第2章 関塚アキト【まさか〝あの子〟ではあるまい】
班長、モリアーノ、レミナの三人は無事に現実世界へと帰還した。DMSから脱して起き上がる。
体力を使い果たし、危機を乗り越えて各自の息は荒げていた。
「危ないところだったな。お前たちが無事で何よりだ」
ダイブルームへサクラが急いで入ってくる。
「大丈夫だった? けっこう走ったみたいだけど。みんなさすがに鍛えられているわね。私だったら途中であきらめちゃう。モリアーノ、あんた青ざめているけど大丈夫?」
「何ともない。大丈夫。平気、平気」とモリアーノは気丈に振る舞った。
サクラは念のために三人に対して心理状況分析把握マシンでメンタル・スキャンを迅速にかけて異常がないか調べていく。
するとひとり呆然としながら座り込むレミナに班長が気づいた。彼女は虚無にちらばる空白の一つを選んで見つめ続けている。
「レミナ、大丈夫か?」
班長もモリアーノもサクラもレミナに視線を送った。
「どうしてあのとき鉈は止まったのかな……」
「きっとあの野郎にためらいが芽生えたのさ。お前のようなか弱い女をかち割るわけにはいかないだろ」
レミナはモリアーノの言葉に反応せず、呆然としながらため息を繰り返した。
まさに危機一髪だった彼女の手先が微かに震えている様子に比賀は気づいていた。レミナにしては珍しい様子であった。
「レミナ、落ち着け。深呼吸しろ。所詮は仮想空間だ。もっと全てを大きくとらえろ。お前は現実で生きている。さっきは何かがあった。リュオ側に問題があったかもしれない。サクラ、レミナに水を。必要ならスタビライザーも飲ませてくれ」
すると遮るようにレミナが、
「いいわ。大丈夫よ。今はケーキが食べたいわ」
健気な女の子らしい言い分に、あきれた顔を浮かべつつも安堵の溜め息をつく班長とモリアーノだった。
レミナはそのままダイブルームのチェアでゆっくりしながらいくつか散らかった気持ちを整えていた。
すると何か思いついたかのように表情のスイッチを入れたレミナは、
「もしかしたら魔法を扱うバウンティ・ダイバーが同時にダイブしていたかもしれない」
そう答えをゆっくりたぐり寄せるように思い返した。さらにモリアーノは、
「俺も同感だ。鉈の止まり方からすると、あれは魔法専門のダイバーが潜っていた可能性ある」
「ダイバーは基本的にドクモノ標的でゲドックスから報奨金受け取るのが当然だけど、私の命を狙う〈ハンター〉も近頃は多い。真相はわからないけど、私の存在をいやがる作家たちがダイバーに高額で依頼をかけているって噂も聞いているし」
そんな中でも自分を救ってくれるバウンティ・ダイバーが存在するのか——
今宵の彼女はどこまでも懐疑的になってしまい、その若い表情の眉間には悩ましい皺が寄ってしまう一方だった。
「レミナ、心配しなくていい。俺たちがお前を守るから安心しろ」と班長。
次第にレミナはいつもの彼女らしい冷静な表情を取り戻していった。同時に一人の男の影がちらつくと、彼女はこうつぶやいた。
「まさか。あの子ではあるまいし——」
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