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遅くなりました。第一話です。
Side- 千草葵
「すまん葵!期末テストの範囲教えてくれ!!」
講義が始まる10分前、講義室のドアが勢いよく開けられたと思えば短髪の男がこちらに向かって歩いてきて、手を合わせながらそう口に出す。
この男は藤堂健志
金色に染めた髪の毛を短く切り揃えてサイドをツーブロックにしており、いかにもチャラそうな見た目をしている。さらには顔もかなり整っているという始末である。いわば我々陰キャの天敵である。
それもあってコイツは女の子にモテまくる。
はずなのだが、大学の入学オリエンテーションで話しかけられて以来やたらと俺に話しかけてくる。
女の気が一切ない俺に話しかけてくる意味は今でも分かっていない。
なぜ絡んでくるのか、一度直接聞いたことがあるが「女の子と話すより葵と話してる方が楽しいから」と嘘か本当か分からないような説明をされた。
「えー…だいたい健志が先週の講義休むのが悪いんでしょ」
「つってもさ?今学期入ってから必修もゼミも休んでなかったじゃんかあ…」
この話から分かるようにこの男は講義をよく休む。
たとえそれが必修であってもだ。
本当に大学を出る気があるのだろうかと思ってしまう。
だがこの男の言うように以前よりも休みの回数が明らかに減っていた。
天変地異でも起こるのではと思ったほどだ。
まあ相変わらず遅刻はよくするのだが。
そんなバックグラウンドがあるので、今までよくやった方と思うべきだ。
仕方がないので今までのご褒美に見せてやろうという気にもなる。
「まあ今までよくやったよ。健志にしては」
そう言いながら健志にテスト範囲に付箋を付けたテキストを渡す。
「マージで助かる!!やっぱ持つべきものは葵だな!」
サラッと気持ちの悪い発言をする友人である。
「いやあ…先週出たゲームが楽しくてやめらんなくってさ」
碌でもない理由で休んでいたようである。
「そういえば葵って悪役キャラ好きだったよな」
健志の思っていた数倍しょうもない休みの理由に呆れていると、
突拍子もなくそんな質問を投げかけてきた。
「違うよ、俺が好きなのはヴィランな。ただの悪役キャラと一緒にされちゃ困る」
今言ったように、俺は生粋のヴィランキャラ好きなのだ。
そして今健志の言葉に入れた訂正の通り、ヴィランはただの悪役キャラとは違う。
その違いは、行動原理に善性を秘めているかどうかである。自分の快楽を満たすためだけに行動するような三下とは違う。
自分が過去に経験した悲しい過去やひどい仕打ちを通して
二度と悲劇を生まないよう世界を変えてやろうという強い意志から悪としての力が覚醒し、主人公たちの前に壁として立ちはだかる。
表面に映る悪性の裏に隠された善の心、そのギャップに俺は惚れたのだ。
よっぽどそこらのヒーローよりもかっこいいと俺は思っている。
「はいはい…そんだけ好きだってことは分かった」
それでなんだが…と健志は言葉を続ける。
「そんな葵に俺が今ドはまりしてるゲームをおススメしよう」
俺のヴィラン好きとなんの関係があるんだと言いたいのを抑えつつ次の健志の言葉を待つ
「そんな顔すんなって。多分聞けば多分葵もやりたくなるハズだぜ」
失礼、抑えられてなかったみたいだ。まあそれは置いておくとして。
「まあ一応話半分くらいには聞いてあげるよ」
健志は少しムスッとした表情をしながらもまあいいかとばかりに説明を始める。
「そのゲームってのが『The Empire Of Rain』今流行りのVRMMOってやつだな」
「あー…その名前は茉莉から聞いた覚えがあるな。今流行ってるんだっけ」
茉莉は俺の妹で、少しブラコンは拗らせているような気がするが可愛い妹だ。
そんな茉莉から1か月くらい前に「トレーラーを見て面白そうだから一緒にやらないか」と誘われたのだが、当時は大学にバイトにと忙しさに目を回していた時期だったので断っていたのだ。
しかしそのゲームの名前を健志の口からも聞くことになるとは。
どうやら本当に流行っているらしい
「キャッチコピーが『運命を掴み、物語を紡げ。』って言うくらいだからな正直そこらのゲームと格が違う。とにかく自由でプレイの幅が半端じゃないほど広い」健志はそう語ると、続けてこう言った。
「つまり、人間以外として生きてもいいし、究極を言えば種族は人間として始めて人間側の敵として生きてもいいんだ。ま、人間以外の陣営はメリットが少なすぎて選ぶヤツはほとんどいないんだが」
なるほど。段々と趣旨が分かってきた。
つまり健志が言いたいのは…
「ヴィラン、できると思わないか?」
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