人生は奇想天外! 1
お気に入り登録、評価などありがとうございます!
わたしは玄関扉を開けたまま凍り付いていたのだけど、目の前の王太子殿下は、家の中から響くクリスの鳴き声に血相を変えるとわたしを押しのけるようにして勝手に家の中に入って行った。
……えー⁉
いくら王太子であっても家主の許可なく家の中に入るのはいかがなものだろう……ってそうじゃなくて!
王太子が向かったのはダイニングで、わたしは大慌てでそのあとを追う。
すると、ベビーベッドの前で王太子殿下がへなへなと崩れ落ちているのが見えた。
「……あの、殿下……ですよね?」
わたしが王太子殿下の顔を知っているとは思わなかったのか。殿下は顔を上げて、すごくバツが悪そうな表情を浮かべた。まあ、王太子殿下が一人でふらっと城下町にやって来て民家に押し入った、なんて……一歩間違えればスキャンダルだものね。
「君は、ええっと……魔石ギルドの所属している製石師だと聞いたのだが、何故私の顔を知っている? ここ数年は公務も控えめにしていたと思うのだが」
「失礼いたしました。ドール子爵家長女アシュリーと申します。まあ実家とは縁を切ったので、元、子爵令嬢ですけど」
わたしがワンピースの裾を軽くつまんでカーテシーをすると、王太子殿下は「は?」と目を丸くした後で首を横に振った。
「ちょっと待ってくれ。子爵令嬢が実家と縁を切った? あーいや、その前にまずこの子のことを……えーっと」
王太子殿下はどうやら混乱しているようね。
わたしもどうして殿下が護衛も連れずにこんなところに現れたのか気になるところだから、ひとまずお茶でも出して話を聞いた方がいいかしら?
……って、あんまり高い茶葉は買ってないし、王太子殿下って知らない人に出されたものに口をつけるのかしらね?
気になったけれど何も出さないのはこちらの気が引けるので、わたしはお茶を入れて来ると伝えてキッチンへ向かう。
クリスはまだ泣きじゃくっていたのだけど、王太子殿下がひょいっとベッドから抱き上げるとぴたりと泣き止んだ。
……?
クリスは人見知りはしない子なんだけど、あんなにも簡単に泣き止むなんて珍しいこともあるものだ。
王太子に赤ちゃんの世話を任せるのは気が引けるのだけど、他に人がいない以上、急いでお茶御入れて戻るしかあるまい。
……頼んだわけじゃないし、勝手に見てくれているんだからいいわよね?
一人で来たということはお忍びと言うやつだろう。お忍びで来ているのだから多少の無礼には目をつむってくれるはず。……だといいな。
二人分のお茶を入れて戻ると、王太子殿下は手慣れた様子でクリスをあやしながら、とろけんばかりの笑みを浮かべていた。
……そういえば、殿下は子持ちだったわよね。
ロンズデイル国王太子ローレンス殿下。御年は二十一歳で、二年前に結婚した。一年ほど前に第一子となる王子が生まれたとは聞いたけれど、もともとあまり体が丈夫でなかった王太子妃の体調が優れず、王子のお披露目は控えていたはずだ。
王太子妃は空気のきれいな保養地で療養中で、ローレンス殿下も王都と保養地を行ったり来たりしていたはず。
王太子妃の体調がすぐれないため、殿下は公務もセーブしていたのよね。生まれたばかりの息子と病弱な妻が心配で、一年の半分以上を保養地で過ごされていたから。
クリスに向ける愛おしそうな表情から察するに、ローレンス殿下は子供が好きなのだろうか。
……あれ? でも、こうしてみると殿下とクリスの顔がどことなく似ているような……?
そして、いくら子供好きでも初対面の赤子にあれほど愛おしそうな顔を向けるだろうか。
わたしはダイニングテーブルにお茶を出しながら、嫌な予感を覚えた。
あり得ない。
あり得ない……と、思いたい。
でももしかしてもしかすると……殿下が外に作ったご落胤なんてことがあったりするのかしら⁉
ざーっと血の気が引いたわたしに気づいたのか、ローレンス殿下がこちらを見て眉尻を下げた。
「隠してもしょうがないから先に伝えておくが、この子……クリストファーは私の息子だ」
やっぱりー‼ と叫びそうになったわたしは、ハッとした。
待って。
クリストファーって言った?
わたしはとうとう立っていることさえもできなくなって、へなへなとその場に頽れる。
……クリストファーって、王太子殿下と王太子妃の間に生まれた、第一子の名前じゃないの⁉
面白い!続きが気になる!続きが読みたい!と思ってくださった皆様、
ブックマークや下の☆☆☆☆☆にて評価いただけると嬉しいですヾ(≧▽≦)ノ







