば尚更だ。
「ま、待ってくれ。俺はただおすすめのドーナッツを買いに来ただけだ」
「そうかそうか、とりあえずトイレ行こっか」
「ねぇ話聞いて」
月に1回くらいはこんな感じだ。
正直とても辛い。
警察官は逃がさない様俺の肩に置いた手に力を込める。
このまま振り払ってもいいが、そんなことできるわけがない。
相手は国家権力だぞ、無理に決まってんだろ。
「待ちなさい」
そこで少し中年の警察官が小走りでこちらに向かってくる。
「はぁ、やっぱりか」
「部長、こいつらが───」
「離してやりなさい」
「え?」
「離しなさいと言ったんだ」
「は、はい」
中年の警察官が少し怒気を孕んだ声で言うと警察官は俺から手を離す。
「ですが部長!この男はさっきっからふざけた偽名を使い、こちらの───」
「本名だよ」
「え?」
「極道 薬覚、れっきとした彼の本名だ。以前私が彼のマイナンバーカードを見て確認済みだ」
「え、本当に?え?」
そんな困惑した顔で俺の顔を見ないでくれ。
こんな名前にされたことを俺が一番困惑してるんだ。
「そこの店員も、この店の店長で10年以上勤めてる。彼の見た目はあれだがただのドーナッツ好きのドーナッツ屋の店長だ。店の中を調査しても何も出てこんぞ」
「あの筋肉と顔で?カタギ?2人とも?」
「見た目で判断しては行けない、と言いたいところだが、君の気持ちはよくわかる」
分からないでくれよ。
「彼は週に一回、高校の帰りにここでドーナッツを買って帰るんだ」
「ですがずっと彼は店の中に入らずウロウロとして怪しい行動をしていました!後ろめたいことがなければすぐに入店するはずです!」
「子供連れが居たのだろう。彼のあの顔付きと身体だ、小さい子供が怖がらないよう気を使ったのだろう」
結構この店は人気で、店長も優しいと評判があるが、俺はそうではない。
知らない人から見れば普通に怖いし、初対面の子供は俺の顔を見れば確実に泣く。
この店にあまり迷惑をかけたくなかったから俺は客が居なくなるタイミングを見計らっていた。
たしかに知らない人が見れば怪しく思うのは無理もない。
「そ、そうだったんですか・・・・」
「君はここに配属されたばかりだからな、仕方がない。しかし間違いとはいえ君は彼らにとても失礼なことをした、それは分かっているね」
「は、はい!も、申し訳ありません!」
警察官は俺と店長に向かって深々と頭を下げた。
「何、気にするな。良かったらこれ、食ってくれ」
そう言ってどこからともなく取り出したドーナッツが入った箱を差し出す。
「君らも仕事だからな、仕方ない事だ俺は気にしてない」
「俺は慣れた」
「あ、ありがとうございます!」
そう言って再び頭を下げる警察官。
中年の警察官は「よく指導しておくよ」と言ってドーナッツと部下の警察官を連れて署に戻って行った。
「あぁ、それとこれ、頼まれてた新作ドーナッツとこの店のおすすめドーナッツ詰め合わせセット」
そう言って差し出されたドーナッツの詰め合わせセットを俺は受け取ると、財布を取り出し金を払う。
「それじゃぁ、また来週買いに来るよ」
「おう、いつでも待ってるよ」
そう言って俺は家に帰った。
なんかどっと疲れた気がする。
▱▱▱▱▱
俺の親は2人とも死んでる。
親父はバカやって死刑、母親は自殺。
このゲームには極道野細かい設定などはなく、物語でも彼の私生活が描かれる描写はほとんどない。
だから、極道がどのような人生を辿り、今のキャラ付けをされたのか全くわからなかったが、ろくな人生ではない。
小学校の頃からクラスメイトからはいじめを受け、大人からは腫れ物扱い、母親は狂い、何度も包丁を振り回し俺を殺そうとしていた。
原因は大人達がずっと影で話していた。
殺人鬼の息子。
調べれば出るわ出るわ。
無差別殺人鬼、趣味で人を殺すクソッタレ。
そのくせ穏やかな人生を送りたいだとか抜かすカス野郎。
どこぞのキラかよ。
勘弁してくれ、そんな頭のイカれた殺人鬼なんぞ創作の世界で十分だ。あ、これも創作の世界か。
そんなわけで親戚の金持ちの家に引き取られ、今はこのボロアパートに一人暮らし。
唯一の親戚の繋がりと言えばこの毎日銀行に振り込まれる多額の金だ。
貰える金なら喜んで俺は貰うし、使わせてもらう。
だが別に欲しいものといえば本くらいで、他に欲しいものも特にない。
俺の住むアパートは布団がひとつと、差しっぱなしのスマホの充電器、小さな冷蔵庫と少ない食器、そして本の置かれた棚と最低限の服しか入っていないタンスのみ。
なんとも寂しい部屋だ。
寂しい部屋のはずなのだ。
「お、帰ったか!」
「ドーナッツ、買ってきたぞ」
「どーなつ!」
真っ白な髪をなびかせ、黄金色の瞳が光る、小さな少女。
だが普通の少女ではありえない、大きな狐の耳と尻尾。
このゲームのヒロインの1人である天狐と呼ばれるキャラだ。
俺の人生詰みです、いつも死の恐怖に脅えて眠れません。
衣装もエロゲーなので所々露出した巫女服で、何故か横乳から二の腕まで露出し、二の腕から新しい裾がある。
そして下の布がチャイナ服みたいになっているため脚はほぼ丸出しの状態だ。
そんなエロゲーのヒロインは天狐は嬉しそうにドーナッツの入った箱を受け取るとそのまま中身を見て嬉しそうに柔らかい笑みを浮かべる。
「食べて良いか?良いか?」
「ダメだ」
「こやッ!?」
「ドーナッツは晩御飯食べてから」
「こやぁ··········」
そんな可愛い顔して両耳倒してもダメなもんはダメ。
そうして俺はドーナッツの入った箱を取り上げると、ドーナッツを冷蔵庫に仕舞い、手を洗うと晩飯の支度に取り掛かる。
「今日は我が作る!」
「そう言って電子レンジとグリルダメにしたばかりだろ」
「こやぁ··········」
また露骨にションボリする天狐。
俺は天狐の頭を撫で、台所から下げる。
なぜこの神様が主人公の元ではなく俺の元で居候しているかと言うと、それは数ヶ月前に遡る。




