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22/22

22話 遺跡

 ゴブリンの頭を釘が貫く。斜面にある穴から出てきて少し泳がせたところで仕留めた。その場で崩れ落ちたゴブリンはそのまま斜面の下へ滑落していく。


「よし。とりあえずこれで大丈夫だな」

「じゃあ早速ダンジョンの中に入ろう!」

「だからダンジョンじゃねぇって。墓だって」

「ぐぅ……!だがしかし僕は諦めないぞ!きっと内部でダンジョン化してるに違いない」

「はいはい。そういうことにしておいてやるよ」


 まったく。ハジメは未だにダンジョンの可能性を捨てていない。さっき岩を見たときに墓だって言ったじゃないか。面倒だからもう放っておくぞ。


「ゴブリンが出てきたってことは、中に魔物が棲み着いてる可能性が高いよな」

「シンの【警戒】で何か分からないの?」

「う~ん……。それがさっきからよく分からないんだよな。ゴブリンは姿が見える直前にスキルに反応したんだけど、それまではあんまり感じなかったんだよ」

「そうなんだ。どうしちゃったんだろ」

「分かんないな。でも、ここまで来たら中を確認しないわけにもいかないし、注意しながら行くしかないか」


 俺は妙にそわそわしているハジメにここで待つように言ってからゴブリンの出てきた場所を確認しに行く。今にも滑り落ちそうな斜面にできた獣道のような細い道をゆっくりと歩く。【警戒】があてにならない状況だ。念のため【忍び足】を使って足音を消しながら行く。

 穴があると思われる場所に近づくにつれ、斜面にできた窪みがよく分かった。思ったよりも大きそうだ。横幅が人がすれ違えそうなほどある。

 窪みの中にある穴を視界に収めた。斜面から穴の中をうかがうように顔を覗かせると、目に飛び込んできた光景に驚愕する。そこには奥に通じる石造りの通路があった。壁や床は土砂崩れの影響で一部が崩れているものの、堅牢な作りが見て取れる。先ほど下に落ちていた岩はこの通路の入口を塞ぐための物だったのだろうか。


「これは凄いね。とんでもない遺跡じゃないか」

「――うぉっ!は、ハジメぇ!?」


 背後から突然聞こえた声に驚いてしまった。思わず飛び上がって足を踏み外しそうになる。


「あ、危ねぇな!ビックリさせんなよ!落ちたらどうすんだ!」

「ごめんごめん。驚かすつもりはなかったんだ。ただちょっと興味を抑えられなくて」

「~~っ!おいアヤメ!ちゃんと押さえててくれよ!」

「ごめんシン!気がついたらそっち行っちゃってて!そこ怖くて追いかけられなかった!」


 うおぉ……。忘れてた。そういえばアヤメは高い所が苦手で遠足で行った展望台でも端の方には行こうとしなかったっけか。これは俺のミスでもあるか。とはいえ、それはそれとして納得いかない。


「ハジメさん。あんたなぁ、パーティーなんだから仲間の言うことを守ってくれよ。今日は独善的な動きが多すぎるぞ」

「ごめんって。つい舞い上がっちゃって」

「勘弁してくれよ……」


 ハジメがこんな調子なら早めに帰ってギルドに報告した方がいいかもしれないな。でも、できるのか?そんなことが。今のハジメならどこまでも突き進んでいきそうだ。さっきからの様子を見ていて止められるような気もしない。これは諦めた方がいいのか?


「それにしても、妙だね」

「妙なのはあんたの行動だろ」

「ん?何か言ったかい?」

「いや、別に。それで、何が妙なんだ?」

「下にあれだけ大きな岩が落ちていたのに、地面の崩落が少ないんだ。あんなのが落ちるくらいだから地面ごと落ちるのが普通だと思うんだけどね。でも、ここは歩けるくらいのスペースがある」

「つまり、何が言いたいんだ?」

「ここを直した奴がいる」

「は?そんなの誰がやったって言うんだよ。ギルドもここのことは言ってなかっただろ?」

「そうなんだ。だから妙なんだよ」


 ハジメは通路の方へ歩いていき、入り口付近でしゃがんで床の石を見始めた。這うようにして床を見て触わり、かと思えば壁や天井も見始める。何をやっているんだ?


「やっぱりだ。崩落したにしては綺麗すぎる。」

「たまたまじゃないか?」

「たまたまで地面がこんなに平らなわけないって。天井も壁も剥がれそうな所が全く無いのは不自然だ。たぶん、ここを見つけたやつか、この中にいたやつの仕業だと思う」

「それってつまり……」

「中にゴブリンがいたことを考えると、魔物だろうね。やったのは」


 それってかなりマズいんじゃないか?今の仮説が正しければ、この中にここを直せるくらいの知性を持つ魔物がいるってことになる。そんな得体の知れない魔物がいるかもしれない場所に行くのは危険すぎる。


「なぁハジメさん、帰ろう。帰ってギルドに報告しないとマズい」

「いや、ここは中を調べるべきだ。本当にそんな魔物がいるかは分からないんだ。憶測の報告をされてもギルドが困るだけだろ」

「ここにこんな場所があったって報告するだけで十分だって」

「ダメだ。その報告で調査に派遣された冒険者が低級だった場合、死んでしまうかもしれない。だから報告する前に魔物の種類くらいは確認するべきだ」


 くそっ。なんでこのパーティーは揃いも揃って頑固なやつばかりなんだ。だいたいにして俺たちだって十分低級だろ。自分のことを棚に上げて何を言っているんだ。

 ただ、ハジメの言っていることにも一理ある。ゴブリンのいる遺跡らしきものを見つけましたってだけではギルドも危険度を軽視してしまうだろう。そこに、何者かの手によって修復されていたようだと付け加えたところで、いるかどうかも分からない魔物の対策のために中級の冒険者を派遣するのかという話になってしまう。ならば、ある程度調べたうえで報告した方がギルド全体を見たときに安全だ。

 やむを得ない、か。あんまり危険なことはしたくないんだが、ギルドに伝えるべき情報が少ないと言われればその通りだ。通路の先を調べに行くしかなさそうだ。

 自分の中で一つの答えを出したとき、斜面の道を伝ってアヤメもやってきた。余程怖かったのだろう。広い場所に辿り着くと膝から崩れ落ちて、今にも泣き出しそうな顔で震えている。


「もう!ハジメさん1人で行かないでくださいよ!あんな所に1人で残されるなんて怖かったんですから!ここに来るまでの道も怖いし……」

「ご、ごごごごめん。今度から気をつけるから泣かないで――」

「泣いてなんていません!」


 ヤバい。アヤメが珍しく怒っている。周りが見えてない。怒りたくなる気持ちも分かるけど、ここでそんな大声で話していたら危ない。


「ちょっ、アヤメ、落ち着けって」

「ねぇシン!シンからも言ってよ!」

「分かった。分かったから落ち着けよ。そんな大声出してたら魔物に見つかるぞ。ってもう手遅れか」


 通路の奥の方から物音が聞こえてきた。俺たちは話すのをやめて通路の方へ目をやる。硬くて軽い物がいくつもぶつかり合うような音を響かせながら少しずつ、ゆっくりと近づいてくる。音が反響していて数は掴めないが多くはなさそうだ。


「なに、この音。気持ち悪い」


 アヤメがさっきまでの勢いが消えて呟く。腰の刀に手をかけ、その目が険しく鋭くなっていることから既に戦闘モードになっているようだ。


「墓の遺跡でこの音。嫌な予感がするねぇ」


 ハジメはどんな魔物が来るのかをなんとなく理解したようだ。だが言葉とは裏腹に口元を緩ませながら杖を構えて魔法の準備を始めた。

 2人とも、さっきまであんなに騒いでいたのにしっかりと切り替えてるあたりはさすがだ。俺も腰のショートソードを抜いて備える。

 やがて、音の正体が姿を現す。日の当たる部分に白く細い棒や小さな塊を組み合わせたような足が出てきた。スケルトンだ。地に足を着ける度にそれらがぶつかり合いカチャカチャと音を立てている。そして手にはボロボロの刀を手にしていた。


「アヤメ、ハジメさん、もしかしたらここは俺たちの探していた場所かもしれないぞ」


 スケルトンの持っている刀を見る。


 〈刀〉古代の刀匠が打った刀。劣悪な環境と整備不良により著しく劣化している。


 やはりだ。あの時、オーガロードに投げて砕け散った刀と同じ情報が出てきた。ということは、あいつらの持っていた刀とこのスケルトンの持っている刀の出所は同じなのではないか?それなら話が早い。ここを探索すれば俺たちのジョブの疑問に対する答えがあるかもしれないということだ。

 ただ、この件は俺たちだけの秘密だ。ギルドや他の冒険者たちに知られるのはマズい。やれやれ。なんだかんだ迷ったけど、結局はハジメの言うとおり俺たちだけで探索を始めざるを得ないようだ。

 まぁ、それはそれとして今は目の前のスケルトンだな。どうやって倒そうか。

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