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お狐様の恋愛事情  作者: 橙矢雛都
第2章 家族の絆
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小話8 意見の持ち寄り、考察会


小話その8になります。

管原家の旅行中、稀莉、文月丸、黒羽の3人の会話。






~*~



「あの、例えばなんですけど」



そう口を開いたのは稀莉だった。

今日は母と妹が、それぞれの友人を招いており、家で術の練習をすることができない。一般の人たちなので、万が一にも見られるわけにはいかないのだ。

ちょうど黒羽が文月丸の元へ行くというので、それに同行させてもらうことにした。

文月丸の住む穂積山。そこにあるお社は普通の人は入ってこられない。見られる心配はないので都合がよかった。



「孝平くん… 穂香先輩の弟さん、何かに憑かれているってことありませんか?」

「ありえなくはないが…」

「でも、それなら文の兄貴も俺も気づけるはずなんだけど…」



稀莉は修業の為だけに来たわけではなかった。

この3人で、穂香の弟の孝平のことについて話し合いたかったのだ。

穂香がいない今、第三者同士の目線で考えられる可能性を出し合おうと思った。

きっと、もう… 時間はほとんどない。

自分の妹が朧げにもそう予知したからというのもある。



「じゃあ文月丸様たちでも気づけない可能性は?」

「通常ならない。ただ、千年以上の年月を生き、この土地に100年以上住んだことのある存在なら分からんが…」

「何かいるのは確かですよね。…それが()()()()状態なのか怪しいところだけど」

「どういうこと? 何か違うの?」

「たぶん、だけど… あれは憑いてるというより融合や乗っ取りに近いと思う」



黒羽の言葉を聞いて、稀莉は喉の奥がヒュッとなった。

家にある書物を読み込み、その意味を理解しているからだ。

融合と乗っ取りでは意味が違うが、()()()()()()()()()()という点は同じ。それが、孝平に起きているという。

大好きな先輩の弟だし、稀莉自身も中学の頃に交流したことのある顔見知り。ほっとけるわけがなかった。

だから、どうにかするために話し合う。考える。



「とりあえずは、考えられる可能性を全て出して俺らで共有。後は様子見ぐらいしかできないね。相手の正体が見えないっていうのが怖いなぁ」

「不透明にもほどがあるな。…あの弟と面と向かって言葉を交わしたことがあるわけでもないから確信は持てぬが…」

「何か引っかかることでもあるんですか?」

「前に穂香の部屋に行った時…」

「ちょっと待ってください。……部屋? 行ったんですか??」

「稀莉ちゃん、食いつくとこそこ?」



とても重要なことを話しているようで、所々脱線する。

楽観視しているわけではないけど悲観しているわけでもない。

問題ではあるが、絶対に何とかする、きっと大丈夫。そう思っている。

この3人の、どうにかしたいの気持ちは同じなのだ。



「穂香の弟の部屋から感じた微かな気配。覚えがあるような気がしてな。じゃが、穂実は死んでからのものではない。穂実が生きていた頃、出会う前なのか後なのかは分からぬ」

「それって、穂実を狙っていたってことですか?」

「可能性としてはあるじゃろう」



確定ではなく可能性。

けれど稀莉としてはそれでほぼ確定なのではと思ってしまう。

長く生きている分、粘着質。そういう妖を稀莉は見たことがあるからだった。

そんな粘着質な妖のせいで、稀莉は一時妖と関わるのを拒否していたのだ。


祖母がいなかったら、死にたいと思っていたかもしれない。

その時は祖母が何とかしたのだが、稀莉はそれがどれほど厄介なのかを知っている。

もしも、同じような粘着質な妖なら。

祖母はどのような対応をしていたか。朧げな記憶を思い出し、手繰り寄せようと必死になる。

もしかしたら資料として残しているかもしれないと思い、帰ったら探してみることにして、そのことは一旦おいておくことにした。



「穂香先輩自身には何の変化もないように見えます。孝平くんとは会うことがないのでなんとも言えませんが… そもそもで彼、必要以上に人と関わりを持とうとしないんですよね」

「ほう…… 人見知りか?」

「いや、コミュニケーション能力はある方だと思いますよ。1年間だけ同じ学校にいたのでそれとなくは見てたんですけど、浅すぎず深すぎずの立ち位置を保ってるっていうか… 上手いんですよね、その辺の調節が」

「聞いてる限りじゃ普通の子だと思うけれどねぇ~… でも隠し事とか得意そうだ」

「あ、それあるかも。何考えてるのか分からないってよく言われてたの聞いたことある」



孝平の評判というのは決して悪くはなかった。

人付き合いが悪い、何考えてるのか分からないなどという小さな不評はあるが、性格は周りに受け入れられていた。

そもそもで外見がいいから、それに口数が少ないことがプラスに働いていて女子人気がすごい。

本人は何とも思っていないけれど。



「…いつからなんでしょうね」



ぽつりと稀莉が言葉を漏らす。

孝平の中に何かがいるのは確定で、ならばいつからその状態なのか。

この夏に見えるようになった穂香が知っているはずもなく。こんなことなら中学の時にもっと交流しておけばよかったと、稀莉は今更だが後悔せざるを得なかった。


もっと、ずっと前からだとして。

孝平が生まれた瞬間からそうだとして。

物事を仮定して予想していっても、仮定した先ですぐに躓いた。孝平の中の妖がどういうつもりなのか、全く予想できなかったからだ。



「そもそもソイツは、良いヤツなんすかね。それとも悪いヤツなんすかね」

「その妖の良し悪しか…」



黒羽の言葉を受けて、稀莉は更に仮定を重ねる。


もしも、良いヤツだとして。

それならば危惧しているような問題にはならないだろう。

孝平の今後や体調云々には問題が残るが、少なくとも1番被害が出てほしくない穂香は無事なはず。

もしも、悪いヤツだとして。

穂実を狙っていた妖ならば、今世で穂香を狙うのは理解できるというもの。

だが、穂実ではなく穂香を狙う理由は。


知識や実力は、穂香はまだ穂実には及んでいないが、潜在能力は妖界全体で見ても断トツである。

力をつけてしまった穂香を狙うのは難しくなってしまう。



「まさか、その為に孝平くんを…」

「…それが、1番あり得るよね」

「穂香の大切な人の中でも1番近しく、1番抵抗されにくそうな人材を選んだということか」



3人が出した答えは、孝平は穂香に対しての“人質”だということだった。

確かに家族の中でも孝平は、穂香にとって親よりも近しい存在だといえた。

孝平自身も霊力が良質で、潜在能力はとても高い。でも宝の持ち腐れ状態で逆に相手に利用されてしまっている。

穂香に対しての人質となればこれほどの存在はいないとも言えた。



「私、帰ったらおばあちゃんの残した資料を読み漁ってみます。()()()()()を探さなきゃいけないし…」

「そうだな… 我も方法がないことはないが、我がやれる方法では穂香の弟は無事ではすまんだろう」

「霊能協会に属してた稀莉ちゃんのおばあちゃんなら何か有益な方法を残してるかもしれない。文の兄貴がやる時は最終手段って感じですね」

「急ぎますね」



とりあえず、やることは決まった。

穂香の為に。そして穂香が守ろうとしているものの為に。

善は急げというように、稀莉は軽く挨拶をして急ぎ帰宅するために駆けていった。


自分のやれることなんて、たかがしれているかもしれない。

だとしてもだ。出来ないを理由に諦めたくないし、諦めてはいけない。

稀莉が進もうとしている道は、そういう道なのだ。

今この時、穂香の為に何も出来なければ… 彼の為にもっと何も出来なくなるのだ。



「稀莉ちゃん。送ってくよ」



ふわりと稀莉の身体が浮いた。

黒羽に抱き抱えられて飛んでいる。瞬間移動が使える黒羽だが、最近は空の散歩を楽しむのが2人の間でブームとなっている。

もっとも、今は楽しむ余裕はあまりないのだが。



「穂香ちゃんの為に頑張るのは稀莉ちゃんの良いところだけど、無理はしないでね」

「…ありがとう。でも、これは穂香先輩の為でもあって、私の為でもあるの。それに… 今後はこういうことへの対処とか、増えると思うし」

「………」

「クロ、私は力をつけたいの。貴方の為にも」

「…俺に手伝えることあったら、言ってね」



稀莉を抱える腕に力が入る。

頼るばかりではいられない。自分も、何かできることを。

そう思って黒羽はあることを思い出し、行動しようとしていた。





ちょっとした補足。


空の散歩がブームの稀莉と黒羽ですが、そういう術を付与した物を身に付けているので、空を飛んでいてもその姿が見られることはない。

たまに見える人には見られることはあるが、一般の人には見えていない。



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