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ある日突然『魔女』になりまして  作者: 灰羽アリス
第二章 目撃者をつくろう
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3 赤星くんは目撃した


「というわけで、トイレの花子さん探しは失敗しましたが、次回のUFOの撮影は頑張りましょう。あー、うん。写真部からカメラ借りるのは先生がやっとくから。さ、帰った帰った~」


 超常現象検証部の活動をそう締めくくると、ひなこちゃんはテンパの髪を揺らして俺らを正門から追い出した。


「どうしたんだろ、ひなこちゃん。今日のシメはいつも以上にテキトーだったな」


「デートじゃん?」

 

 俺が言うと、坊主頭の小林は「ないない」と笑った。「だってひなこちゃんだぜ?」


 だよなー、と俺も思う。いつも色気のないねずみ色のパンツスーツ姿で、髪を結ぶゴムは黒。んで、化粧けのない顔に黒ぶちメガネ。ぱっと見、めちゃくちゃ地味だ。男っ気も当然のようにゼロ。

 だけど、良く見れば顔のパーツは小づくりだけど整ってるし、肌キレーだし、レンズの奥の目は薄い茶色。たぶん、あれは化けるタイプだぜ? 誰も気づいてないけどさ。

 それと、たまの笑顔もけっこうぐっとくる。右の頬だけえくぼができるんだ。


「ていうか、赤星が部活出てくるとは思わなかったな」


 小林の呟きに、「なんでだよ」と俺は笑う。


「部活出ないと三浦サンと話せないでしょ」


「やっぱ斎藤、三浦狙いでうち入ってきたんか。不思議だったんだよな。お前、UFOとか興味なさそうだし」


「運動部のほうがお似合いだって? それは偏見ですよ、小林くん」


「いや、お前の赤髪じゃあ、運動部は無理だろ。しかしまあ、どんな理由であれ赤星が入ってくれて助かったよ。俺たち5人だけじゃ部の存続が危うかったからな」


「でも俺3年生だし、あと二か月くらいで引退だけど?」


「それは俺もだ。来年の1年に期待だなー」

 

 T字路で小林と別れて、俺は西公園のトンネルの方へ走った。三浦サンとはもうすぐ付き合えそうなので、引退を待たず超常部とはお別れになりそうだ。


「ニャー」


 トンネルの入り口から横に逸れたくぼみに、三日前から面倒を見てる子猫がいる。

 今日も腹をすかせて俺を待っていたらしい。段ボールを転げ出て、俺の制服の足に爪をひっかけてのぼってくる。


「待ってな。いま缶詰出してやるから」


 缶詰の臭い魚肉を紙皿に出してほぐしてやると、子猫は勢いよくかぶりついた。黒ぶちの背中を撫でる。家で飼ってやれたらいいんだけどな。俺んち母さんが猫アレルギーだから。ごめんな。


「水も飲めよ」


 短く切った紙コップにペットボトルの水を注いでいると、背後から話し声が聞こえた。


「ぜったい行きます! 楽しみです!!」


「ははっ、嬉しいな」


 ひなこちゃんと英語の中村……?


『デートじゃん?』


 嘘だろ、あいつら付き合ってんの? てかひなこちゃん、彼氏相手だとあんなふうに笑うんだな。なんか可愛いし、むかつく。


 ───尾行しよ。


 オハナシに夢中なふたりは、トンネルの入口付近に隠れる俺の存在に気付かない。

 あーあー、先生たち。学校の近くでデートはまずいぜ。悪い生徒に動画撮られちゃうよっと。


 ピコン。スマホの動画が起動する。俺はレンズを二人の背中に向けた。

そのときだ。

 先生たちの向こう、暗がりから何か黒いものが這い出てきた。


「なに、あれ」


 俺は気づいてしまった。闇の中に見えるふたつの金の光。あれは―――目だ。巨大な怪物の、目。

 ドクン、と心臓が跳ねた。

 黒い怪物が先生たちに飛びかかる。


「ひなこちゃ……!」


 俺は恐怖におののき、その場に尻餅をついた。スマホも取り落としてしまう。スマホが地面を打ったその音で、怪物が俺の存在に気付いてしまったんじゃないか。いまにあの怪物が飛びかかってくるんじゃないかと思うと、まともに息もできない。

 逃げなきゃ。先生たちも、食べられちまう。だけど、ひなこちゃんは逃げなかった。それどころか、中センを守るように怪物の前に立ちはだかる。何やってんだよ!

 

「〝魔女の牢獄〟」


 のほほんとした普段のひなこちゃんとはまるで違う、厳かな声。

呪文めいたその掛け声を合図にするように、ひなこちゃんの影が動いた。怪物に向けて鋭く伸びあがっていく黒い影は怪物の毛色よろりもまだ黒い。その闇を煮詰めたような影が、怪物の体を這い上がり締め上げていく。


「ンギャーーーー!!!」


 怪物の絶叫が響き渡り、かと思えば、その巨体がズドンと地面に倒れた。

 気づけばひなこちゃんはほうきを握っていた。慣れた動作でまたがると……うそだろ、浮いた!? てか、ほうきで空飛ぶって魔女かよ!!

 ひなこちゃんが振り向いた。


「中村先生、さあ早く!」


 しかし中センからの返事はない。当たり前だ。だって気絶してるんだから。


「えー! ちょ、中村先生! 先生! うそでしょ、いつから気絶してたの?」


「だいぶ最初から。怪物が現れたあたり」


 しなやかな身体つきの黒猫が、中センの胸の上に座った。

 あれ、怪物が消えてる。どこ行ったんだろ……? 

 いや、それよりも。この猫、いましゃべったよね!?


 まずい。俺はこの光景を、見てはいけなかったんだ。逃げなきゃ、消される。口封じに。黒い怪物をいとも簡単に撃退してみせたひなこちゃんだ。俺を殺すなど容易い。くそ、なんでうちの担任が? 平々凡々のひなこちゃんのはずだろ!

 俺はじりじりと後退を始めた。


「ちょっと~~~、なんで教えてくんないのよジジ。戦う必要なかったじゃん!」


「やー、俺もなんか楽しくなっちゃってさ。つい続けちまった。めんご」


「チッ、作戦失敗か」


「ねー、ママ。こっち見てるひとがいるよ」


「え゛?」


 やべ、バレた。

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