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『ひまわりのように ひたむきに 見つめ続けたい
あなたの笑顔 温かな お日様の言葉』
清々しいそよ風に後押しされながら、歌声が青く澄んだ大空へと響き渡っていく。
聖ベルル教会の聖堂に、森の木々に、小鳥たちに、そして集まってくれたみなさんの心に、私の声は届いているだろうか?
ずっと待ち望んでいた今日、晴天にも恵まれ、お日様も祝福してくれているように思えた。
微かにしなやかな手振りを添えて、私は歌声を風に乗せる。
大丈夫、あんなに頑張って練習してきたのだから。
『ある晴れた日 急ぎ足の歩道 風がささやいてくれた
穏やかな朝の日差しの中で あなたを見つけた』
マイクを持つ手が小刻みに震えているのが自分でもわかる。
晴れの舞台だから、やっぱり緊張してしまっているのだ。
見習いとしてではあったけど、小さな規模の舞台には、これまで何度も立ってきたというのに。
たくさんの人が私を見て、歌声を聴いてくれている。
緊張のせいか、流れるメロディーと自分の歌声以外なにも聴こえない。
幼い頃から夢に見ていたこの日、幸せいっぱいではあるけど……。
失敗したらどうしよう。
そんな不安ばかりが私の胸を締めつける。
『思わず立ち止まった 恥らう林檎のような私と
まぶしい太陽のきらめき溢れる あなたの瞳』
……ダメダメ。集中するのよ。
聴いてくれているみなさんに、ちゃんとした聖歌をお届けしなくちゃ。
私はこれでも、聖歌巫女なのだから。
私にとって初めての正式な聖歌披露会。
今はその真っ最中だ。
絶対に成功させないと。
『うつむいて駆け出した 臆病な私の小さい背中を
ただ優しく見送る その視線だけは感じてた』
淡い色の花飾りが散りばめられた、ひらひらのフリルが揺らめく真っ白な衣装に身を包みながら、私は大勢の人の前で歌声を奏でる。
……お母さんも、私の晴れ姿を見てくれているのかな……?
ふと視線を巡らせると、舞台の袖から心配そうな顔をのぞかせているマニスのおかっぱ頭が見えた。
マニスは胸の前で両手を合わせ、祈るようにこちらをうかがっている。
ほんと、心配性なんだから。私は大丈夫よ。
そんな思いを込めて、軽く微笑みを返す。
その背後には、この教会の神父であるお父さんが立っていて、そっとマニスの肩に手を乗せていた。
こちらに穏やかな視線を向けてくれているお父さんも、やっぱり心配そうだった。
大丈夫だから、安心して見ていて。
私はマイクを持つ手に、きゅっと力を込める。
『ひまわりのように ひたむきに 想い続けたい
あなたの笑顔 温かな お日様の吐息』
ワンコーラス歌い終えて間奏に入る頃になると、少しは緊張も緩んでようだ。
私はまっすぐ正面を向いて、舞台からの展望をしっかりと視界全体に捉える。
そこには、数えきれないほどたくさんの人たちが並んでいた。
そして瞳に飛び込んできたのは、
笑顔、笑顔、笑顔、笑顔―――。
みんな、楽しんでくれているんだ。
私は今、聖歌巫女として、みんなの前で歌っているんだ。
そう実感した私の耳に、青空を突き破らんばかりの歓声が大波のように押し寄せてきた。