閑章三 孤島へ 16
模擬戦をすると決めた二人だったが、さすがにその場で始めたりはしない。
フランとオウナが戦ったら、あの程度の地下空間なんてあっという間に崩れてしまう。そうなったら、近くの村にも大きな被害が出てしまうのだ。
そのため、地下空洞のあった牧場から少し離れた荒野までやってきた。ここなら多少派手に戦っても大丈夫だろう。
いや、やばいか? だってフランとオウナだもんなぁ。軽く天変地異とか起きかねんし。
あとで村に説明とお詫びにいかないとまずいかもしれない。
「先にこいつを渡しておこう。師匠ならすぐ使えるだろ? 使わなかったら返してくれよ?」
『これは、回復ポーションか?』
青い液体が入った瓶だが、強烈な回復属性の魔力を感じる。俺たちが今まで購入した高級ポーションですら、これの前では普通レベルに感じてしまうだろう。
「最高品質のポーションだ。死んでなきゃどうにかなる。実際、冒険者相手に使った時は足1本が数分で再生してたからな。激烈に痛そうだったが」
四肢再生って、それってもうエリクサーって言うんじゃないか?
『高いんだろ?』
「自作だから高くはない。まあ、素材が貴重過ぎて大量生産できないが」
『自作? これ自分で作ってんのか?』
ヤバい妖刀を作れる最高レベルの鍛冶師で、エリクサーレベルの薬を作れる薬師でもあるってこと? しかも、超強い剣士?
『あんた、すげぇな』
「伊達に長くは生きてないのさ」
『でも、いいのか? 売ったらメチャクチャ高いだろ?』
「金には困ってない。それに、それがある方が本気で戦えるだろう? その方が大事だ」
俺の治癒魔術があれば問題ないと思うが、保険として預かっておこう。
『わかった。オウナが死にかけてても使うからな』
「そこは心配するな。さっきも見ただろう? 私は死なんよ。ま、その方がフランが本気で仕合えるというなら、頼んでおこうか」
オウナのその言葉に、フランが嬉しそうに頷く。本気で殺し合えるからだろう。これだから戦闘狂ってやつらは……。
「あと、さすがに私とフランが本気で戦い続けたら、マズい。周囲の被害が馬鹿にならん」
「じゃあ、手加減して戦う?」
残念そうに聞き返すフランに対し、オウナは首を横に振った。
「いや、本気でやるさ。ただし、互いに一発だけ。攻撃を正面からぶつけ合う。どうだ?」
「ん。それでいい。でも、神剣開放は使えない」
「ははは! 私もさすがに神剣の力を使えとは言わんよ!」
「ならいい」
そして、それ以上の言葉は必要ないとばかりに2人は同じだけ下がり、同時に振り返って向き合った。
フランは俺を構える。だが、オウナは腰の千本腕を抜かない。居合斬りか?
フランも首を傾げている。そんな中、オウナが髪を止めていた桜色の簪を引き抜いた。解かれた白髪がはらりと舞う。
「? それで戦う?」
「千本腕は使いやすい良い刀だが、さすがに神剣とやり合えるほどじゃない。悔しいがね」
つまりその簪は、神剣相手でも戦えるってことか?
「こいつの銘は『桜神刺』」
「さくらかんざし」
「そして――蕾よ花開け」
手に持った簪を軽く振るオウナ。すると、その姿が一瞬で刀へと変化していた。反りの浅い、直刀にも見える刀である。
先ほどまでの可愛らしい簪が一転して、凄まじく禍々しい気を放つ妖刀だった。しかも、神気が微かに交じっている。これならば、確かに神剣ともやり合えるだろう。
「神剣と戦うための刀だ。装備者の魔力を延々と吸い続ける妖刀だが……。そのお陰で大分育っているぞ?」
オウナがそう言って、脇を引き絞るように刀を構えた。水平に伸びる刀身に、左手が添えられる。その構えは、ビリヤードのキューを構えているようにも見えた。
これから突きを繰り出すと、丸わかりの構えだ。
月の光が刀身に反射して、白い輝きを放っている。桜色の柄と鍔に白銀の刃。非常に美しい刀の筈なのに、見ているだけで震えがくるほどに不吉な印象を抱かせる。
今日だけで様々な妖刀を見たが、これこそが妖刀の中の妖刀だろう。そう思わせられるだけの、凄みがあるのだ。
「師匠」
『ああ』
俺は即座に大量の魔力を自身に伝導させた。普通の模擬戦で使うには非常識な力が迸る。同時にフランが覚醒し、強化された俺を黒雷が覆っていく。
それでも、俺もフランもやり過ぎとは思えなかった。
一瞬、神剣開放した方がいいのではないかと思ったほどなのだ。むしろ、この程度の強化で、足りるか?
しかし、もう両者に足を止める時間は残されていなかった。
「はぁぁぁぁ! 黒雷天断!」
「オウカ流奥義、『落花流水』!」
フランの上段からの振り下ろしと、オウナの突きが同時に放たれた。
オウナの狙いは少し上? フランじゃなくて、俺に向かって突きが放たれている? それにオウカ流? もしかして、デミトリス流みたいな独自流派なのか?
しかし、俺にはそれ以上思考することはできなかった。耳障りな甲高い金属音と共に、視界が暗転する。
耳障りな金属音。
砕かれた。
そう感じた直後、フランが慌てた様子で声を上げる。
「師匠!」
『大丈夫だ……。しっかし、まじかよ』
俺は、刀身の半ばからポッキリと折れてしまっていた。突きによって刀身の一点に集中した衝撃に耐えられなかったのだ。超強化していたはずの俺が、だぞ?
でも、負けたわけじゃない。
「はぁ。神剣開放してない段階でも、これか」
オウナが、砕け散って刀身が失われた桜神刺を眼前に掲げ、溜息を吐いていた。あっちは全損、こっちは半損。まあ、一応勝ったんじゃないかね?
神剣以外にここまでやられるとは思っても見なかったが。世界はまだまだ広く、強い人間も強い武器も無数に存在しているってことだな。
来月、GCノベルズ12周年祭の一環として、サイン会が開催予定です。
るろお先生との合同サイン会になると思いますので、是非ご参加ください。




