からっぽの誕生日
朝起きると、いつも同じことを考える__。
昨日、今日、明日……
この国の人々は、それより外の人々も……
幸せに暮らせているだろうか____。
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「おはようございます、リナーシャお嬢様。」
「お、おはようございます……」
オクトマン伯爵家の伯爵令嬢として生まれ、明日で13歳の誕生日を迎える私、リナーシャ・オクトマンは、生まれてこの方まだ一度も、人の目を見て会話を出来たことがない。
三人の兄と父親がいるが、物心ついた時からも、あまり喋っていない__。
この国、アルヴェイン王国に住まう人間として生まれた私は、礼儀作法も、ルールやマナーも学んだことが無い。
元々放任主義だったお父様は、私にかけるお金など払う気がなかったのだ__。
誰も喋ってくれないし、笑顔を向けられたことがない。
息苦しく、愛のない世界。
もちろん平気な訳じゃない。
しかし、私には昔から唯一の味方が着いているのだ。
「今日はなんの本かな……」
5歳くらいの時からだっただろうか。朝、気づけば机に本が置かれるようになった。
顔も見たことのない私の味方。きっとメイドの誰かだろう。
それはきっと善意だ。そう信じている。
だって毎日毎日、8年間ずっと。
机に置かれた本はいつも心温まる内容ばかり。
正直5歳までの私は、人の気など知らないし、誰とも関わらなくていいと思っていた。でも、毎日優しさに溢れる本を読んでいると、こう思うようになった。
あぁ、人とはこんなに色鮮やかな色彩に彩られていたのか。
情熱の赤も、冷静な青も、爛漫な黄色も__
全てが人には備わっているなんて。
見てみたい。この高い高い伯爵領の塀を越えて。
会ってみたい、話してみたい。本に出てくるような暖かい人達が、本当に存在するのならば。
……なんて。
今日の、本の内容は。
心優しい青年が、お婆さんや子供、貧しい人々や動物。困っている人達に何度も幸せをもたらす物語だ。その内容もまた、心が温まる。
でも、これは3ヶ月前にも呼んだから、そろそろ
〖私の味方〗は本の内容が尽きたらしい。
「ふふっ、まぁ8年も続ければそうなるでしょうね。」
「……いつもありがとう。私の味方……」
(どういたしまして!)
え?今何か声が聞こえた気がしたけれど……
コンコンッ____
「リナーシャお嬢様。」
「は、はいぃぃ!、」
……恥ずかしい。
あからさまにびっくりしてしまった……
……あれ?さっきまで何考えてたんだっけ?
「明日の誕生日、伯爵様と子爵様方がお呼びです。」
「………………!!」
「遅刻しないように、と仰られていました。」
お、お兄様達と、お父様が?!
私はあの人たちに誕生日を祝われたことがない。メイドとの関係も良好ではないので、誕生日はいつも、ひとり乏しく祝っていた。
それもあって私はとても嬉しくなった。
明日は、みんなが私の誕生日を祝ってくれる。
そう思うだけで心がじんわり暖かくなった。
兄たちも、お父様も、実は私を愛してくれていたのだ。
いつもより早い一日が過ぎてゆく。
まだ実感がわかないまま。期待と不安を抱いて_
私は、その一日を終えた。
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__翌日。
私の、誕生日当日。
いつもより体が軽い起床、この屋敷の誰よりも早く起き身支度を始める。
くせっ毛でウネついたネイビーブラックのボブも、今日は何とかしようと思った。
まるで骸骨みたいに肉付きのない体も、自分の私物で一番いいドレスで隠した。
いつもみんなに怖がられる、伯爵家純系の黄金の瞳には釣り合わないようなつり目は…何とかならなかった。
__今日は私が主役なのかもしれない。
きっとドアに入ったら、みんなが祝ってくれる。
優しい顔をするアルシスお兄様__。
ジャスカお兄様はにっかり笑っていて__。
私の手を引くシルビーお兄様__。
__そして、プレゼントを持ったお父様。
そんな妄想を繰り広げていたら、そろそろ約束の時間に近づいて事に気づく。
来いと言われたのは来客室。何故か気になったけれど、屋敷の外に出たことがなく世間知らずな私が、何か知りうることでもないのだろう。
__ついに着いた、来客室。
いつも何気なく通るのに、今はやたら扉が大きく見える……
笑顔になれるように、顔を少しほぐした。気休めかもしれない。
深呼吸をする。コンコンッ___
「おっ、お兄様方、お父様!おはようございます!!」
わ、我ながらいいスタートダッシュ!
次はお礼。ちゃんと、元気に…!
「ほ、本日は、私のためにお集まり頂き感謝を__」
「……なにを言っている。」
「……へ?」
最初に口を開いたのは、アルシスお兄様。意外な応答に思わず声が出てしまった。私は合点が行かず、勇気を持って質問を投げかけた。
「だ、だって今日は私の誕生日。私のために集まってくれたのでしょう…?」
どうしよう。どうやら余計な質問だったらしい、私と同じ黄金の瞳が全部私を睨んでいる。
しかし私はそこで、いつもとは瞳の数が合わないことに気がついた。オクトマン伯爵家の純系のみが持つ黄金の瞳、お兄様方、お父様を合わせて4つのはず。
でも確かに真ん中に、もうひとつの純系の瞳がこちらを見ている。ツリ目の私とは違って大きく純粋な瞳。
「お、お父様…そちらの方は……」
「……あぁ、リナーシャ、挨拶しなさい。」
……私?
私は自分が呼ばれたことにしばらく気づかなかった。だってたまたま聞いたメイド達の会話では、社交界では普通、立場が低いもの、それか来客から挨拶をするのが礼儀だと、そう言っていたからだ。
よく来客の顔を見ると、それはまだ幼い子供だった。4、5歳だろうか。顔つきは幼く、ホワイトピンクの髪映える……黄金の、瞳。
「リナーシャ!早くしろ!!」
ビクッ___!!
お父様が怒っている。お兄様方も私を睨んでいる。私がおかしいのだろうか……
「お、お初にお目にかかります。オクトマン伯爵令嬢、リナーシャ・オクトマンです……」
私の挨拶を終え、次は目の前の少女が話し始める。
「は、はじめまち゛てっ!」
「あっ……」
どうやら少女は噛んでしまったらしく、顔を赤らめている。
その様子はまるで、一輪のチューリップのような。
野原に咲いたスズリンのような。
第一印象は、とても可愛らしい少女だった。
そんな可愛らしい少女の様子を見ていたお父様とお兄様方の表情に、私は衝撃を受けた。
今までに見たことの無い……穏やかな顔。
「リリー、いいんだよ。まだ君はここに来たばかりなんだ。」
いつもどちかと言うと冷静で、感情のないように思えたアルシスお兄様の、いつになく甘い声が、私にだけ強く響いた。
「リリーちゃん、もう一度やってみよう。きっと出来るさ!」
見たことの無い、シルビーお兄様の元気な顔つき。
「リリー、疲れていないかい?後で一緒に休憩しよう。」
いつも剣の修行をしているとは思えない、ジャスカお兄様の壊れ物に触るような優しい手つき。
見たことの無いお兄様達の顔が、一つ、二つと出てくる。
___怖い。
「は、はじめまして!」
「りりーともうします!!」
正直リリーという少女の声は何も聞いていなかった。ただ、目の前に繰り広げられる美しい空間が。
いつになく穏やかな顔をするお父様が。
___怖い、怖い!
「わ、私っ!!」
「体調が優れないので…失礼します……」
出ていこうとする私に、お父様は私を呼び止めた。
「まて。」
「は、はい……」
「リリーは今日から、うちの養子になり、リリー・オクトマンとなる。仲良くするように。」
その言葉に、私は耳を疑った。
……吐きそうだ。
そのまま私は、何が起きたかも分からないまま。
最高な気分だった誕生日が早く終わればいいなんて思いながら眠った。
_______________________episode1.からっぽの誕生日




