55話「総体-3日目」
今日勝てば明日まで残れる。何だか1年生の新人戦の頃に戻ったみたい。
あの頃は次の日に残れるか、という試合で負けて肉離れになったんだっけ…
そんなことを思いながら会場へ向かっていた。
会場につき、いつものように基礎打ちを済ませ、試合が始まる前。先生の所へ全員集合した時だった。
「今日まで残った人、どんだけおるんけ?」
そう言われ今日試合がある人が手を挙げる。
「9人か、少ないな。けど残った人らは負けた人の分まで頑張らんなんぞ」
そう言った後、先生が私の方を向いた。
「神崎、今日試合番号この中で1番最後やったか?」
「そうです」
「神崎今、両足サポートしとるな?」
「はい、接骨院の先生にサポート付けて試合に出ろと言われたので」
「今日、それ外して出ろ」
私は先生が何を言っているのか分からなかった。
「え、何でですか?」
「それ付けとると私は脚を怪我しています。ってアピールしとるようなもんやろ?」
「確かにそうですけど、でもこれがないと…」
サポートを外して試合なんて1度もしたことがない。サポートをしているお陰で痛みは半減しているのに、これを外したらどうなるか…
「今日両足のサポーター外して出ろ、分かったな。じゃなきゃ試合には出さん」
「先生!無茶苦茶過ぎませんか!?」
「そうですよ、余計に脚痛めたらどうするんですか!」
皆が先生に反発してくれる。
「この大会が最後なんや、多少無理しても問題ないやろ」
ザワザワ
どよめきが起こった。だけど私は不思議と冷静だった。
「分かりました」
私はその場で両足のサポーターを外した。
「怜奈、何しとるん!」
「先生の言う通りこれしとったら相手に怪我しとることバレバレや、チャンスって思われることも間違いない。」
「だからって…」
皆が心配してくれているのは本当に有難いと思った。だからこその決断だった。
「サポーター無しでやって悪化するのは仕方ないよ。まず切れ癖つけてしまったのが悪いしね。でもやっぱり最後の試合は後悔しないでやり遂げたい」
「だったらサポーターしてやった方が絶対いいよ!」
「ううん、サポーター付けてるとね、自分は怪我をしているからこれだけのことしかやれない。って思っちゃうんだ。なかったらまだ行けるって思えると思う」
皆心配そうに見ていた。
「無茶苦茶なこと言ってるって言うのは分かってる。もしかしたらもうバドミントン出来ないかもしれない。でも今日後悔残したらそれこそバドミントンなんて出来ないと思うんだ」
「分かった。だったら全力で怜奈を応援する!」
「うちも!」
「俺も!」
皆がそう言ってくれた。
「俺らがお前のサポーターになるよ」
「皆ありがとう」
こうして三日目の試合が始まった。
試合が始まり次々と試合が終わり、私の試合番号が近付いてきた。
「緊張しとんか?」
「優大…うん。」
「怖いか?」
「ちょっぴり」
朝あんなこと言っておいて…今私はビビっている。
「怜奈、これ食べてみ?」
優大に何か手渡されそれを口に含んだ。
「甘い…チョコレートだ」
優しさに包まれた感じがした。
「1年生の時も同じことしてくれたよね」
「懐かしいな、俺が緊張しとった時に怜奈が緊張解す方法教えてくれて、その後に俺が怜奈の緊張をチョコレートなんかで解して」
「あの時本当嬉しかった。勿論今も」
「俺も皆も応援しとるからな」
嬉しかった時、悲しかった時、辛かった時。いつも皆がそばに居てくれた。
『試合番号…』
「行ってくるね」
『行ってらっしゃい』
「ファーストゲーム、0オールプレイ」
試合が始まった。相手はおなじ3年生で強豪の高校のメンバーの一人だった。
だけど今そんなの関係ない。後悔しない試合をすると決めたんだ。
1ゲーム目、21-13で負けた。
「怜奈!大丈夫やぞ!落ちついて!」
梓が声をかけてくれた。
「うん!まだ諦めてないよ!」
私はニッコリ微笑んでコートに入った。
「セカンドゲーム、0オールプレイ」
これで負けたら本当に終わり。でもここで終わりたくない。もう1ゲームしたい!
私はその一心だった。
前を向くと対戦相手。その奥を見ると皆がいる。
21-19で、ギリギリだったが勝てた。
「頑張れ!!いけるよ!」
「諦めんなよ!」
皆の声援が背後から聞こえる。これが最後と思わずに試合に臨んだ。
「ファイナルゲーム、0オールプレイ」
11-8でチェンジコートになった。今負けている状態だ。何としても勝たないと…
「怜奈!」
そう呼ばれその方を向いた。
『皆ここにおるぞー!』
声を合わせてそう叫んでくれた。それだけで私は泣きそうになった。だけど今は泣くところじゃない。最後までやるんだ。
相手に何度も前後に振られ、振り返しを繰り返していた時だった。私の脚に限界が来た。
「いっ…」
前に取りに行った時、激痛に襲われた。
私は崩れ落ちるようにその場に座り込んだ。
今18-14。相手にあと3点取られたらそこで終わり。
今棄権したらここで終わり。
1番の最善策は勿論後者。だけどこんな状態で終わったらそれこそ一生後悔することになる。
私が選んだ道は…
「怜奈!!」
私は立ち上がり皆の方を向いて口パクで、
「大丈夫、滑っただけ」
そう言った。それが伝わっていたかは分からない。だけどホッとしたような顔をしていたと思う。
私は足の痛みを我慢し、最後まで喰らいついた。
21-16
試合が終わると同時にその場へ崩れ落ちた。
もう両足限界で、痛みは一切引かない。
皆降りてきて、美鈴と梓は今にも泣きそうな顔をしていたのは覚えている。
私は救急隊員によって担架で運ばれた。
「無理しすぎや。結構重症な肉離れやぞ。特に右足」
私は病院の先生にこっぴどく叱られた。
「しばらく歩くの困難やと思うけど治ったら運動も出来るから安心して下さい」
「ありがとうございました。」
病院が会場の近くだったため、私は会場へ戻ることにした。
「このまま帰ってもいいんやぞ?」
付き添いの先生にそう言われたが、
「荷物もあるしそれに皆心配してると思うので。あと皆の顔見たいから戻ります!」
安静にと言われたので車椅子に乗って移動する。戻ると今、先生の話の最中だった。
先生とは向かいあわせの状態で皆は私に背を向けているので私には気づいていない。
「神崎には本当に申し訳ないと思う。今病院で治療してもらっとって、まだ先生からは連絡ないしどんな状態かは分からん」
「サポーター無しでやるなんてやっぱり無茶だったんですよ!」
女子の泣き声が所々から聞こえる。
私はいつ出ていこうと思っていた時だった。先生と目が合った。
(合図したら声掛けなさい)
そう口パクで言われた。幸い皆下を向いていたので気づかれていない。
「神崎が来たら泣くのやめて笑顔見せてやれよ?」
「戻ってこないんじゃないんですか?」
「それは分からんな…」
そう言うと先生が頷いた。多分これが合図なんだろう。
「ねー、何泣いとるん。うち死んだわけじゃないんやけど?笑」
バッと皆一斉に振り向いた。
「一気にこっち向くと怖いよ笑」
「怜奈…」
女子はボロボロ泣き、男子は泣きはしないが変な顔と、驚いた顔の人がいる。
「戻ってきたら笑顔を1番に見たかったー」
『おかえり』
皆涙を浮かべながらそう言って笑った。
「ただいま」




