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西園寺須磨子は未だ恋を知らない  作者: 天音紫子(著)×霧原影哉(構成・監修)
第6章 わたくし、強くなりとう存じます
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美佳、見ていないフリをする

 翌々日の午後。やわらかな陽光が差し込む応接室で、須磨子は紅茶を前に少し落ち着かない気持ちで座っていた。


 そこへ、美佳がいつもの軽やかな足取りで入ってくる。


「すまっち、一昨日は大変だったねえ?」


 その瞬間、須磨子は思わず肩を震わせた。


(まさか……あの時の、わたくしのはしたない動揺まで……見られてしまったのでは……)


 胸がどきりと跳ね、息が浅くなる。


「え、ええと……ど、どのようなことでしょう……?」


 動揺を隠しきれず、声が上ずってしまった。


 美佳は一瞬だけ「しまった」という顔をする。


「あ、いや、その……疲れてたって聞いたから! それだけ!」


 あからさまに早口だ。


 しかしそのおかげで、須磨子は胸を撫でおろした。


(よ、よかった……あの現場にいらしたわけではございませんのね)


「ご心配をおかけしてしまって、ごめんなさい、美佳様」


 須磨子がそう言うと、美佳はなぜかほっとした表情をする。


「い、いやいや! すまっちは悪くないから!」


 その様子が少し可愛らしくて、須磨子はふっと微笑んだ。


「実は……わたくし、護身術を習い始めましたの」


「……え?」


 美佳の目がまん丸になった。


「護身術って……あのすまっちが?」


「はい。わたくしの身は、わたくしで守らなくてはなりませんもの」


「……す、すまっち……」


 驚かれたあと、美佳はぽんと手を打った。


「うん、いいじゃん! すっごくいいと思う!」


 そして、須磨子をじっと見つめ──眉を上げる。


(※ここからの変化は、わたくしにもわかりました)


「……ははーん。なるほどねえ……」


「な、なにか……?」


「いや? 別に? ぜーんぜん? うん」


 けれど、その表情を見ればわかる。


(この方は、すべてお見通しなのですね……)


 美佳はにっこり笑って言った。


「すまっち、応援してるから!」


 須磨子は思わず頬を染めてしまった。


「まあ……ありがとうございます、美佳様」


 この日、須磨子はまだ気づいていなかった。


 美佳が、あの日の出来事を「実はすべて見ていた」ことに。


 そしてこれから先、物語がさらに複雑に、そして甘く絡まっていくことにも──。

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