第十話 動き出す歯車
ブランベルク王国を出てから俺は国境付近の大森林に集落を造った。
300人以上の大所帯と言うこともあって移動は大変だったものの、いざ辿りついてからが早かった。
数キロほど離れた場所に海岸を見つけ、俺は前回と同じく地中に穴を掘り始め水を引き、これまた地中に浄水設備と排水処理設備を建造。
この設備は以前使用した設備を大規模に改造。そこに連結で上下水道設備のラインを構築して地上へと繋げた。
まあ一度造ってしまえばそこから早い。実は優秀なるAIのリリスとアリスの並列演算処理によって、俺の【魔導錬金システム】【アイテムストレージシステム】
【魔導錬金データ】【アイテムストレージデータ】【圧縮魔晶石データ】【回収魔力データ】【ソウルスティールデータ】など、構築と解析などを繰り返して得られた情報を元に新しいシステムが構築されたのだ。
───|広域アーティファクトシステム《アーク》
これは未知の可能性だった技術を再現する能力といってもいい。
要するに俺にとっては未知でも何でもないが、この世界のこの時代では早すぎる技術の発現をさせる意味でこういう名前が付けられた。
これにより、ダンジョンを一気に生成することができるだけでなく、この能力を扱う俺自身が膨大な魔力を得たのである。
リリスとアリスを併合させたAIのヤヌスが言うには進化したのだとか。
先日の戦いでデスマシーンこと異世界人ヒラノケンゴを倒し一度ソウルスティールを行った際に、彼が今まで殺して手に入れた異種族や魔物の魂や魔力を一気に吸収しただけでなく、常に魔導錬金を行った副産物としての経験が総量底上げに繋がったのだとか。
これで俺は建設を楽に出来るようになったのである。
大森林の中に出来た東京ドーム10個分の広さの敷地を覆うハイテクの壁。
これは今まで解析は出来ても作成が出来なかったクロムオリハルコンを、リリスとアリスが併合され演算処理速度が底上げされたヤヌスによって更に強度や硬度、対魔性能に魔力付与能力まで格段にアップした新しい金属で作り上げられた。
この金属は俺のミドルネームにちなんでミストルティンと名付けられる。
ちなみにこの金属の性能はグランオリハルコニウムの更に上である。
つまり最上級のGオリハルコンの次に硬く、それ以上のものでないと破壊できない壁となった。
そしてそのハイテクの壁に設置された外敵用武装にセキュリティシステムは新しく生み出したAIのエリスとセリスによって管理されている。
つまり無人で対応できる仕組みになっているのだ。しかも個々に魔導錬金システムとアイテムストレージリンクを持っているので、弾薬や魔弾の複製は可能だ。
絶対防壁。
内心では心躍ったものだ。
何せ300ちょっとしかいない人口で警備も何も出来るわけがない。いくら元聖女と言えど、無敵でも何でもないし、先日の上位魔族と戦えば大打撃を受けてしまうのは間違いないのだ。
美少女たちを危険な目に合わせることは好まない俺は、防御力に関しては絶対に妥協しないのだ。
最新システムのアークによって小さな街が出来上がり始めた頃だった。地下300階地上20メートル、面積は東京ドーム3個相当の塔を建造した俺は、その中の地上部分3階執務室で頭を悩ませていた。
「ハルベルト様、付近の集落から小鬼妖精のケテラ族族長のオーキスさんが面会を申し出ています」
最近は愛称でヴェロニカのことをヴェルと呼ぶようになった俺と違い、公私を分けて呼び方を使い分けるようになったヴェルが、フレアパンツの似合う漆黒のスーツと詰襟をたてた白のワイシャツに身を包んだ姿で俺の元にやって来る。
俺の以前いた世界でキャリアウーマンが好んで着る服装だ。
胸元がセクシーに開いているのがなんとも言えないほど魅力的。
現在彼女はフェリスと共に俺の秘書官兼護衛をしており、秘書官補佐にはヴェアトリスことトリス、他にアリアとオルカがついている。
それと先日、ヴェイローズこと諜報担当のローズがブランベルク王国からココナを連れて来た。
彼女も俺に償いをしたいと申し出ており、ローズも負傷したさいにココナに助けられたので、彼女が投獄されてから助け出したのだとか。
別に俺は彼女に対して含むところは何もない。確かに斬られたけどな。
事情を知っているからこそ俺は何も言わないし、何よりローズが助けたいと言っているのだから止める理由は無かった。
現在彼女はローズの補佐として諜報を一から学び頑張っている。
さて話を戻すが、ヴェルが持ってきた報告を聞いて俺は大いに悩んでいたのだ。
「人手は確かに欲しいけど、ゴブリンか」
もしかして“力貸してやるから女寄越せ”とか“俺の配下にしてやる”とかの類ではなかろうか。
彼らは一応魔物から派生した魔族の部類にあたるのだが、どうにも好戦的なのが多いのだ。
「でも、ここ近辺ではヒト種族は少ないですよ」
そういうのは白のスーツに身を包むフェリスことフェリ。
「だよねえ。子供の姿で舐められないといいけど」
なるべく友好的に行きたいものだ。
俺は溜息を吐きながら重い腰を上げて1階応接室へと向かった。 既に応接室に
来ていた族長オーキスは小柄なゴブリンで、杖を持っていた。
相当老齢っぽい。
「この度は面会に応じて頂き有難うございますハルベルト様」
予想外の低姿勢に俺は拍子抜けしてしまった。
あれ? どういうこと?
まず話しを聞いてみることで様子を見ようと思う。最初は下出に出て、色々と面倒な要求を出してくる場合もあるのだから。
「はあ、あのう要件とは?」
「はい! 最近お噂はかねがね聞いております。何でもハルベルト様はブランベルク首都にあるダンジョン生まれのスケルトンであったとか。更に強大な力で進化を遂げられ、上位魔人さえも軽々と葬り、あの王国の象徴的存在であった聖女達でさえ服従させられたことも。いずれ魔王になられる方、ぜひ我々ケテラ族を配下に加えて頂けないでしょうか? 我らは小さな部族。いずれこのままでは他部族に潰されるなどして消えてしまうでしょう。そこを何とか魔王様のお力で助けて頂きたいのです」
「あのう、俺は魔王じゃないんだけど」
「いやいやご謙遜を。今の貴方様の魔力を肌で感じておりますが、まさしく魔王様の器でございますよ」
困った。魔王になる気もされる気も全く無いんだけど。まあ、優位な交渉テーブルのようなので俺のペースに持って行こうと思う。
「まあ、俺は魔王を名乗る気はない。まあ助けて欲しいと言うのであれば、俺の言うことに従えるのであれば助けるさ」
「おお! 有難うございます」
「まず、この集落は異種族共存を目的としている。だから人間だのゴブリンだのこの集落での争いや差別は認めない」
「仰せのままに。それでは我らを眷属に迎えていただけますか?」
「眷属?」
俺は初耳な言葉に、後ろに立つフェリやヴェルを見る。
「ハル様、眷属とは魔王同格の者が配下に絶対服従を約束させる見返りに、加護を与える魂の契約ですよ」
《いい加減勉強してくださいマスター》
《私に聞いてくれれば何でも教えてあげるよお~》
リリスとアリスに笑われてしまった。未だ中途半端に魔物の自覚が無い俺。
てか魔王でもないのに眷属かあ。まあ裏切りも無いと言うことであれば巫女達(元聖女)の安全面も考えてしておいた方がいいだろうな。
「わかった。それじゃ改めて部族の皆を連れて来てくれ。ちなみにどのくらいいるんだ?」
「800弱です」
800って。
これがもし続いたら敷地が足りなくなるな。
《エリスとセリスに指示を出せば拡張を勝手にしてくれますがどうしますか?》
そんな便利なの? 物凄くありがたいねえ。これで性格がヤヌスより良ければ文句ないね。
《・・・・・・マスターが数人の聖女のパンツを隠し持っていることや春画仕入計画を立てていることをバラしてしまいましょうか?》
本当止めて! すみません!
思考内でヤヌスに謝り倒した俺は、オーキスとの話し合いが終わった後、俺は思考内でリンクしているエリスとセリスに拡張の詳細を指示し、眷属契約の準備に入ることにした。
いやあ、思考内での伝達は楽だけど隠し事が出来なくて困るね。
いずれ何とかしなければスケルトン人生がバラ色からバラバラになってしまう。
眷属契約は意外にも簡単だった。通常の眷属契約とは、眷属となる者に魔力の一部を分け与える形となる。これは魔王自ら内包する魔力を与えることになるので、下っ端クラスの魔物に眷属契約を行うことなど滅多にないそうだ。
だが、俺の場合はその心配をする必要は無いらしい。まずアークの恩恵で減った分の魔力は、大地から溢れ出るエーテルを魔力に変換してアークを通じて俺に供給されるのだとか。
それと魔力を直接圧縮魔晶石にして魔力を濃密化させて効果を倍増させる俺独自のやり方もあるのだと言う。
ちなみにこれは魔族以外にも全てに適用できると言うことで、急きょ俺は巫女達全員を集めてこの儀式を行うことにした。
だって、やはり巫女達にも強くなって貰いたいし、折角ついてきてくれたわけだからさ。
一生懸命圧縮魔晶石を造り溜してから数日後、ゴブリン達と合同で元聖女である巫女達と眷属契約の儀式を行った。
結果。
不細工な顔立ちだったゴブリン達は、オスは端正な顔の者が溢れ、メスはそれこそ美人揃いへと進化してしまったのだ。ヤヌスの説明によれば、俺の魔力の影響を色濃く受けた結果だと言う。
巫女達は完全に肌や髪が色艶になり、元から綺麗な者達が、男なら誰もが振り返る美女へと変貌。
まあこれだけ綺麗どこが揃うともう何が綺麗とかわかんないよね。
死んでからリア充になっても複雑。
せめてスケルトンになる前に聖女、現在巫女ハーレムになって欲しかったよ。
ただ元々見た目が美の女神というヴェロニカやフェリス含め7人の巫女達はあまり変わっていないけど、それでも他の巫女とは一線を画した美しさであることは言うまでもない。
多くのゴブリンを受け入れた俺は、商業区画を最初に稼働させることにした。っていうのは、元々300名近くいた巫女達に任せてはという意見が多く出ていたのだけれど、俺には崇高なる計画があり、巫女達には商業などを任せたくなかった。しいて言うなら彼女達は大事な象徴的存在である。
その象徴を生かした崇高な計画とは?
今はまだ秘密。
敢えて言うならブランベルク王国が行ったやり方とは全く違う象徴アピールである。
さて、崇高な計画は後の話として、現在ゴブリン達には武器屋・防具屋・食材販売店など様々な商いの準備を行って貰っている。他には農地開拓や林業に漁業と幅広く従事させ、後から来た異種族に技術を教えて上げらえるよう指導していた。
こうして俺の集落は本格的に街として機能し生活基盤が順調に固まりつつあった。
◇
ブランベルク王国首都アルドブルクにある王城。
王宮会議室ではフェルド国王を始め、聖女教会の統括であるケネス=オブライエン枢機卿、イングラム公爵など数名の大臣職の貴族が集まっていた。
神妙な面持ちの面々のいる会議室の扉が開かれ、一人の少女と数名の男達が中に入って来る。
「おお、そなたがエスプリオ皇国から派遣された異界の勇者ですな」
フェルドが立ち上がると、その場にいた貴族達も立ち上がって一礼する。勇者と呼ばれた少女は静かに目礼して口を開く。
「アキラ=キリシマです。この者達はエスプリオ皇国精鋭の騎士団です。今回魔人クラスの魔物の討伐と伺ってましたが?」
酷く覚めたような口調のアキラ。ポニーテールに結わえた細い襟足の束が静かに揺れる。
彼女が席に着くのを確認してから国王達も着席した。
「ええ。遺憾なことに本来戦力であるはずの討伐のエキスパートの聖女達の大半を、スケルトンの上位種である魔物にたぶらかされ引き抜かれてしまったのです。情けない話ではあるが」
「まるでハーメルンの笛吹だな。それでエスプリオに援軍要請ですか。ちなみに魔物は討伐するとして聖女は?」
「連れ帰って貰いたい。恐らく操られているのでしょう。魔物を倒せばきっと彼女達も目を覚ます筈です。本来我々の部隊で救出を行いたいのですが、向こうには聖女の中でも上位7人に名を連ねる者がおりますので。魔王の軍勢と渡り合えるアキラ様のような勇者の方々にお願いするしかないのです」
困り果てた顔を浮かべる国王をみてアキラは静かに嘆息した。
「表舞台では無双を誇る血まみれのヴァレンタインと裏舞台の支配者影の女王クラウド、実力に開きはあるが実質表舞台ではナンバー2の暴君ラトレーに、諜報工作のエキスパートの無存在オルトレア。氷結魔法のエキスパート氷の女王ルッカに、自然を舞台にしたら無敵の世界樹に愛されしザッハーク、魔導術式の高速構築に魔法創作の天才魔導の叡智者ゼルディア。よくまあこれだけの聖女達を従えさせるということはどういうことかわかりますか?」
「ただの魔物ではないと言うことですかな。少なくとも上位魔族だと私は見ておりますが」
そう答えたのはイングラム公爵だ。老齢ながらも鍛え抜かれていることは衣服の上からでもわかる。
武人気質なのだろう。それだけにアキラは少し残念な気がした。
武人でありながらも彼は未だ危機を理解していないことに。
「後者の聖女であれば上位魔人程度でも何らかの魔法術式でも洗脳は可能でしょう。魔導術式に長けたマリーナ=ゼルディアは難しいかもしれませんが、ヴァレンタインとクラウドは恐らく無理ですね。彼女達を洗脳できるとしたら魔王クラスの実力、それ以下でも、魔王軍の階級で言うところの伯爵クラスでしょう」
魔王軍の階級とは人間などと違い純粋な戦闘能力によって定められている。アキラが詳しいのは幾度も戦ったからに他ならないが。
「は、伯爵クラスですと!」
確かに報告で不穏な魔力の動きは受けていたが、伯爵クラスだとは想定外だったフェルド。じ淡々と分析に基づいた事実を告げ終わると、アキラは静かに立ち上がった。
「お話ではブランベルク王国とトラエスティア皇国の国境付近に集落を構えているそうですが、トラエスティアにも協力を頼んだ方がいいでしょう」
「ふむ。早速手配させよう。他には?」
「行商人に扮して斥候を潜り込ませるので、人員と資材を」
「なるほど。すぐにでも」
フェルドがアキラの言葉を聞き入れすぐに側近に指示して段取りを始めた。
王宮を出たアキラは、王城の外で待たせていた精鋭騎士団を前に深々と溜息をつく。
「今回の戦いは非常に骨が折れるかもしれない。操られているかもしれない称号所持の聖女達を不殺で相手しながら魔王クラスの魔物との戦闘だ」
「大丈夫ですよ。アキラ様なら達成できます。俺らはしっかりお守りしますので」
騎士団隊長のロダンは爽やかな笑みを浮かべる。彼はアキラの副官としてよくやっている。異界から召喚されてから既に2年経つが、気の許せる唯一の部下でもある。
できれば彼を含めて誰も死なせたくない。
アキラは内心の不安を隠すように騎士団に出立の準備を命令を下すのだった。
初っ端から勇者の登場。そして出来上がったばかりの集落に早速迫る危機。
魔王と勘違いされたハルには更なる危機が訪れることに・・・・・・




