幸せを持ってくる彼女は
空を見上げると星が大量に見える。さすが田舎、景色だけはいい。高校の周りは田んぼと線路で遊ぶところなんてない。自称進学校にはちょうどいい立地条件と言える。
「お、また待つのか?」
同じ部活の立花涼太。バトミントン部に所属している。クラスは違うが廊下でよく会い、ダブルスのペアでもある。で、なぜか俺と一緒に階段下のベンチであいつを待っている。
「風邪引くから帰りなよって言ってるじゃん」
「ゆうたじゃん!今、終わり?」
「なんだ、立花もいたのか」
ゆうたと呼ばれたのは笹原勇気だ。ゆうたっていうのはあだ名らしい。こいつはミュージカル部に所属して裏方専門だ。特に照明をしていて舞台に立つ気はないという。前に「私はみんなを照らすのが役目」って言ってた。
「好きで待ってるんだからほっとけよ」
「心配してるんですよ、谷山さん」
無表情でそんなこと言われてもなんとも思わないしな。こっちも本当に好きで待ってるし。…といっても高校の最寄り駅までの20分のロードで話すためではないのだ。
「あれ?もう一人は?」
「勇気!先に行かないでよー」
笹原と同じミュージカル部の松川桜子。こいつと俺は同じクラスで天然である。スタイルもいいからパッと見モテるのだが、中身が中身なのでそこまでモテない。こいつは役者らしく少年や少女の役が多いと笹原が言ってた。
「桜子、トロいんだもん」
「そんなことないよー。ゆうたが早いだけ」
笹原は少しせっかちなところがある。だからか足は、絆創膏が貼ってあることが多い。この季節はどうやら、タイツを履くらしくどんだけ貼ってあるか分からないけど。
「谷山くんもいるー。また待ってたの?」
「ん」
「早く帰ろうよ。寒いし」
「ゆうた、手袋貸せ」
「あんたなんかには貸さない。谷山とおててでも繋いでおけ」
「やめろ、笹原。気色が悪い」
ガサツな言葉、深入りしてこない礼儀、活発的なところ。昔のあいつとは大違いすぎて困る。前はあんなに大人しくていつも本ばかり読んでる奴だったのに。
「ゆうた、肉まん食べよ!」
「うん、いいよ。駅前のでしょ?」
「今さ!10円引きだから!」
「俺もいく」
「じゃあ…俺も」
さっきも言った通り、俺は高校から最寄りの駅までの道で話そうというわけではない。俺と笹原にはもう1つの帰り道があるのだ。いや、もちろんこの帰り道も好きだ。でも、それよりも…。
…それは俺らの最寄りの駅から俺らの家までの10分。それが俺が待ってる訳だ。ストレスがあっても、あいつと話せば気持ちが楽になる。あいつは俺に幸せを持ってきてくれる。