表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
792/1337

790 やはり食い逃げ


(師匠、どうしたの?)


 どうやらフランに動揺が伝わっていたらしい。首を傾げて俺を見ている。


『いや、あそこの金髪の女の子な』

(ん)

『食い逃げするつもりらしい』

(!)


 フランが驚いたようにそちらを見た。


 その視線の先では、相変わらず金髪の少女が懊悩していた。


 席から一瞬だけ腰を浮かせたり、頭を掻き毟ったりと、どう見ても挙動不審である。俺たちが店員さんに通報しなくても、勝手に気付かれそうだ。


(食い逃げはダメ)


 フランが深刻な表情で呟く。


(お店で美味しいゴハンを食べたら、ちゃんとした対価を払うべき)

『そ、そうだな』

(ん! 食い逃げはダメ。絶対に)


 熱量も凄い。絡んできたチンピラを叩きのめす時よりも、よほど真剣であった。


 俺たちがさりげなく見守る中、少女がおもむろに立ち上がる。だが、再び座り込んだ。


 心の中で葛藤しているんだろう。


「くっ……。身元がバレるのだけは……。で、でも……」


 家出少女か何かか? ここで自分の素性がばれるのを嫌っているようだ。だが、罪を犯すことに対する抵抗感も残っているらしい。


 だが、結局は身バレを嫌がる気持ちが勝ってしまったようだった。


 スクッと立ち上がると、通りとオープンカフェを隔てる低い生垣に手をかける。そこから逃げるつもりか?


 しかし、それを止める存在がいた。


「ねぇ」

「!」


 少女の傍らに移動していたフランだ。少女が驚いた表情でこちらを見る。


 ただ、驚いたのはこちらも同じだ。


 この少女、タダものではなかった。音も気配もなく一瞬で近づくフランに反応し、身構えたのだ。


 そもそも、逃げ出そうとした時の動きも、非常に速かった。


 フランが止めていなければ超高速で生け垣を飛び越え、あっと言う間に雑踏の中に姿を消していただろう。


 こちらをメチャクチャ睨んでいる。俺は咄嗟に鑑定を使うが、どうもおかしい。


 演奏などのスキルしか見えないのだ。これだけ強そうな少女が、この程度のスキルなわけがなかった。


 何らかのアイテムで妨害されている?


 邪気を纏った抗魔たちといい、この大陸に来てから鑑定が仕事をしていない。そもそも、このところ格上と出会うことが多く、鑑定が完全に機能しないことが多かった。


 今後の事を考えると、それはまずい。


 初見の相手との戦いで、鑑定が通じるかどうかは命を左右するだろう。


 そう考えると、鑑定の強化は重要だった。だが、ポイントでの強化は不可能だ。鑑定スキルにも、天眼スキルにも、これ以上はポイントを振り分けることができない。


 だが、スキルを進化させずとも、やれることはあるはずだ。浸透勁を使えるようになったフランみたいに、要はスキルの使い方なのだ。


 ただ相手の上辺の情報を見るのではなく、より深く視る。肉を、魔力を、その奥の存在を、視るのだ。


 いつもは常時並行発動している全てのスキルを切る。そして、魔力を天眼に流し込む。俺に目などないが、だからこそ普通とはちがうものが見えるはずだ。


『見える……』


 少女――ソフィーリアのステータスが見える。だが、まだ完全じゃない。一部が■■■で隠れてしまっている。


 もっとだ。もっと深く視るんだ。


 天眼スキルをさらに意識する。無いはずの眼に激痛が走った。


『ぐ……おぉ……』


 あ、これは結構ヤバい奴だ。以前の俺なら、その負荷に耐えられなかったかもしれない。


 だが、魔力の扱いに熟達した今の俺であれば、何とか負荷を抑え、耐えることが可能だった。



名称:ソフィーリア 年齢:19歳

種族:人間

職業:神謳楽聖

ステータス レベル:50/99

HP:202 MP:1597 腕力:49 体力:69 敏捷:168 知力:712 魔力:608 器用:819

スキル

意思伝達:Lv8、演奏(弦楽器):LvMax、演奏(鍵盤):LvMax、演奏(打楽器):Lv8、演奏(笛):Lv8、回避:Lv6、回復魔術:LvMax、楽譜:Lv8、歌唱:LvMax、風魔術:Lv6、観察:Lv4、危機察知:Lv2、共感:Lv7、気配隠蔽:Lv3、気配増大:Lv7、鋼糸技:Lv2、鋼糸術:Lv3、瞬発:Lv2、振動感知:LvMax、振動衝:Lv8、精神異常耐性:Lv9、治癒魔術:Lv3、同時演奏:Lv8、反響定位:Lv8、舞踊:Lv5、棒術:Lv4、魔曲:LvMax、魔奏:LvMax、魔糸生成:Lv2、魔術耐性:Lv7、魔力感知:Lv3、魔力障壁:Lv5、魔力放出:Lv3、遠拡声、音感、気力操作、聴力強化、不屈、不眠不休、並列思考

ユニークスキル

楽神の祝福、魔声、魔力統制

エクストラスキル

■■■■、創譜の真理

固有スキル

親和歌唱、伝承演奏

称号

歌う者、回復術師、奏でる者、絶望の歌姫、悲哀の奏者、死地を越えし者、神話の演奏者、楽譜創造者

装備

魔弦・ラウダ、隠遁のローブ、隠遁の衣、音消しのピアス、隠蔽の腕輪



 最初は吟遊詩人なのかと思ったが、旅をしているような感じではない。職業から考えても、どこかのお抱え演奏家か?


 音楽系のスキルが凄まじい。技術が高いだけではなく、神の祝福まであるのだ。いわゆる天才って奴なんだろう。


 音楽的なことなら、どんなことでもやれてしまうらしい。


 音楽系のスキルに埋もれているが、戦闘力も低くない。糸と風魔術を併用して戦うのだろう。それに、魔曲などのスキルは、戦闘でも使えるようだった。ゲームに登場する吟遊詩人的なことができそうだ。


 高レベルの音楽によるバフデバフと、治癒魔術。後衛として完成されている。レベルから考えても、ランクB冒険者に相当するかもしれない。いや、エクストラスキルの能力によっては、ランクAにも匹敵する可能性があるだろう。


 ただ、一つだけどうしても見破れないスキルがあった。多分、装備の隠蔽効果でそのスキルをより重点的に隠しているのだろう。


 何でこんな奴が食い逃げなんて……。稼ぐ方法なんかいくらでもあるだろ!


「な、何よ……」

「それはやっちゃダメ。大罪」

「……」


 た、大罪って……。


「食い逃げは許されない罪。打ち首獄門」

「……」

「このお店の料理はすごい。対価を払う価値がある」


 フランが自分の行動を見破っていると理解した少女は、ガクリと項垂れるように椅子に座り込んだ。


 攻撃して無理やり逃げるような真似はさすがにしないらしい。


「……だって……仕方ないじゃない……。私だって、払えるものなら……」

「知り合いがいるなら呼んできてもいい」

「いないわ。居たとしても、見つかる訳にはいかないもの……」


 分かってたけど、やはり訳アリだ。どうすればいいかね? 未遂だが、食い逃げは食い逃げだしな。


 例えば、装備品を俺たちが買い取るとか? 価値はいまいち分からんが、ここの食事代よりも安いことはないだろう。


『どうするフラン?』

「……」

『フラン?』


 項垂れる少女を見つめていたフランが、急に踵を返した。


「あ、ちょっと!」

『フラン、どうするつもりだ?』

(私に任せて)

『まあ、フランがそういうならいいけど』


 追いかけてくる少女を引き連れて、そのままカウンターに向かって歩いていく。


「お会計を」

「はい。3番テーブルのお客様ですね」

「あと、この女の人のお会計も一緒にお願い」

「お会計を纏めてお支払いになるということですか?」

「ん。私が払う」


 なんと、金髪少女ソフィーリアの分まで一緒に支払ったではないか。


『いいのか?』

「ん」


 店を出たフランが、背後のソフィーリアを振り向いた。呆然としつつも、どこか睨むような目でこちらを見ている。


「何で……?」

「これは貸し。次に会った時に、返してもらう」


 フランは少女の返答を待たずに、背を向けた。


『また会うかどうかわからないぞ?』

(それならそれでいい。でも、何となくこうするのがいいかと思った)

『そうか……』

(ん)


 少女を気に入ったというよりも、放っておけないと思ったのだろうか? それとも、獣人の野生の勘が、恩を売っておくべきだと判断した?


 その割に、ソフィーリアは親切の押し売りだと思っていそうだが……。


 そう思っていたら、ソフィーリアがフランの背に向かって小さく、それでいながら妙に聞こえやすい声で呟いた。


「ありがとう」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 食に対するあまりにも真摯なフランのポリシーと説得力かわいい 吟遊詩人タイプは新しいですね どんな活躍?を見せてくれるのか楽しみです 師匠・・・しれっと隠蔽装備を看破しとるやないかい! …
[良い点] 金銭欲は薄いけど適正な対価は払うべき、もらうべきってフランの価値観は凄い好感が持てる 国や企業を動かすならそうも言ってられないけど、個人として生きるなら一番真っ直ぐに生きられる価値観な気が…
[良い点] 食い逃げは絶対悪なフラン可愛いです! なんだか最近色んな所で貸し作ってますね。 新キャラ達も登場して今後の展開が楽しみです! [気になる点] 一部隠れてるエクストラスキルも気になりますが …
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ