第五話
「そんなことは無い。お前の言っていることはもっともだ」
総樹の言葉は的を射ている。
ネフェティアという密閉された空間において義務教育以上の知識が必要になるかと聞かれると、答えは否。研究として世界の成り立ちなどを追及すること以外に、知識を活用することなど殆ど無い。最低限の知識を備えた後には、働くことの方が世界のためになる。
ただでさえこの世界は謎が多い。その中で生きていくためには人手が多いに越したことは無いのだ。
俺の行為はそれに逆らっているという訳ではないが、否定的に見られるのも仕方ないことだ。だからこそ俺は総樹の言葉を肯定したのだが、総樹の表情は晴れなかった。
「そうだとしても、今のは失言だ。いくら正しいと言っても、口に出して良い事と悪い事があるのは分かっている」
発言を撤回はするが、正しい事は否定しないのが総樹らしかった。もっとも、そこを否定したら俺はそれを更に否定する気だったが。
「それにお前は遊軍副代表様だ。十分この世界に貢献している。俺みたいな下っ端以上にな」
「後半部分にかなりの嫌味が含まれてる気がするんだが」
そもそも俺の年齢で副代表になっている事が異例中の異例、というわけでもないのだが、世界の決定を少しでも俺に委ねて良いのかと遊軍の人間に問いたい。
「副代表って言っても形だけだ。俺以上に貢献している奴なんか大量にいるだろう」
俺はそこで一人の少女を思い出す。
「あぁそう言えば今度の二周年式典でまた伊織のコンサートがあるらしいな」
総樹も同じ少女に行き当たったようだ。
榊伊織、現実の世界でも活躍していたアイドルで多くのヒット曲を出していた有名人であり、総樹と同じく宿舎の仲間である。
現実世界の世界で一切かかわりを持った事が無い人が集まったネフェティアにおいて、伊織は元から知名度が高かった数少ない人物だった。その人気もあってこの世界でも歌手として活動をしている。