01 深夜のファミレス
オレンジ色の看板が夜の入り口を照らす、駅前のファミリーレストラン。その自動ドアの脇で、雅美は所在なげにスマートフォンを眺めていた。約束の時間より少しだけ早く着いたのは、彼女なりの律儀さからだ。夜風が少しだけ冷たくなり始めた頃、街路樹の向こうから見覚えのある影が駆けてくる。
「待ったー?」
博彦だった。少し息を切らしながらも、その表情には隠しきれない高揚感が滲んでいる。雅美はスマートフォンの画面を消し、コートのポケットに手を突っ込んだまま、小さく微笑んで答えた。
「いや、そんなことないよ」
二人の間に流れる、いつもの、しかしどこか新しいことが始まる予感に満ちた空気。博彦のその「嬉しそうな顔」を見れば、雅美には分かる。また彼の中で、新しい物語の種が芽吹いたのだ。
店内に足を踏み入れると、冷房の効いた空気と、深夜特有のまどろんだ喧騒が二人を包み込んだ。案内されたテーブル席に腰を下ろすと、博彦は慣れた手付きでメニューを開く。やってきたウェイトレスに手短に注文を済ませると、彼はセルフサービスのコップに注いだ水を一口、喉に流し込んだ。
水を置く音が、開始の合図だった。博彦の瞳が、パッと輝きを増す。
「聞いて聞いて! 新しい小説のネタをまたたくさん用意してきたよ!」
対面に座る雅美は、まさに水を口に含もうとしていたところだったが、その勢いに押されるようにして慌ててコップを置く。彼女の唇に、呆れと期待が混ざったような笑みが浮かんだ。
「またー? ほんとに次から次へとよく思いつくね」
「順番に話していっていい?」
「うん、いいよ。聞かせて」
雅美が身を乗り出すのを確認し、博彦は少しだけ声を潜め、しかし確かな熱量を持って最初の一文字を紡ぎ出した。
「まずは、『懲役15年』!」
「ふむふむ。いきなりブラックな話ね」
「これは、ある凶悪犯が懲役15年の判決を受けて、ある刑務所に服役する話なんだ――」




