Nine day 失態 hope こうさかと打っただけで高坂桐乃が出てくるんだ。これは恐ろしいことじゃないかね。
Nine day 失態 hope こうさかと打っただけで高坂桐乃が出てくるんだ。これは恐ろしいことじゃないかね。
朝、ガチャガチャという音で目を覚ます。何事か、と思い目を台所に向けると、そこには波風がいた。その背中は美しい。しっかりと背筋を伸ばした、すらりとした後姿は日本人の美を感じる。赤い髪も縮れ毛ではなく、黒髪のようにまっすぐで色艶がある。思わず見とれてしまう。あれは芸術品の域だ。そんな芸術品が俺の目の前で生きているのだから、俺は幸せ者としか言えない。まあ、別に俺の物でもないからな。
「悪い。」
「悪いと思っているなら、手伝ったらどうなの?」
開口一番そうである。でも、ホントにあの波風が朝起きて食事をしているなんてな。今は恐らく昨日の俺と由実の食器を洗っている。
俺は波風を手伝おうとしたが、断られる。
「足手まといよ。」
とのこと。まあ、波風なりの気の使い方なのか。とりあえず、俺は言う。
「おはよう。」
「気持ち悪いわね。」
まさか、あいさつをして気持ち悪いといわれるとは思わなかったよ。
「おはよう。」
でも、すぐに返してくる。
「起こして悪かったわね。」
「俺こそ、早起きできずにすまん。おかしいな。やっぱり壊れたのか。」
別の目覚ましを持ってきたんだが、どうも調子が良くないらしい。設定した時間から、三十分も遅れている。
「あなた、いつもこんな時間に起きてたの?」
「そうだけど。」
「そう。大変ね。」
まさか、波風からそんな言葉がかけられるとは思っても見なかったので、俺は夢でも見ているのだと思った。
「早く練習試合を終わらせなさい。仏のような私の心も、今週いっぱいが限界よ。」
「仏のような、のところは保留にしておくが、やっぱりお前、いいやつだな。心が広いな。菩薩様だな。」
とにかく褒めちぎっておく。
「褒めても何も出ないわよ。いい?本当に今だけなんだから。」
照れ隠しなのか、息を大きく吐いて言う。その割に、手元が狂ったのか、台所から食器がぶつかる音がする。
「みんなをそろそろ起こしてきてくれないかしら。」
「すまん。波風、頼れるか。」
「甘えて。」
「すまん。」
はあ、と波風は溜息を吐く。
「勝手に朝食作っておいて。後、あの女、寝ぼけてるなら、階段から叩き落してもいいわよね。」
「ダメだ。由実の両親になんて言えばいいのか。」
「一言、傷物にしました、と。」
「それ、ダメだから。由実のじいちゃんの十文字槍が炸裂するから。」
訳の分からないことは聞かないことにするのが波風の主義のようだ。波風は階段を上がっていく。さて、俺も食事を――
スクランブルエッグを作っている時だった。
ゴテゴテゴテ。
何かが勢いよく転がる音。俺はまさかと思い、火を止め、階段へと急ぐ。
「波風。」
「大丈夫。麻怜を下敷きにしたから。」
「なら、安心だな。」
「大丈夫じゃないわよ。」
麻怜さんは唸る。
「二十歳の乙女の柔肌が傷付いたじゃない。」
見た所、どこも傷付いていない。あれだな、サッカーとかで蹴った蹴られたを審判に抗議するあれだな。
「大丈夫。身寄りのない麻怜さんは波風が引き取るさ。」
「ひどい。私、独身決定?」
「現状はな。」
これで嫁入りなんて絶対にさせられない。俺も心を鬼にして、麻怜さんに嫁入り修行をさせなくちゃな。
「はやぁ?なっちゃん?」
比較的目が覚めてないのは由実だ。とろんとした目で、口調が舌足らずだ。
「ねねは?」
「トイレ。」
「由実もトイレ行くのー。」
「待て、由実。」
流石にそれはヤバい。俺が背後から腕を抱えるので、由実の胸はタプンと揺れる。中身は何が入ってるんだろう。脂肪らしいけど。
「漏れちゃうぅ。」
どっちだ。最悪小さい問題ならなんとかなる。でも、大きい問題なら、もう俺たちは二度と口を聞くことはないだろう。
「ねね。早く出てくれ!」
トイレの扉に話しかける。
「・・・・・・」
反応がない。まさか。
「おい、ねね。寝てるんじゃないだろうな。」
「はひ?にぃにぃ?起きてるで。」
なんかキャラが混線してる。絶対寝てたな。
「早く出てくれ。由実が――」
「はぁ、はぁ。ああっ、ああんっ。」
朝っぱらから出してはいけない声を由実は出している。これは真剣にヤバいやつだ。
「はい。お待ちどう。」
「うおう、わあああ。」
由実は急いで駆けていく。間一髪だ。ここでやってしまっていたら、銃白金だったぞ。
ねねをバスで送る。保母さんの顔が毎回険悪になっている。今日は俺と波風と由実とで出迎えたものな。また新しい女をとっかえひっかえして、とか思っているのだろう。心外だ。
ゆきちゃんが俺を見る目もなかなかに恐ろしい。最近は糸で体中縛りそうな勢いだ。ほとんど一日中絡まっている時があるし。そのせいか、他の糸が見づらくなっている。まあ、別に損害はないのだけれど。
「昨日はおつかれさん。」
「おつかれー。」
「お疲れ様です。」
教室には蛭子と吉田がいた。吉田は俺が無理矢理連れてきたのだ。せっかくチームになったんだから、話くらいいいだろう。
「(;゜∀゜)=3ハァハァ先輩の臭いの充満した教室、(;゜∀゜)=3ハァハァ。」
すげえ恥ずかしいからやめてくれないだろうか。
「やめなさい。こいつの匂いなんかいいもんじゃないわよ。」
「どういうことだよ。」
「そういうことでしかないわよ。」
蛭子は辛らつだ。まあ、こんなことでめげていては波風に対抗出来はしないが。
「そう言えば、後のメンバーはどうするんですか。」
吉田は波風の席を見ている。
「波風は気が乗らないそうだ。」
波風を入れれば後は三人なんだが。
「その件で、今日は練習の参加が遅くなる。」
「アテはあるの?」
正直ないが。
「蛭子はどうだ?」
「私はアンタ以上にないわよ。自分から突き放してるってヤツ?」
「お前も友達いないもんな。」
となると、と俺は吉田を見る。
「む、ムリですぅ~。」
蚊の鳴くような声で吉田は言う。
「まあ、俺がやるほかないか。」
分かっていたことだ。嘆いたって何も始まりはしない。
教室内は平穏だった。みんな普通に授業受けて(居眠りとか、授業中にスマホいじるのは普通だよね)日々を過ごしている。
昼休みの教室。そこは数日前から少し様子が変わっているが、俺たちには関係ない。
「波風さん。一緒にご飯どうかしら。」
「ごめんなさい。私は別の人と食べるから。」
「わかったわ。」
そう言って俺たちのもとに来る。俺とケンカしている状態らしいのに、よく来るなあ、なんて思うけど、波風がそうしたいのだから、好きにすればいい。そもそも、この喧嘩らしきものは俺が喧嘩だと思わぬうちにケンカになっていたものである。俺は喧嘩したという認識が未だ持てていなかった。波風が勝手に俺の行動に腹を立てて、ひとりでに籠城を決め込んだだけだ。理由が全く分からないといえばうそになる。原因は練習試合で、多分練習試合が終わるまで俺たちの中は回復しないように思う。もしくは、練習試合が終わってからも回復はしないかもしれない。まあ、もともと仲が良かったわけではないし。
「朝に吉田さんを呼ぶから、波風さん、来られなかったじゃない。」
「蛭子さん。これ以上バカに変な知識を叩きこまないで。所詮は朴念仁という言葉を生活の中で体現しているような人間よ。」
「難しいことを言っているけど、バカにされていることは分かる。」
「流石ね。これでは国語のテストも期待できるわね。」
「うぐっ。」
俺は息をのむ。知らない間にテスト二週間前をきっていた。
「ご主人様は最近転校してらっしゃった訳ですが、おテストの方はご大丈夫でございましょうか。」
「国語もダメみたいね。」
話し方だけでダメ出しを食らった。国語はそこそこ得意なんだけどな。勉強しなくても平均点は取れるから。
「前の学校はここより進んでたから大丈夫なの。」
「なるほど。蛭子さんは?」
「一夜漬け。勉強教えて。」
「俺に頼むな。波風に頼め。」
「でも、波風さんに頼んだら代償が大きそうだし。」
「なかなか分かってるな。そんなに話したわけでもないのに。」
「アンタを見てると、修羅の道ねえ、って思うのよ。」
「さいですか。」
「あら。そんなに大きな代償を要求したりはしないわよ。ここは古典的に裸で逆立ちして校内一周かしら。」
「恐ろしいよな、おい。」
「代償が前提ってのが一番怖いけど。」
「あら。当たり前じゃない。むしろ、ただで何でもな請け負うヤツは、すぐに利用しようとする奴らの食い物にされるわ。」
「しずくはそんなんじゃない。」
「誰もあのロリっ子のことを言ってはいないけど?」
ぐぬぬ。少なくとも俺のことを言ったのだけは確かだな。
「人間ね、行動には対価を求めるものなの。ボランティアが本当に無償の奉仕だと思っているのかしら。それは欺瞞よ。必ず対価関係は発生するもの。何も欲さず施すだけの存在の最期は悲惨なものよ。施されたものが施された恩なんか忘れて、施すものを売るのよ。自分欲しさにね。」
まるで事実をさも当然のように語る。俺の頭の中にはキリストが浮かんだ。初めてキリストの人生を聞かされた時は、可哀想だと思ったものだが。
「でも、後悔してないんじゃないか。その人は。」
波風は目を見開いて俺を睨む。怒りと驚きがないまぜになったという感じか。
「ま、私には関係ない事だから別にいいけど。でも、人間の残酷さはよく学んでおいた方がいいわね。」
波風は後ろの席に目配せする。そこには、一人で弁当をついばむ田辺の姿があった。周りを卑しく伺い、誰かが動くと敏感に体を震わせている。別に誰かが田辺に何かをしたわけではない。むしろ、何もしなかったのだ。ただ、誰も何も話さなかった。声をかけようとしなかった。声を掛けられれば、みんな応答した。でも、応答しただけなのだ。楽しい会話も交わさず、誰も輪には入れてくれない。巧妙なる失墜に彼女自身が勝手にそう認識してしまっただけなのだ。
そして、田辺の代わりに別の女子が成り代わる。波風に話しかけていた女子だ。田辺程波風に興味はないらしい。糸は出ていないが、それ以上に波風に関心がないのだ。きっと、今は自分の地盤を固める人材の選定中というところだろう。
「まあ、俺たちには関係ないことだがな。」
「そうね。」
俺たちのような教室のコミュニティに該当しないものには力関係など興味はないのだ。それが脅威となれば自分たちの力で解決すればいい。ある意味、度胸が据わっているのかもしれない。
授業について特筆すべきことはない。何せ、ひまなものなのだから。たしかに、授業中でも最近はテスト範囲がどうのこうのと言っているから油断はできない。でも、眠たい時は眠いものな。
午後から二時間続けての体育という鬼畜な授業がある。ボッチである俺は同じくボッチの男子と組むことになる。女子だったら蛭子が組んで、はくれないな。アイツは俺がボッチなのを見てボッチって悲しいわね、とか言って楽しむのが趣味だからな。
そして、これは運動神経のない俺にとって公開処刑の何者でもない。特に、体の機能が著しく低下している今となっては体を動かすのも苦痛なのだ。
碌に試合にもならない試合をしている時である。試合で手持ち無沙汰になった男子が湧きたっている。何事か、と視線をずらすと、丁度波風が高跳びをとんだところだった。まさに飛鳥の如くといった感じだった。スタイルのいい波風が宙に浮かぶ姿は様になっている。
「危ない。」
ボッチのパートナーが声をかけてくれる。だが、俺はその声に対応しきれずに、眼球でボールを受ける。良かったよ、軟球のテニスボールで。あと、テニスラケット重い。エアケイとか絶対できないでしょ。運動神経のいい男子が調子乗ってやってたけど。ついでに体育教師が闘争心燃やしてエアケイ対決してたけど。
「すまん。休むわ。」
これで休む口実ができた。ラッキー。
「あれ、四組の鏃じゃないか?」
男子の一人が言う。確かに、小さくて分からないが、あれはしずくだろう。しずくも悠々と波風と同じ高さを飛ぶ。あの身長の低さで飛べるとは。全身筋肉の塊じゃないか。
と、跳び終わったしずくはこっちを見て、舌を出し、親指を下に突き刺す。つまり、ブーイングのポーズ。全身筋肉が癪に触ったのかな。というか、どうして心が読める。
「波風と鏃の独壇場だぞ。」
「すげえ。あれ、市内の記録超えるんじゃないか?」
「二人とも陸上大会とは縁がないからな。多分、大会に出て入賞できるんじゃないか。」
そんなのバカげている。頑張っている陸上部員はどうなる。才能の差、か。でも、努力はいつか実ると信じたい。
二人の戦いは、波風の勝ちで終わりを告げる。最後はテニスコートの男子も、グラウンドの女子も、そして、両方を監督すべき二人の体育教師も拍手で二人の戦いを讃えた。先生、注意すべきだと思うぞ。かくいう私も見とれてね・・・
「久しいじゃないか。すっかりやめてしまったのだと思ったよ。」
「そんなこと、ありません。」
高坂先輩は久々に嫌味を言う。
「相談の回答はできたか?」
「いえ。まだ。」
「そうだろう。できないだろう。お前には。そんなもの、初めから分かっていたさ。私の目に見通せないものはないからな。」
「高坂先輩、怒ってます?」
「いいえ。全然。」
「怒ってますよね。」
「そんなことはない。私は心が広くてね、海より広い私の心も、ここらが我慢の限界よ。」
「やっぱり怒ってるじゃないですか。あと、それ、処刑セリフです。」
「だから、怒ってなどいない。ここ数日出番がなかったからって怒りはしないさ。読者は私が好きだからな。この小説で人気ナンバーワンは私だ。」
「そもそも、この小説に目を通してくれる読者がいるとでもいうんですか。」
「それはあれだ。作者の努力次第だな。」
「安心してください。作者はやる気なんてもとよりないです。」
「なんだと?私は三日間も出番がなかったんだぞ。月曜日は本当に少しだけしか出番がなかったじゃないか。その前日も出番が一切なかったじゃないか。これでは私が読者に忘れられてしまうではないか!」
「大分根に持ってらっしゃいますね。でも、土曜日やらかしてくれたのでいいのでは?」
「あれが私の本気だと思ったのか?馬鹿者。私は後三回変身を残している。変身するごとに戦闘力は増していくんだ!」
「どこの宇宙の帝王ですか。」
「具体的に言うと、惑星フリ――」
「そこまでです。」
「今まで色々と実名で出してきて、今さらなんだ。集英社と仲が悪いのか。」
「作者はどこにも属してません。ただの大学生です。」
「うむ。働け。働かないから、正月帰ってもバカにされっぱなしなんだ。」
「ごもっともで。」
とりあえず、徴収した者の使いどころがない事に気づき、とりあえず購入してみたお茶を淹れ、二人は飲む。
「ともかく、私が言いたいのは、ウィンドウズ10のアップデートについてだ。ここ最近田舎に帰った作者は久々にパソコンをオンラインにしたわけだが、几帳面な彼はウィンドウズをアップデートしたわけだ。」
「悪いことじゃないでしょう?」
「それが、悪いのだ。検索に新たな語彙が生まれる。こうさかと打っただけで高坂桐乃が出てくるんだ。これは恐ろしいことじゃないかね。」
「いや、俺はあの竹達さんも好きですよ。あずにゃんも好きですけど。」
「バカか、貴様は。私のライバルは竹達彩奈と戸松遥だ。穴場で高橋李依だな。」
「なんで闘争心燃やしているんですか。」
「しかし、ウィンドウズテンは素晴らしいな。声優の名前が竹達彩奈以外、全員出てきたぞ。ちなみに、ふたりはと打っただけでふたりはプリキュアと出てくる。これは神では?」
「さっきまでウィンドウズテン、貶してなかったですか?」
「空耳だ。」
俺たちはお茶をすする。
「で、本題だが。」
「さすがに今までが本題じゃないですよね。」
「実は本題だった。」
「嘘でしょう?」
「これで私の印象は読者に根強くついただろう。私の今日の目的はそれだけだ。」
「それまた・・・」
「で、何の用だ。真杉。」
「急に本題に入らないでくださいよ。」
「お前には時間が無かろう。手短に話せ。」
「時間を食ってくれたのはどこの高坂先輩ですか。」
俺はこのままではテンションに流されてしまいそうなので、お茶を一気に流し込む。温かいお茶は俺の腹を温める。
「高坂先輩に練習試合に出て欲しいんです。なんとか五人まで集めました。後、四人なんです。」
「なるほどな。」
大きくうなずいた後、高坂先輩は言う。
「却下だ。」
「どうしてですか。」
「お前は知り合いだけに、仲のいい友達だけに声をかけたのだろう。だが、話したこともない生徒に頼んだか?上級生や下級生に頭を下げたか?今のお前では努力したとは言えない。」
「何が不服なんですか。俺が苦しむのを見るのがそんなに楽しいんですか。」
「私はお前が気に食わんのだよ。大して苦しまずに、鏃しずくの隣に並ぼうとするお前が。」
どうしてしずくが出てくるのか。
「お前はしずくがどれほど頑張ったか分かっているのか?あれは面識のない上級生や下級生にも頭を下げた。中学時代の友達にも連絡を取った。だが、そのすべてを断られている。それがどれほどの屈辱だったか、幾程心が壊れそうになったか、お前には分かるか。いいや、絶対に分かるとは言わせない。それを言ったのなら、私とお前は絶交だ。」
俺はまた、奢っていたのか。大した努力もせずに笑顔でしずくに成果を見せつけて、知らず知らずのうちにまたしずくを傷付けたのか。
ふう、と高坂先輩は疲れたような息を吐く。そして、言う。
「そんな顔をすることができるなら、まあ、許そう。」
一瞬言われている意味が分からなかった。これは了承してくれているのか?
「では――」
「残念ながら、条件がある。」
「なんですか。」
「お前と波風菜々が仲直りすることだ。」
「ええっと、すいません。俺、頭が悪いから、あんまり理解できなかったんですけど。」
「言葉通りの意味だ。お前と波風は仲良くなれと言っているんだ。」
「でも、別に喧嘩しているわけじゃあ・・・」
「している。」
「でも、練習試合関係ですし・・・」
「だからこそだとは思うが?」
「練習試合が終わるか、中止しないと関係は治らないと思います。」
「それこそ努力が足りないと私は思う。」
「なるほど。」
高坂先輩は生命線である。高坂先輩が出るとあれば、朝露先輩と夜霧先輩は呼ばれなくても飛んでくる。となると、これはクリアしなければならない。
「あと、頑張っている真杉にアドバイスだ。最近、再び地下帝国が動き出したようだ。そろそろ浮上してくるかもしれない。我々も被害を出さないように努力はするが、気をつけたまえ。君と波風が狙われる可能性が高い。少なくとも、巻き込まれるだろう。」
「あ、ありがとうございます。」
とりあえず、礼を言っておく。とはいえ、地下帝国ねえ。忠告は受け取っておくけれど、実際どう対応すればいいのか分からないし。とにかく今は目の前の問題だ。
「今日は遅れて済まなかった。」
「何しに行ってたの?」
「高坂先輩をスカウトにな。」
「そうなんだ。」
練習が終わった帰り道、みんなで帰路についていた。
「どうだった?」
「条件を出されたけど、それがクリア出来たら、高坂先輩と朝露夜霧先輩が入ってくれる。」
「一気に三人か。すごいね。」
「女子ばっかになっちまったけどな。」
「ありがとう。私ならできなかったことだから。」
「俺なんて本当に大したことなんてしてない。しずくに比べればな。」
「そんな。」
でも、しずくはやっとありがとうと言ってくれた。それはとてもうれしい。
「今日のバッティングだけど・・・」
「すまない。今日、やることあってさ。」
「そう、なんだ。本番も近いからね。私もゆっくり休むよ。」
しずくはそう言って帰っていく。その後ろ姿は少し寂しげであった。
「何か手伝えることはないか?」
早く帰ってきたのだから、波風を手伝うのは当たり前だろう。別によこしまな考えなんか・・・
「邪魔よ。あなたみたいな凡骨に何ができるのかしら。」
凡骨て。あんまり聞かない言葉だけどな。
「いやあ、波風さんは語彙が豊富ですねえ。」
俺は両手を擦り合わせて波風に言う。これで下心がないのは不自然だって?しかたないだろ。体が勝手に動いてしまうんだから。
「キモい。死ね。」
はい。即答です。
「そんなことより、ねねもキモいって思ってるじゃない。早くこの家から消えなさい。」
「そんな、ねね。そんなことないよね。」
「キモい。」
「そんなあ。」
俺の兄貴としての尊厳はいずこに。と、波風はしずかに俺に耳打ちしてくる。
「久々なんだから、ねねと遊んであげなさい。あんな知らない女と一緒に遊ばせて。可哀想よ。」
俺はねねの方を見る。
「私、由実っていうんだよ。前に一回会ったことあるんだけど、覚えているかな?」
「ごめんなさい。」
ねねは申し訳なさそうに言う。由実、それは突然知り合いが来て、赤ちゃんだったころの話をされるっていう、あれだぞ。
「大丈夫。ねね。由実は俺の友達だから、悪い人じゃないぞ。」
「うん。分かってる。」
まあ、ねねは人見知りだからなあ。これが普通なのかもしれないけど。由実が人見知りし過ぎないだけか。
「おねえちゃんはお兄ちゃんの愛人?」
「え?」
唐突に何を言いだすのでしょうか、うちの子は。
「だって、お兄ちゃんの恋人じゃないんでしょ?」
由実は不機嫌そうな目で見てくる。いや、恋人じゃないんだし。
「だったら愛人だってゆきちゃんが言ってた。」
「ゆきちゃん、変なこと教えないでくれ。」
「本妻は私だって。」
「違うからね。」
「そうだよね。お兄ちゃんはねねの恋人だもんね。この前、ちゅーしてくれたし。」
「なっちゃん、嘘でしょ・・・」
「待て、波風。警察への電話はまだ早い。」
包丁を持ちながら電話っていうのは怖いな。すごく目を剥かれてるし。
「俺とねねは兄妹だ。そんなことになるわけないだろ。恋人ごっこだよ。」
「お兄ちゃん、ひどい。私とはお遊びだったの?あれだけ夜を一緒に過ごしたのに。」
おめおめとねねは泣く。
「語弊がある。物凄く語弊が。」
「児童相談所に連絡するように言われたけど。」
「本気で連絡してるんじゃねえ。」
「冗談よ。」
「冗談にしては体に悪いわ。」
由実は泣いているねねを慰めている。
「なっちゃん、ひどいよ。乙女心を弄んで。それと、キスってどういうこと?」
「おでこにしただけだよ。」
「ごめん、なっちゃん。私、勘違いしてた。」
なに、分かればいいんだって。
「って、携帯取り出してなにを?待て。俺は犯罪者じゃない。」
由実が警察署に電話するのを必死で止める。
「さあ、早くお風呂に行ってくるんだ。」
俺は疲れている。バッティングより疲れているんじゃないか。
「恋人なら、一緒に入ってもおかしくないよね。」
そんな笑顔で言われても困るんです。波風と由実の表情が尋常じゃないし。
「さあ、麻怜さんと入りますよ。」
と、麻怜さんがねねの手を引っ張って風呂に連れて行く。
「麻怜さん居たんだ。」
と、今を出て行こうとした麻怜さんの動きが止まる。首を錆び付いたロボットのようにかくかくと動かして俺に向ける。
「ずっといたわよ。この家の描写になってからずっと人知れずね。そもそも、最近何よ。私の出番酷くない?いるのにいないみたいな。むしろ、ただ家事を手伝ってくれる人みたいな。初めは唯一の巨乳キャラだったのに、そこの女にとられるし。なによ。キャラ増やし過ぎなのよ。文庫本一冊分の分量でヒロイン何人出してんだてえの。私だってヒロインなんだからね。特に過去編とか出たら大活躍間違いなしなんだから。なのに、あの高坂とかいう微乳*キャラより目立ってないじゃないの。もっと目立たせろ。私にもウィンドウズテンの話をさせろ。初回アップデートに一日かかった文句を言わせろ。あと、小粋なマック使いも嫌いだ。ウィンドウズのシェアの方が圧倒的に大きいのになによ、マックって。ドナルドが使ってるのはウィンドウズよ。あんたらなんて、あんたらなんて、マイナーなんだから。
まだキャラが薄いわね。これは初心に戻って脱ぐほかないわね。そうすればいないだろう読者もいちころよ。って、待て。切るな。まだまだ言いたいことが残って――」
「最近早起きだろう。後は俺に任せて波風は寝ろよ。」
波風は文句も言わずに二階に上っていく。俺は早々に食器洗いを済ませる。みんな風呂も食事も済ませた。俺も疲れてはいたけど、波風に比べれば屁でもない。波風は一人で食材を買い、一人で料理をし、一人で食器を洗っていたのだ。それがどれだけ大変なのか、俺には分かる。だから、せめてこれくらいはしないと。
俺は今すぐにでも居間に敷かれた布団で寝たかったが、やらなくちゃいけないことがある。波風との仲直りだ。どうすればいいのか、俺には全然わからない。でも、これだけはやってみなくちゃ分からない。ダメだったらダメでいいんだ。人数が集まらなかった、と謝れば済むことだ。しずくに嫌われればいいことだ。でも、一緒に生活する上では、俺と波風は仲良くしなくちゃいけない。それに、ねねを心配させないように仲良くしようと言ったのは俺じゃないか。だから、俺が頑張らないと。
静かに階段を上る。別に大きな音を立ててもよかったけど、なんだか気が引けて、忍び足になってしまった。
波風の扉の前に立つ。中からは、いつの日か聞いた、すすり泣きの声。かなしみはそう簡単には消えない。忘れても消えはしない。ただ、できるのは、楽しさで誤魔化すだけ。忘れたふりをするだけ。
「波風、いいか?」
俺は波風の部屋の扉に背をもたれかけさせ、廊下に座る。
「なに?」
不機嫌な涙声で波風は言う。声は案外近い。扉の近くで話しているのだろう。
「ずっと扉の前で突っ立ってるの?」
「入れてくれないだろう?」
「当り前よ。」
「だから、扉を背にして廊下に座ってる。」
「癪ね。私も同じよ。」
「そこは奇遇じゃないのか。」
それ以上はなにも言ってこない。本当に癪なようだった。
「泣いてたのか?」
「別に泣いてなんかないわよ。」
波風は強がる。
「波風は強いな。俺はずっと泣いてたから。」
泣かないでくれ、と父さんに言われていたのに、俺は父さんが死んでからずっと泣き続けていた。父さんが死ぬまで泣かなかった分が一気に溢れ出したのだろう。父さんは俺のことが心配で成仏できなかったかもしれない。
「ごめんなさい。」
「どうして波風が謝るんだよ。」
波風らしくないじゃないか。
「そうね。私が謝るなんて、どうかしてる。」
自分で言ってるし。
「一体何の用なのかしら。毎晩泣いている私が今さら心配になったの?違うんでしょ?」
「違うことはない。ずっと心配だった。でも、怖かったから、声をかけられなかった。」
「あなたにできることなんて何もないわ。」
「そう、何もない。」
俺では波風の傷をいやすことはできない。
「せめて、笑顔でいてくれると嬉しいと思ったけど、俺には無理だったな。波風、ずっと俺のこと怒ってたし。」
「そんなこと・・・」
完全には否定しなかった。俺では役不足なんだ。
「いつか、必ず波風を笑顔にしてくれる人が現れる。だから、その時のために笑顔を残しておけよ。」
なんだか、とても悔しかった。もう枯れてしまって出ないと思っていた涙が一筋流れてきた。
「なにを、偉そうに。」
波風はいつものように憎まれ口を叩く。それこそ波風だ。
「どうして私を慰めようとするのかしら。物凄く口下手で、何が言いたいのかこれっぽっちも理解できないんだけど。大方、高坂先輩が参加する条件として仲直りを提示されたんでしょう?」
驚くほどの洞察力だ。もしかしたら、波風は俺たちの会話を聞いていたのかもしれない。なら、隠し立てしても意味がない。朝露先輩や夜霧先輩の例があるからな。
「そうだ。一言一句間違いがない。」
と、唐突に俺の後頭部に衝撃が走る。アイツ、扉を思いっきり蹴飛ばしやがったな。
「出て行きなさい、変態。」
「出て行ってるし、今さっきのどこに変態要素があった。」
「うるさいうるさいうるさいうるさい!」
俺は退散することにする。流石にこれ以上騒ぐと、みんなが起きてしまいそうだ。恐らくすべて聞かれてただろうけど、仕方がないさ。
高坂天女について
やあ。最強の高坂先輩だよ。背は高め。茶色い髪は頭の後ろでくくってる。浴衣でよくやるような感じの止め方。カップはBからC。どうして気配を消せるのか、とかは秘密。とにかく秘密が多い人物。本人は秘密にしているつもりはないけど、誰も聞いてこないし、理解できるように言うのは難しいのでわざわざしないだけ。
トリックスターとしてとても優秀な人材なのです。