とある六回忌②
夜の通学路は、寂しげだ。囀る鳥もいなければ、くっちゃべる口もない。散り散りになったクラスメイトの中には、外国へ行った奴もいるらしい。きっと、地元を離れた人間ならば、里帰りに此処を歩くだけで爛々と目を輝かせるのだろう。学生生活の延長にある日常の風景として、今尚そこに存在する俺からすると、ひたすら目が滑った。
「ふぅ」
まるで過去を生きているかのような辛気臭さに、吐いた息が地面を濡らす。巡る季節が歳を連れ出し、知らぬ間に錆びつく身体は日々の倦怠感となって巻き付いた。
「夜風が気持ちいい」
赤ら顔とはいえ、田頭の感覚が羨ましかった。肌に触れる全てを嫌悪する俺の器量は、昔より遥かに狭く、底が浅い。明くる日を生きるのに必死で、周囲の変化を心地よく思う余裕がないのだ。
「代わり映えしないよなぁ」
空き地だった場所に家が建ち、古びた家屋は潰されて、駐車場になった。駅から少し離れた所には巨大商業施設も出来て、より一層車社会への順応が求められた。通っていた小学校では、お色直しに校舎が塗り直されて、記憶は上書きされた。少しずつだが、長い時間を掛けて変化があった。しかしそれらは、人に指摘されて初めて気付く程度の取るに足らない変化であり、町に馴染んでしまえば、耽る感傷もない。それでも、田頭と幼馴染である俺は、記憶を共有し得る仲にあり、すぐさま保管しあえた。
「昔、ここに教習所があっただろう」
「嘘?! マジか……」
模擬的な走行のために設けられた道路は、サッカーコート二面程度の広さがあった。今はもう、ドミノを並べたように鼻っ面の似た家々が密集して並んでいる。
「まぁ、俺たちが中学に上がる前に潰れたけどね」
「なら覚えてなくて当然だ」
田頭は、病的な物忘れではないことを確認して安心すると、今度は、白痴のようにはしゃぐ。
「あった!」
ありふれた学校だ。誰もが勉学に励むわけではない学力と、汗を流すのに丁度いい部活動が織り成す、凪いだ学生生活。時刻は午前零時前。思い入れは乏しくも、卒業生の一人として、点呼を手向けよう。
「立川総合高等学校」
田頭は子どもながらに門扉へ飛びかかった。門扉は前傾し、食いしばるレールとぶつかり合って金属の甲高い音が鳴る。悪戯な風の仕業だと嘯けば、針のむしろを隠せない汗の量を垂らしそうだ。
「おい、酔っ払い。あんまり物音を立てるんじゃない」
「すまん、すまん」と、頭を縦に二度振った。アスレチックスに登る子どものような無邪気さは消え、老け込んだ身体を操るようにやおら門扉を乗り越える。




