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隣の席

「サラダサンド?」


 購買でサラダサンドを手に取った立花に後ろから声を掛ける。


「うわ、びっくりした」

「それだけじゃ腹減らない?」


 立花は周りを見回した後俺に話しかけた。


「今日は三井君と一緒じゃないの?」

「ああ、あいつはさっさと食って勉強しに行ったよ。昼飯一緒にどう?」


 え、っと立花は今にも消えそうな声を出した。


「何で?」


 その返しに思わず失笑した。


「何でってなんだよ。1人で食うより美味いよ、きっと」


 俺はサラダサンドの隣にあるカツサンドとカップスープを手に取った。


「……うん」


 俺たちは会計を済ませてから何処で食べるか話し合い、いつも立花が行っているという体育館前の石段まで向かった。そこからは丁度グラウンドの半分が見渡せて、サッカーやキャッチボールを行う生徒たちが織りなす、賑やかな音を感じることが出来た。


「へえ、立花スポーツとか観るの好きなんだ?」


 石段に小さなタオルケットを敷いて腰かけながら、立花はサラダサンドのフィルムを剥がした。


「ううん、ここに居ると1人でもみじめじゃないでしょ」


 苦笑する立花の隣に座りながら俺もカツサンドのフィルムを剥がした。カップスープには購買でお湯を入れて、ここまで持ってきた。


「立花って1人が好きなのかと思ってた」

「そんなことないよ。嫌いではないけどね」

「俺も」


 前に出ろ、逆サイ逆サイ、生き生きとした声がここまで聞こえてくる。


「寒いのによくやるよな」

「高橋だって昨日夜に空を見に行ってたんでしょ? よくやるよ」


 立花はくくっと含み笑いを浮かべた。


「だよな、俺も何で行ったのかわかんないんだよ。色々もやもやしててさ」

「もやもやか~、高橋って悩み無さそうだけど結構繊細なんだね」

「こう見えて色んな事考えてるんだぜ? ポマードのこととかジェルのこととか」


 水筒の中身をカップに注ぎながら立花は吹き出した。


「好きだね、ポマード先生の事」

「立花のこととか」


 ぴくっと立花の動きが止まる。ドラマではよくある光景だが実際に目にすると非現実的な動きが演技のようにも見えてくる。


「私の事?」

「うん」

「どんなこと?」

「別に大したことじゃないんだけど」

「いいから、言って」

「今何してるかなとか、また会いたいなとか」


 俺たちの後ろの通路を何人か生徒が通る。その気配も足音もとても薄く、水に溶けたように存在感が無かった。


「私さ」


 立花がぽつりぽつりと話し始めた。


「高橋がポマード先生に呼び出されて職員室の前に居た時、話しかけるのすっごい緊張したんだよ」


 予想外の内容だった。


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