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静寂のトリガー  作者: 桜油
2章
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23/23

23

臨波、榛原との共同任務決定から数日後。


オレは今日も今日とて報告書の処理だ。

爆弾魔について調査をしなくていいのか、という心配があったが、臨波曰く、


「特殊工作B……確か爆発物処理とかが評価されてだったよね。でも、ハッキングは未経験でしょ。こればっかりは音を聞いたってしゃーない分野だし。その点、ボクはハッキング得意だから、色々調査してみる。収穫があったらまた声をかけるから、それまでは研修と任務を消化しといて」


とのこと。

そう言ってくれるならありがたい。仕事が減ったな。

ハッキング研修も視野に入れつつ、とりあえず今回は臨波に任せることになった。


東雲は相変わらず、スパスパと終了任務や制圧任務を消化してくれている。オレは東雲が無理しない程度にどんどん任務を受領して、サクサク調査して指示を飛ばして、どんどん報告書を捌いていこう。


1つ目。ある喫茶店の店主を『終了』させる任務。

いや、喫茶店の店主に罪は無いだろ。なんでだよ。

そう思いつつもネットの掲示板やクチコミを調査すると、薬物依存症っぽい内容がチラホラと。

多分ガチだろう。そうでなきゃ、『終了』任務が出るほど人から恨まれたり『救』から目をつけられたりする筈が無い。

そういう訳で、警察に突き出すための証拠を探るべく、一般人を装って喫茶店に行き、店員さんがゴリ押しした飲み物を注文してこっそり持ち帰り、榛原に試飲を頼む。


「んー、これクスリだ。やってんねー、そこ。ついでに原料くすね……押収しといてくんない?中々美味しいし、嗜好品として時々飲むから」


判定助かる。それはそれとしてクスリを嗜好品にするな。


「えー、ケチ」と口を尖らせる榛原に構わず、再度店に立ち寄る。バックヤードの会話から店主を特定し、店主の衣擦れの音、息遣い、声や足音の特徴、心臓の鼓動音をしっかり記憶する。

これで店主は、ヘッドホンを外して集中すれば、居場所がいつでもわかるようになった。

閉店時間後、店主がアスファルトの路面を歩く音がしばらく続いて、しばらくして足音が無くなったので、そちらへ東雲を向かわせる。

東雲が到着した途端、ロボットらしきものの起動音が複数。どうも店主が、こういう時に備えて用意していた兵器群を沢山稼働してビーム攻撃など始めたようだが、……東雲はバズーカでぶっ飛ばしたり殴打で破壊したりで楽々と制圧して、特に武闘派でもなんでもない店主を寝かしつけてくれた。

あとは東雲に撤収させて、警察に通報で店主の居所と事情を軽く説明。店主は御用となり、喫茶店は閉店していた。


あ、あと『しののん』の質問に答えるなら、『オレのタイプは声が綺麗な人です』……っと。


「へー、これが『しののん』?雑談配信がほとんどだなぁ」

「榛原。……オレのワークブースを背後から眺めるのがお前らの最近の流行りか?」

「いや?そんな事ないけど。なんで?」

「臨波もこうやって背後から観察しててな」

「あー、なるほどなー」


そう頷きながら、榛原はオレの隣の、普段は東雲と作戦会議する時に東雲が座る席に腰掛けた。


「タイプが『声の綺麗な人』っていうのは?」

「オレの個人的感想だな。こういう体質をしてるから、声が聞き苦しいとしんどいんだよ」

「『しののん』、確かに綺麗な声だけど……仕事中に聴くほどか?」

「オレにとってはな。他に似たような声をしてる人はいるが、オレからしたら全然違う」

「へー」


榛原はそう頷いて、暫くじっと『しののん』の雑談配信を眺めた。


「俺にはよく分かんないけど……、まあ、仕事が捗るくらい好きなら、ほっとけばいいじゃんって盟には言っとくか」

「そうしてくれると助かる。……で?何でこっちまで来たんだ。臨波の差し金か?」

「おー、半分正解」

「半分?」

「そそ。もう一つ目的があってここに来たんだよねー」


榛原はそういうが、普段とは違って神妙な顔で、オレには視線を向けず、『しののん』の配信画面を眺めながらその本題に入った。


「東雲の監視官になってくれてサンキューって話」

「うん?それこそ、臨波がオレに対して一番気に入らない部分じゃないのか?」

「そうだけど、俺は別にそうは思ってない。まあ、盟が気に食わないって思っちゃうのは仕方ないけど」

「……」


榛原は続けた。


「『害』に入った時には、既に盟が東雲の監視官をしてたんだ。東雲が率先して前に出て、盟が後方支援。つまり今の東雲と百夜のやり方とほぼ同じ。前線に出ないならって安心して、俺はフリーの執行官として活動してたのね?」

「ああ」

「けどさー、東雲と盟は、相性が悪かった」


それは、オレもそう思うけど。


「東雲は盟のことを好きだけど、束縛とか規則とかについてはそれはそれ、これはこれってタイプじゃん?」

「そうだな」

「で、逆に盟は……目についてからかわれて、色々精神的に不安定になって……最終的にはそこは割り切ったんだけど、『規則』を守れば自分は守られる側になれる、みたいな価値観になったっぽくて」

「……」

「悪目立ちしないようにって型に嵌めるようになったけど、型に嵌まらない方が伸び伸びとして生きてるって感じだし、なんか窮屈そうで……だから俺が、盟の目について陰口を叩いている奴限定でボコすことで、俺の従妹という意味で悪目立ちするようにしてやったけど」

「おい」


さっきまで感心してたオレを返せ。

優しいのか優しくないのか微妙すぎて反応に困るじゃないか。


「それでも治らなかったからどーしたもんかなー、と思ったら『害』をバイト先に選んだとか何とか。仕事の内容聞いてビビった。『救』直属だけど、裏の界隈じゃんって。盟が潰れるって……だから追いかけて、東雲と組んだって知って、東雲のことを調べて、少し安心してた。その筈なんだがなぁ」

「……」

「始末書と報告書、調査資料の山に埋まって、紙を布団代わりに、隈だらけで、魘されてる感じで気絶するように寝てたのを見て……ちょっと、さすがに見てられなくなった」

「……」

「完璧主義すぎなんだよ。だから報告書も始末書も、調査も完璧にしたがる。でも、東雲は東雲なりの説明しかできない。だからキリがない。東雲もやりづらそうで、でも盟を嫌いなわけじゃないから、どうしたら盟に怒られずに済むかと若干ビクビクして、盟は見えるはずなのに全然気づけてない。周りに気を遣う余裕どころか、自分に気を遣う余裕すらなかったらそうなるよなー」

「……」

「上に直談判しても全然変わらないし、どうしたもんかなー、と思ってたら、諜報部長からの指名で、東雲が諜報部長の指揮下で一つの終了任務を受けることになった」


多分オレを『終了』する任務だな。


「あっさり終わると思ってたから、諜報部長から『東雲が命令を拒否。東雲の模倣犯の件が解決するまでは東雲は対象を監視する。解決後に東雲は撤収し、代任として榛原を派遣する』と通達が出た時、盟は凍りついてた」

「……」

「しかも、テロ事件に巻き込まれるわ、テロ事件を起こした模倣犯はその対象が作戦を組み立てて、東雲を上手く運用して解決するわ、東雲が帰ってきたと思えば諜報部長に脅迫するし。何が印象深いって、東雲の脅迫の言葉だ。『あたしも好きでこんなとこにいるわけじゃないもん。いざなみは大変だし、はいばらもつまんない顔してるし、おじさんは休めないし、そのちゃんだって外に出たいはずだもん。ながれがいたら、きっとあたしたちはさいきょーになる。ながれがいたら、きっと少しくらいマシになるよ。……なのに、ながれを殺すなら……『害』をぐちゃぐちゃにしてあげるね?』だとさ」

「東雲……」


お前、めっちゃ周り見てるじゃん。

てか、オレのことしか見えてないわけじゃなくて、周りのこともめっちゃ好きなんじゃねえか。

いや、まあ、バカはバカでも愛されるタイプのバカなんだろうとは思ってたけど……。

うん?

つまり、命令違反してたのも、それはそれで東雲なりに理由があるのか?だとしたら何でだ?人の為だというのは分かるけど、根本的な部分が不透明だ。


それと。


「臨波が忙殺されてた頃、御崎さんはどうしてたんだ?そういう時は手伝ってくれそうなイメージだが」

「御崎のおっさん曰く、『力になりたいのは山々ですが、臨波さんのようなお方だと、手を差し伸べることこそ逆に追い打ちをかけることになります。悟られることが無いようにする必要がありますが、それでは焼け石に水でしょう。……勿論、最善は尽くします』だってさ。確かにって納得しちゃった」

「なるほど」


確かに言われてみればそうかもしれない。


「だから、あー、盟は、『自分にはできなかったことを百夜が平然とやってる』ことについて、劣等感やら敗北感やら罪悪感やら羞恥心やら自責やら安堵やら、色々ぐちゃぐちゃになって色々整理が出来てないだけだから。これを機に少しくらい型破りになってくれたらいいんだけど、まだ難しいかねー」

「そんないきなりは方向転換出来ないだろ」

「だよなー。俺が弄ってもクソ真面目なまんまだし」

「それに関してはお前のやり方の問題だと思うんだが」


割と真面目に言ったのだが、榛原は「えー、傷つく。しくしく」と泣き真似しだした。

そういうとこだぞ。


「そういう訳で、頼みがあるんだけど」

「案の定嘘泣きかよ。で、頼みって何だ?オレに出来ることなんてたかが知れてると思うが」

「心配せずとも簡単だ。むしろ何もしなくていいと言っても過言じゃない」

「過言だろ」


そんなオレの言葉など馬耳東風、榛原は平然と言った。


「共同任務、多分盟は完璧に作戦を組む時間がねえのよ。だから、それでなんかイレギュラーがあったら百夜が指揮してくれ。思った通りに動いてくれていい。それで、どんな型破りな解決法か、この目で直接見させてくれ」


……新人には荷が重くね?

というかオレって型破りなのか?心外すぎる。


思わず顔を顰めたが、榛原は割と真面目な顔のままなので断れなかった。

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