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彼岸よ、ララバイ!  作者: 湯ノ村
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ランチランチ ①

 脳を無駄に働かせたくないという理由で、平日の昼食はコンビニの弁当を常用し、新商品には手を出さずに決まり切ったパスタを購入する。味の変化はないが、自分の中の一定の基準を満たす商品である事は間違いない。ただ休日も例に漏れず、コンビニで少しだけ物色する程度の変化しかなく、自分にとって「昼食」とは、それほど力を注ぐべきものではなかった。


「今日は俺がとっておきのランチを教えてやるよ」


 だからこそ、知人の惹句に乗せられた。もし仮に、値段にそぐわぬ食事になろうが、勉強料として考える心の余裕は持っている。知人が胸を張って紹介した食事処に辛辣な評価を下すような真似はしない。期待などかなぐり捨てた。昼食を吟味する拘泥がない自分からすれば、本来なら有り合わせでいいのだ。


「ふ〜ん」


 鼻歌混じりに知人の案内に従っていると、見慣れぬ住宅街に連れてこられた。駅前や商店街などの食事処とは一線を画す景色である。はっきり言って、不安がしずしずと喉元まで迫り上がってきている。


「習慣は毒だ」


 これは知人の口癖だ。その性質は、自分の生活に当てはめれば、水と油だと言える。反りが合わなくて当然の関係ながら、今日に至るまで険悪な雰囲気を纏う事はなかった。ただ、無駄に歩かされているような感覚に陥った現在の状況は、旗色が悪い。


「なぁ、どこに行く気なんだよ」


 痺れを切らして思わず口に出すと、知人はゆくりなく指を差した。


「ここ」


 色と表札でしか区別することができない、典型的な新築分譲一戸建ての民家が立ち並ぶ一角で、「ランチやってます」と集客を試みる、とりわけ目立つのぼり旗が掲げられていた。一階の居間を改装して営むレストランの敷居の高さは、近隣住民をもってしても、なかなかに苦労するはずだ。


「入るよ」


 だが、知人はあっけらかんと玄関の取っ手に手を伸ばし、入店を知らせるベルを鳴らした。その手慣れた態度に常連ならではの気風を感じた。


 店内に入ると、大幅な模様替えが施された内装に目が惹かれた。四脚の椅子が用意された店内で最も大きなテーブルが中央に配され、壁際の四隅に二脚一卓の要領で左右対称の導線を作っている。このレストランを切り盛りするエプロン姿の女性は柔和な微笑みを口の端に湛えながら、客人である我々を中央のテーブルへ案内した。大量生産に向かない流線形の照明や、タイルに張り替えられた大理石風の床は生活臭を排斥する為の苦心の跡だろう。


 人が賑わい、せかせかと客の回転率を上げる大衆性とは乖離する場所での営業は、メニューの豊富さを衒学的に披露する趣向へのカウンターとして、ハンバーグを主食にサラダやスープ、日替わりメニューの四項目で構成された簡素なメニュー表がテーブルの上に置かれていた。

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