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1 曇り、ときどき雨 お前はいつも、生意気な奴だな。

 僕と生意気な灰色の猫


 登場人物


 一ノ瀬棗


 一ノ瀬柚


 プロローグ

 

 お前はいつも、生意気な奴だな。


 本編


 曇り、ときどき雨


 猫を拾う。


 季節は夏。月は七月。その初めごろ、一ノ瀬棗は一匹の猫を拾った。

 その日は、雨が降っていた。暑い夏の日。雨の中。道路の脇。そこに一匹の小汚い猫がいた。そいつはじっと棗のことを見ていた。だから棗も、その猫をじっと見返した。

 そいつはとても弱っていた。青い目と道路と同じ色をした灰色の毛並み。そんな猫を見て、珍しい猫だな、と棗は思った。棗は手に持っていた傘を首と肩の間に挟んで支えると、その場にしゃがみこんでそいつに向かって手を差し伸べてみた。しかしそいつはそんな気まぐれな棗の優しさを無視して、棗の手に甘えたりはしてこなかった。棗はその態度がとても気に入った。こいつはプライドの高い猫だ。それだけで、なんだか棗はそいつのことをとても好きになれそうな気がしたのだ。

 棗はにやっと笑う。そして、その小汚い灰色の猫の体をつかんで持ち上げた。

 そいつは棗の手がそいつの体をつかんでも、じっとしたままで暴れたりはしなかった。そんな元気はもうこいつには残っていなかったのかもしれないし、もともとそういう性格の猫だっただけかもしれない。どちらにしても今さっき出会ったばかりの猫のことを棗はまるで理解できていなかった。だからこれからこいつのことを理解したいと、このとき棗は頭の中でそう考えていた。

 猫を抱いて、棗は立ち上がる。

 白いシャツは小汚い猫のせいで汚れてしまった。帰ったらすぐに洗濯しなければいけないだろう。そのことを少しだけめんどくさいなと棗は思った。棗はまだ名前もつけていない猫に向かって「お前のせいだぞ」と小声で叱ってみたけれど、猫は「そんなこと頼んだ覚えはない」とてもいいだけな瞳で棗の顔を見返しているだけだった。そんな猫の顔を見て、棗はますますそいつのことが気に入った。

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