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彼岸よ、ララバイ!  作者: 湯ノ村
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明日からの話①

 俺の語り手としての能力は著しく低い。伝聞に次ぐ伝聞はひたすら信憑性に欠け、荒唐無稽な物語を滔々と語るフシがある。耳を傾ければ傾けるほど、惰眠を貪ったあとの徒労感を味わうはずだ。浮世離れと言うには聞こえがいいし、胡散臭い語り口の排斥を願うかのような白眼視をとかく受けがちである。代わりに、人の話を聴くのは得意だ。あっけらかんと首を振って鎮座ましますだけで、その場に馴染むことができるからだ。教室では大抵、四人でいることが多く、俺から話題を振ることは滅多にない。煩雑とした思案とは無縁な所作が何より心地よく、貼り付けたような空笑いが即した。


 蜂が耳元を飛び去るだけで嫌な記憶に結びつく太平楽な日常を謳歌している教室の一角で、それは前がかりに突飛な姿勢から繰り出される。


「昨日の夜、マンホールから変なのが出てくるのを見たんだよ」


 眉間が訝しむより早く、粘性の高い息を人中に垂れる。それは、世迷言をにべもなく突き放す息の漏れ方であったようだ。いつどのようにしてどのような感情であったかを、理路整然とつぶさに説明しだす。加害者が冤罪を訴えるかのような迫真の語気を節々に織り交ぜながら、遠慮会釈なく語るため、しずしずと聞かざるを得ない。義憤に駆られて熱心に身をやつす姿や、説得じみた口吻を俺たちにするべきではなかった。


「夢でも見てたんじゃないか?」


 この一言で片付けられる口惜しさを俺は知っている。そしてその一言が覆されることもないことを知っている。俺の意見に他の二人が同調して、他愛もない世間話へ事も無げに移った。


 軽薄な相槌で会話を淀みなくやり過ごす。夢遊病さながらの浮き足立った身持ちをひがな一日、味わった。俺は常に気がかりだ。有象無象の鏡の前に立たされて多角的に観察されているような錯覚に陥って、見栄の張り方を探り続けている。それは箸の使い方から始まり、


「お前、なんで遠回りしてるの?」


 このような言葉に肝を冷やして以来、学校へ行くまでの道のりにすら気を遣った。人は普段と違う身の処し方を目にすると、図らずも口に出して確認する習性がある。暗中模索する海底の魚のような気分だ。本能という形で落とし込まれた遺伝子情報によって抜き手を切り、プランクトンから栄養を摂ることを無自覚なうちに察するものの、それは酷く歪で浮上すると指を差されて指摘されてしまう。舌鋒に比肩する恐ろしさがあり、如何にして取り繕い整合性をもたせるかに苦心する。この「にわか仕込み」にも慣れた俺からすると、揃えた足並みを乱されることがもっとも恐ろしい。


 俺たちは、始業を前に軽く雑談を交わすのが日課としていた。だがしかし、四人一組の群れが形成されなかった。奇々怪界な話を持ち出した一人が、仏頂面を構えて机に座ったまま動かないのである。軽微な変化だと侮るなかれ。俺を除いた二人がそいつの事情を探ろうと率先して向かって行ってしまうのだから。


「具合でも悪いの?」


 顔色を伺うように目配せしながら「え? あぁ、そうかも」と、下手な言い訳を拵えて虚空に焦点を合わせる。俺は頭を抱えかけた。これほど首尾が悪い男の尻を拭かなければならないことを。


「怒ってるのか」


 機嫌を損ねていると、男の態度に意味を付与する。しかし、「怒ってないさ、怒ってるように見える?」当然のように否定されて、立つ瀬がなくなった。恐らく、いくら言葉を投げかけても芯に響くことはない。俺たちはその場を離れ、意味深長な男の振る舞いについて、再考する。

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