閑章三 孤島へ 01
「レンギル、久しぶり」
「お久しぶりですフランさん。ウルシさん」
「ん」
「オンオン!」
俺たちがやってきたのは、バルボラにあるルシール商会の本部だ。出迎えてくれたのは、レンギル船長である。相変わらずのニコニコ笑顔だね。
フルトたちの護衛依頼を受けた時に乗った船の船長であり、大きな商会の幹部でもある人物だ。
今回、ルシール商会からの指名依頼の打診があり、とりあえず詳しい話を聞きにきたという訳だった。
挨拶もそこそこに、フランが目の前に出された五段ステーキに手を伸ばす。さすが大商会なだけあって、獣人への対応もばっちりである。
そんなフランを微笑ましく見つつ、少し緊張した様子でレンギルが口を開いた。その視線はフラン――ではなく、その横に立て掛けられた俺を向いている。
「えー、剣様におかれましては、お初にお目にかかります」
『そんな硬くならなくてもいいぞ? フランと同じ感じでいい。それに、俺の方は一方的にあんたのこと知ってるしな』
「そ、そうですか? それではフランさんと同じように接することにいたしましょう。よろしくお願いいたしますぞ、剣殿」
『おう。よろしくな!』
実はレンギルみたいな人、結構多いんだよね。
喋る神剣なんて今まで存在しなかったし、どのくらいの格なのか誰も分からないのだろう。そして色々悩んだ結果、喋る神剣=神の使徒=偉いみたいに考えて、とりあえず目上として接しておこうって考えるみたいだった。
しかも、それは権力者や貴族の方が圧倒的に多い。実際に神様が存在するこの世界において、王権神授の考え方は根強くある。
神に直接国を統治せよと命じられたものは存在しないが、ステータスシステムにおいて爵位が表示されるのは、神に認められている証拠だと考えているわけだな。
それ故、神の使徒かもしれない俺に関しては強く出られない者も多かった。中には例外というか傲慢な馬鹿貴族はいるが。まさか、ランクS冒険者のフランに対して、剣を寄こせとか言い出すとは思わんかった。たかが喋る剣って発言して、フランにお仕置きされたが。
その後、激オコの王様によって、御家断絶にされたのである。ざまぁ!
逆に冒険者や一般の人は、ランクS冒険者の持ってるなんか凄い剣って感じらしい。俺にへりくだる人はさほど多くはないのだ。むしろ見世物感覚で騒がれることが多かった。まあ、変に持ち上げられるよりかは、そっちの方がありがたいけどね。
「それで、指名依頼があるって聞いた」
「そうなのですよ!」
『まあ、受けるか分からんが、話だけ聞かせてもらおうと思ってさ』
「それだけでもありがたいです。実は、フランさんに模擬戦をしてもらいたい方々がおりまして」
「模擬戦?」
「オン?」
「はい」
実は、この手の依頼はたまにある。依頼主のほとんどは中級貴族だな。高位貴族になると、逆に危険物には近づかないでおこうと思うらしく、接触は意外に少なかった。
ランクS冒険者と模擬戦をして箔を付けつつ、あわよくばお近づきになりたいのだろう。
ランクSになったことでフランへの依頼料は跳ね上がっているから、それなりに裕福な貴族しか依頼できないってこともあるが。
世界で9人しかいないランクSだからね。そりゃあ、依頼料は高額だ。
フランが自分で安く受けると判断した場合はともかく、ギルドを通して持ち込まれる緊急性の低い依頼は目ん玉飛び出るような依頼料が必要になる。
あと、模擬戦依頼は最初の3度は受けたんだが、今は全て断っていた。
手加減を学んだフランならやりすぎず適度に終わらせることはできるんだが、弱い貴族相手の模擬戦が退屈で仕方ないらしい。
それに、貴族との繋がりなんて欲しいわけでもないし、金を稼ごうと思ったら魔獣を狩る方が楽だし、模擬戦の後の茶会もつまらんしで、フランにとって良いことが一つもないのだ。
「相手は?」
「とある武芸者集団ですな」
お? 貴族じゃないのか? しかも武芸者集団?
断る気満々だったが、これは少し話を聞いてもいいかもしれん。フランも興味を持ったらしい。
「どういうこと?」
「説明させていただきますね。実は、ルシール商会の取引相手の――」
簡単に言うと、ルシール商会が魔獣素材を仕入れている取引先の一つに、武芸者が集まって暮らす特殊な島があるらしい。商会は魔獣素材を仕入れる代わりに、食料や日用品などを村に運び、彼らの生活を支援している。
そして彼らから、新しく生まれたランクS冒険者を招いて模擬戦をできないかと相談を受けたそうだ。
その武芸者集団の卸す素材は非常に価値が高く、ルシール商会としては彼らの要望にはできるだけ沿いたいという。
「今回は私がフランさんと知り合いということもあり、お声を掛けさせていただいたという感じですな」
「なるほど……。その武芸者たちって、強いの?」
「それはもう。上位陣にはランクA冒険者に匹敵する方もいるという話ですね。あくまでも、我が商会に所属する護衛たちの推測ではありますが」
「ほほう」
フランが完全に乗り気になった。目を輝かせて、俺を見ているのだ。
「師匠」
『まあ、悪くはないんじゃないか?』
レンギルの仲介なら相手の素性はしっかりしているだろうし、罠とかそういう可能性は低いだろう。
ただ、問題というか、疑問もある。
『依頼期間が最低でも二ヶ月ってなってたけど、どういうことだ?』
普通の模擬戦依頼なら、2、3日程度で終わる。模擬戦だけなら半日もかからんし、移動だってこの大陸付近なら数日あれば足りる。
それが最低でも二ヶ月? どういうことだ?
「はい、そこが非常に問題でして……。まず、距離が非常に遠く、船で20~30日ほどかかってしまうのです」
『なんだそりゃ? 世界の果てにでも連れていく気か?』
「まあ、当たらずとも遠からずという感じでして――。行き先はハガネ領国。ハガネ将国の属領にして、東の果ての小さな島です」
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