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彼岸よ、ララバイ!  作者: 湯ノ村
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負け知らずのコンビニ店員⑤

 身体に現れつつある攻撃の意思を隠すのに商品棚は大いに助かった。口ほどに語る目の色に男はなるべく悲哀を込める。虎視眈々と田中の虚を突く機会を積み上げる男の狡猾さは、「強盗」らしからぬ姿勢だろう。しかし、一泡吹かせたいという一心で、全ての工程を抜かりなく演じるつもりであった。


 金属バットが持つ生来の性質に則すなら、“振る”行為は無視できない。だが、人間に

備わる狩猟本能に従うならば、金属バットを槍のように扱うことは、お門違いな発想ではないだろう。ならば、手詰まりに陥った人間が導とする、上記の本能に目覚めた男は、金属バットの先端に活路を見出したのは至極当然のことになる。点で標的に襲いかかるその動作は、複眼を持たぬ人間の目ではなかなかに捉えづらい。あまつさえ、腕と金属バットの長さを合わせると、常人離れした反射でのみ、“突き”から逃れられる。つまりこの奇襲は、男が期待するより遥かに高い次元で成功する確率があった。


 商品棚越しにすれ違うほんの一瞬、二人の間に緊張の糸が張り出し、互いにそれを引っ張り合ってピアノ線さながらの鋭さを帯びる。そんな力の均衡から逃げるように、男は視線を逸らした。巷で話題になるコンビニエンスストアへ強盗に入る特殊な趣向は、貧困からくる金銭の奪取とはかけ離れた力の発芽を睨んだものである。だからこそ、一時の感情に流されず、田中が見せた奇襲に寄与する効果的な方法を実践するだけの冷静があった。


「ガタ!」


 まるで壁に這う害虫を駆除するかのように、男は出し抜けに機敏な動きを見せて、商品棚の上から金属バットの突端を田中に向けて腕を伸ばす。一矢報いる為のその攻勢は、先刻までに見せた無鉄砲な暴力の迸りとは異なり、田中に対する敬意と恐れを含んだ隙の突き方であった。しかし、田中に慢心はなかった。男が立てた物音を察知した途端、何より早く身を屈め、頭上に金属バットを逃した。脳から降りてくる電気信号を咀嚼しないまま身体を動かす能力は、一朝一夕で披露できるものではないし、常日頃からそのような状況に追い詰められているからこそ、とっさに避けることが出来たのだ。


「?!」


 視界から忽然と消えた田中の行方に男は目を丸くする。それもそのはずだ。確実に捉えたと思われた一撃が、膝の曲げ伸ばしによって避けられた上、金属バットを掴まれて引き込まれそうになったのだ。獰猛な野生動物に噛み付かれたかのように顔色は一瞬にして青く染まり、全身の穴という穴から焦燥が汗として滲み出る。そして、金属バットを介して伝わってくる田中の腕力に男は臆面もなく怖気を口に出す。


「ひっ」

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