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彼岸よ、ララバイ!  作者: 湯ノ村
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秘密の遊び③

「いいや、それもだめだ。自分が記録を塗り替える。一番にね!」


 後ろ暗い遊びへの並々ならぬ意気込みを眉の細さと共に気炎として吐く。


「太一、お前が始めに行くと直ぐに見つかって施錠されちまうだろう?」


 まるでゲームを楽しむかのような軽い調子で、互いを牽制し合い、正しい順番とやらを決めようとしている。


「一番手は俺が丸い」


 “太一”を諫めて自分が口火を切る人間として相応しいと、彼は胸を大きく広げて自信の程を標榜した。発起人もそれに頷き、異論はなさそうである。彼は一気呵成に立ち上がり、頼り甲斐のある歩調でもって居間を離れた。扉越しに玄関の開閉が聞こえてきて、邪な挑戦に赴く鯔背を空目する。


 それから、十分弱だろうか。少年の帰還を待つ三人は一様に首を捻り始め、「遊び」に要する時間として長物なものになってきた。壁掛け時計の針が下った瞬間、発起人はこの状況に適した言葉を吐く。


「遅いな」


 誰一人として脱兎の如く逃げ出したと言い出さなかったのは、秘密の遊びがこれまで幾度となく繰り返されてきており、今になって疚しさを覚えるとは頭の片隅にもなかったからだろう。


「なんだよ。帰ってこないじゃないか」


 自ら一番手を名乗り出た太一は、不満を発露させて彼の行動に対して苛立ちを募らせた。


「……」


 発起人もすっかり閉口し、居間は沈黙に浸かる。生徒はこの静けさを居心地が悪いと感じていなかった。興味のない話題を空中に追って、風見鶏さながらに首を振るほうが生徒にとって、何よりも苦痛だったのだ。しかし、いつまで経っても姿を現さない彼の行方は蔑ろにはできない。


「見に行こう」


 発起人の提案に乗っかって、三人は居間を離れる。そして、障子に穴を開けて覗き込むかのように、玄関の扉に隙間を作り、通路を恐る恐る盗み見る。


「いないぞ」


 あっけらかんとした通路の様子は、彼がそこにいた名残りすら感じず、何も手を付けないまま家へ帰ってしまったような微睡む空気があった。


「バレて帰りやがったな」


 失敗に終わった気恥ずかしさから、彼は戻ってこなかった。結論として申し分ない。呆れ返った発起人と太一は「やれやれ」と気怠げな所作を見せ、居間へ戻っていく。その過程で「遊び」に対する興は削がれたようで、早々に散開の運びとなった。


 眠ることに没頭した晩が尾を引き、起床のタイミングは大きくずれた。


「よく寝れたよ」


 意図しない新たな人付き合いに心労が祟った生徒は、朝礼のチャイムを恙無く教室で聴くことを念頭に置き、齷齪と制服に着替える。居間にある朝食を黙殺し、生徒は玄関に一直線に向かう。履き慣れたはずの靴に手間取りながらも、勢いよく外へ出た。過保護な通学路の信号機は、生徒の登校を尽く阻み、列を成して並んだ赤色を恨めしく思う。闘牛さながらの荒々しい鼻息を催し、車の切れ間を見計らい、なりふり構わず横断した。

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