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第二十二話 襲撃

 かがり火がパチパチとリズム良く音を鳴らして、遠くから虫の音も聞こえてくる。村でも眠れない夜には窓辺に腰かけて、同じようにこの穏やかな夜を楽しんでいた覚えがある。

 イヨイはどこまで行ったのだろうか、少し帰りが遅い気がする。心配なので探しに行きたい気持ちもあるが、シクナを任された身なので、ぐっと我慢する。まあ、俺より遥かにしっかりとしているし、その上ものすごく強いのだから心配もいらないか。

 月も堪能したことだし、そろそろシクナの横で眠ろうかなと伸びをしたその時、遠くに見える町の中から光が発せられた。

 不自然な光に何事かと町の方に注目すると連続で、パッ、パッ、と青白い光が発せられる。そして、それに対抗するように黒い火柱が暗い空に昇った。

 イヨイか? 街中で何故? 何かと戦っているのか?

 疑問が次々と湧いてくるがこの目で確かめないと答えはわからない。すぐに向かおうと身体が動き始めた直後にすぐ近くで、パーン! と乾いた音が響いた。

 俺はその音に反応して動きを止める。今度はなんだ、と思うとすぐにテントがたくさん張られた野営地全体に聞かせるように男の大声が張り上げられた。


「全員テントから出ろ! 身を屈めながらゆっくりとここに集まれ!」


 その声のあとに野営地の至る所で悲鳴があがる。ただ事ではないと察した俺はひとまず馬車の荷台に身を隠す。

 幌にナイフで切れ目を入れて辺りの様子を窺うと、見覚えのある、忘れもしない格好をした男が目に入る。黒いフードを被り目と鼻の辺りを覆う白い仮面を着けた男だ。それも複数いて全員が拳銃を持っているように見えた。

 連中は次々とテントを開けて中にいる人達を外に出して野営地の広場に集めている。何故急に連中がここに現れてこのようなことを始めたのかはわからないが、この状況を打破して一人でも生け捕りに出来れば何か有用な情報が得られるかもしれない。俺は息を潜めて機を窺った。

 すると、連中の一人がこちらに近づいて来た。馬車の中に居る俺に気づかず、シクナが眠るテントを開けようとする。

 まずい! と思った時には身体は動いており、馬車から飛び出した俺はその男を文字通り殴り飛ばした。


「な、なんだお前は!」


 背後から声があがる。振り返ると拳銃を構えた連中の一人が居た。

 しっかりと見つかってしまった。もうあとは野となれ山となれだ――、一気に片付ける!

 拳銃を向けられているのを気にも留めず、俺はその男に向かって駆け出した。おそらく男にとって俺が予想していた動きに反したのだろう。人間離れした速さで向かって来た俺に銃弾を放つことも出来ずに鳩尾を殴られ気絶した。そして、男が気絶したその場は連中が人々を集めていた広場から丸見えである。先ほどの声でこちらに気が向いていた連中は一瞬で仲間が倒される現場を目撃することになった。


「う、動くな! 手を頭に置いて地面に伏せろ!」


 もちろんそんな言葉を聞くはずもなく、次に近場に居た一人を同じように気絶させる。


「ちっ! おい! こっちにはこれだけ人質がいるんだ! おとなしく言うことを聞け!」


 連中は銃口を俺にではなく、膝を地につけて震える人々に向けた。それにより悲鳴があがる。


「わかった! おとなしくする!」


 俺は両手を挙げて無抵抗の意を示す。

 見たところ連中は残り五人。人々を中心に円を描くようににそれぞれ距離を取って立っているので被害を出さずに全員倒すことは難しい。


「よおし、動くなよ。おい、念のためだ、二九六番を呼んでおけ」


「ああ、わかった」


 そんなやり取りをした連中の一人、俺から見て円の左側にいる男が銃を下して懐からこぶし大の物を取り出す。――魔晶石か。

 一瞬、魔晶石を取り出した一人に他の四人が目を向けた。その瞬間を狙って、女子供が大半を占める人々の中から二人の男性が同時に奥側の男二人を後ろに押し倒した。

 ――今だ。

 押し倒された二人の男に他の三人が目をやった隙を見逃さず、俺は一気に広場の中に飛び込んだ。

 連続した発砲音が響く中、俺は手前に居た男を素早く殴り倒す。それに気づいた右側の男が銃口を人々に向けようとしたので、腰に携えていたナイフを引き抜いてその男に投げつけて見事、額の中央に命中した。そして、人々の中に居た勇敢な男性達に押し倒された男二人が立ち上がる。俺は、もう一つ腰に携えていた剣を抜いて地を強く蹴ると、膝をつく人々を飛び越えた。状況を理解しきれていない二人の男が銃口を再び人々に向ける前に首を跳ね飛ばすと、撃たれた箇所から血を流して地面に伏す二人の男性の隣に頭部と胴体を転がした。

 一瞬の出来事に騒がしいほどの悲鳴があがる。人々の一人が立ち上がりその場から逃げ出すと、それに続いて次々と人々が逃げ惑う。


「く、くそ! おい! 聞こえているな、二九六番! 全員殺せ! わかったか! 全員――」


 魔晶石を持った最後の男を俺は素早く駆けて間合いに入ると、先ほどの男達と同様に頭部を胴体から切り離した。

 これで全員片付いたか。未だ収拾がつかない人々だが、放っておくしかないだろう。おそらく俺も恐怖の対象として見られているはずなので下手に声をかければ余計に混乱するかもしれない。時間に解決してもらおう。

 しかし、最後の一人は魔晶石に向かって不吉なことを叫んでいた。二百九十六番という存在に全員殺せと命じていた。この番号が何なのか俺は知っている。おそらく――、


 バババババババババババババーン!


 長く連続した激しい銃声が鳴り響く。俺は考えるよりも早く身体が動き、横に飛び込んだ。銃声の残響だけが辺りに残り、人々の悲鳴が消えた。

 何が起こったのか。俺は地に伏した状態で頭だけ動かして周囲の様子を探ると、先ほどまで逃げ惑っていた人々が同じ視線にいるのがわかった。俺と違うのは皆一様に頭部から赤い血を垂れ流している。一瞬であれだけ居た人々を? いや、何故それが出来たかはわかっている。銃弾は上空から降り注いできたのだ。現に俺の立っていた場所の地面には弾痕が残っている。今は下手に動かないのが賢明か。

 などと状況を整理していると、静かになった広場に軽い足音が鳴る。顔をあげれないので、姿は確認できない。

 俺はしばらく待って、足音が最も近くなる瞬間を狙って素早く起き上がると同時に音の主に斬りかかった。そこには黒いコートにフードを被った小さな人影が一人。

 斬るのを一瞬戸惑った俺に、その人影は手に持った二丁の拳銃を俺に向けると遠慮なく発砲する。それを横に転がって回避すると同時にその人影から距離を取った。


「あれー、おかしいな? 俺様の銃弾から二度も逃げる奴がいるなんて。――少しは楽しませてくれそうじゃん」


 俺は剣を前に構えて、そう口にした人影をよく見ると、左目に眼帯をした少女の姿があった。この子は昼間、町で出会った少女ではないか。俺は驚きで少し動揺する。

 そんな俺の隙を見逃さず、またもや遠慮なしに俺に銃弾を放ってくる。動揺はしたが、銃の動きには警戒していたので素早く膝を折って俺の額に目掛けて飛んできた弾丸をかわした。すると、少女はさらに楽しそうに、


「あっはっは! 三度もかわしやがった! いいねえ! 動かねえ的を撃っても楽しくねえ。その調子で頼むぜ!」


 この子もイヨイと同じように魔晶石によって操られているのだろうか。それにしてはイヨイの時と違って言動がしっかりとしている。しかし、この子が最初の銃撃から考えて魔晶の力を持っているのと俺を殺そうとしているのはハッキリとしている。逃げてばかりもいられない。

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