第259話 誤認
浪城大隊ほかが戦闘を開始したその頃――別方面では、もう一つの攻撃部隊が行動を開始していた。
「隊長、浪城大隊が戦闘を開始しました」(出村)
無線報告を受けた柄垣は小さく頷いた。
「よし、予定通りだ。次は我々の番だな」
そう言うと、地図上の目標地点を指差す。
「集積所をもう一度火の海にする。第36普通科連隊重迫撃砲中隊、第37普通科連隊重迫撃砲中隊は砲撃準備。第36普通科連隊第1中隊は周辺警戒を継続しろ」
「了解」
部隊は既に攻撃開始位置へ到達していた。夜明けの薄明かりの中、迫撃砲陣地では隊員達が手際よく射撃準備を進めている。観測班から次々と情報が送られてきた。
「目標地域を確認」
「敵集積所を視認」
「射撃諸元入力完了」
報告を聞き終えた肝原隆方三等陸佐は、双眼鏡越しに遠方の集積所を見据えた。浪城隊が敵の注意を引き付けている今こそ好機だった。
「撃て!」
号令と同時に迫撃砲が一斉に火を噴く。鈍い発射音が連続して響き、砲弾は大分市郊外の別集積所へ向かって飛び立った。
その数10秒後――。
敵後方で新たな爆発が発生する。最初の砲撃に対応していた帝国軍は、再び襲いかかる砲撃に晒されることになった。
補給路の防衛を行う、第52後方警戒旅団は、燃え盛る集積所の消火活動に追われていた。敵との戦闘ではない。まるで消防隊じゃないかと、憤っている。兵の1人、カプラ・ナン上等兵は、子どもの頃は消防隊になりたかった事を思い出した。消防隊の試験は落ちた。今、消防隊の真似事をしているが、軍人としての道を選んだ手前、素直には喜べない。
「21歩兵科大隊と、320戦車大隊は何をしているんだ…」(オース・オシェイ陸軍少尉)
小隊長の1人、オース・オシェイは、仲間の遺体を回収しながらぼやく。
「どうやら1か所にしか向かっていなかったようだな。この砲撃はさっきとは別方向からのものだ」
別の小隊長がオシェイに話しかける。
「アホかよ」(オシェイ)
オシェイは思わず呟いた。
火の手が回っていない区域では、第50兵站旅団と第51補給管理旅団の兵士達が慌ただしく動き回っていた。倉庫から運び出されたコンテナが次々とトラックへ積み込まれ、輸送将校達は怒鳴り声を上げながら車列の再編成を進めている。砲撃で失われた集積所の機能を補うため、残存物資を別の保管地点へ移送しているのだ。
「急げ! 次の砲撃が来る前に運び出せ!」
「車両が足りません!」
「足りないなら歩兵中隊の輸送車も回せ!」
集積所全体が混乱に包まれていた。
エミッショ・コイン准将は地図を見つめたまま思考を巡らせていた。
第301機械科歩兵連隊を投入すれば、敵砲撃部隊を追い払うことはできるだろう。いや、掃討できるかもしれない。だが、それは本当に敵の狙いなのか。
彼女はタブレットに送られて来た報告書へ目を落とした。最初の砲撃、それに対する反撃。そして別方向からの第2波。偶然とは思えなかった。
「敵は我々を動かそうとしている」
コインは静かに呟く。それは砲撃による損害よりも、コインにとって不気味だった。
「砲兵を叩くために部隊を出せば、さらに別の場所を攻撃する。今度は集積所ではなく司令部かもしれん」
側近の参謀が口を開いた。
「では、第301機械科歩兵連隊は待機ですか」
「ああ」
コインは即答した。
「敵の狙いが見えるまでは動かさん」
そう言いながらモニターの作戦地図へ視線を向ける。
「敵は我々を補給部隊だと思っている」
コインは静かに言った。
「だが、相手がこちらを誤認しているからといって、こちらまで相手を誤認していい理由にはならん」
参謀達は黙って頷いた。砲撃そのものよりも不気味なのは、その先が見えないことだった。
「斥候を増やせ」
コインは命じる。
「砲撃地点だけではない。周辺の森林地帯、街道、集落も調べろ。敵は必ず別の何かを隠している」
「了解しました」
その頃――。
コインが斥候の増派を命じていた頃――。
既に集積所周辺の森には、自衛隊員達が潜んでいた。彼らは砲撃の様子を見ていない。燃え上がる集積所にも興味はなかった。
彼らが見つめているのは――
登場人物紹介
肝原 隆方
生年月日:1979年7月30日 / 出身:岡山県
階級:三等陸佐 / 役職:第36普通科連隊重迫撃砲中隊長
カプラ・ナン
種族・性別:ダチョウ型鳥人族の男性
所属・階級:陸軍上等兵で、第50兵站旅団所属
備考:ダチョウ型なので空は飛べないが、足は速い
オース・オシェイ
種族・性別:天使族の男性
所属・階級:陸軍少尉で、第50兵站旅団所属。小隊長の1人
出村 舜玖……第一空挺団第3普通科大隊所属
柄垣 獅導……第一空挺団第3普通科大隊長
エミッショ・コイン……陸軍准将で、ハイエルフの女性。司令官
※消防隊……アステリム帝国での消防組織。軍とは別組織だが、軍と同じ階級で動いている。
※体調崩しました。しばらくお休みします。




