ハチミツが苦手な彼女は
「じゃあまたねー」
そう言って松川が反対のホームの電車に乗った。この4人の中で松川だけが上っていくのだ。俺ら…つまり、笹原と涼太と俺は下っていく。ここに立花がいないと俺の楽しみの時間が始まるのに。
「ゆうた、今度の公演はいつ?」
「あー今の?クリスマス公演って面目だからその頃かな」
世間まだ11月。まあ、クリスマスの飾りも増えてきたけど。高校の最寄り駅はツリーあったし。俺の家にはリースが飾られてるし。
「じゃあ、部室でクリスマス?」
「谷山も彼女いないからボッチマスでしょ」
「悪いな、彼女持ちなんで」
「立花はどうでもいい。黙ってて」
「確かにな。黙ってろ」
立花は隣のクラスの女子と付き合っている。確か…体育館の運動部のマネージャーさんだったと思う。羨ましいかと聞かれたら、羨ましい。でもな…いたらいたで面倒というか、なんというか。
「あ、もう降りなきゃ。じゃ、立花」
「おう、また明日な。ゆうたと博人」
高校の最寄り駅から約10分。俺らの最寄駅に着く。ホームからの階段を登るが笹原は後ろの方にいる。改札を出て右の方へ。俺は左側でも帰れるんだけどな。また階段を降りて少し待ってる。
「…先に行ってていいのに」
「さっきも言っただろう。好きで待ってるんだ」
そうすると後ろにいた笹原と合流する。ここからが俺の楽しみの時間。笹原は高校内の事情になぜか詳しい。だからなのか、俺がそういう話をすると喜ぶ。だから、それを餌にしていつも一緒に帰ってる。まあ、いつも餌があるわけじゃないけど。
「笹原は今回の劇も照明?」
「うん。それ以外はうまくできないし」
「嘘つけよ。台本とか書くのもうまいし」
「お世辞は結構。…あのさ、飴いらない?」
「飴?」
珍しいな、物をくれるなんて。いつも俺にたかるのに。基本、あんまんをたかる。実はさっきもたかられて、おごってしまった。
「はちみつ味、苦手なのにその他の飴が食べたいがために買っちゃって。はちみつ味が余ってるの」
「それで俺に」
「いる?」
「まあ…ひとつもらって美味かったら」
そう言うと、ブレザーのポケットからひとつ取り出した。俺の手に乗せて、自分の手はポケットにしまった。俺はもらった飴を口に含んだ。…甘いな。でも、普通に美味いぞ。
「これならもらってもいいよ」
「本当!?わーい!ありがとう!」
滅多に見ない笑顔。いつもそこまで表情を出さないからこんな笑顔は珍しい。キラキラとしてる。…あの先輩は、この笑顔に惹かれたのかな。俺には何で惹かれたのかは分からないけど。
「ってこんなにあるの?」
「うん、ごめんね」
「大丈夫。誰かにあげるよ」
じゃあまた明日、とさよならを告げる。俺は右の道へ。笹原は左の道へ。ここから先は約5分でお互いに家に着く。まあ、送っていってもいいけど嫌がられるのは目に見えてる。
そういえば、なんだか今日はモヤモヤしてたな。特に笹原と涼太が話している時。一体なんだろう。




