幕間:愚か者の話
王国の王太子ハリー・エドワードにはアイリスという名の婚約者がいる。
出来の悪いハリーとは違い、アイリスは頭が良く美しい完璧な令嬢だ。誰もが羨む婚約者を持つハリーの心の中は劣等感でいっぱいになっていった。
気に食わない。女のくせに生意気だ。
幼い頃から幾度となく感じていた黒い感情が更に悪い方向に行き始めたのは学院に入学してからだった。
ハリーが平民であるマイラと出会ったのはただの偶然の出来事。
どこを行ってもアイリスを褒め称える声が聞こえてくる校内から逃げるように訪れた離れの庭で迷子になったマイラを助けたのがきっかけだった。
平民出身のマイラは幼い頃から学習を受ける貴族に比べれば頭の出来は当然劣っていた。秀でた特技も持ち合わせておらず至って普通の女の子。だからこそ劣等感まみれのハリーは自分より劣る彼女といるのが楽しかった。
頭の中に婚約者の顔が浮かんでも罪悪感なんてこれっぽっちもなく。
アイリスは僕以外の多くの人間に愛され大切にされている。だから僕が大切にする必要はないだろう。
と言い訳をしていた。
「そうだ、アイリスと結婚した後にマイラを愛妾にすれば良いんだ」
ある日、ハリーはそんな馬鹿なことを考え始めた。
難しい公務は全てアイリスが行ってくれる。僕はお飾りの王として表に立ち、裏ではマイラと過ごせばいい。王様なんだから愛妾の一人や二人、アイリスだって周りだって許してくれるはず。ただ王妃となるアイリスとの子作りも必須になってくる。見た目麗しい完璧なアイリスをベッドの上で屈服させるのはさぞ楽しいだろう。
これはいい考えだとハリーは笑う。一方でアイリスとの婚約解消が行われているとも知らずにあまりにも愚かな考えだった。
ハリーは婚約者でありながらアイリスについて興味を持っておらず、彼女が王城に来なくなっていたことも知らないまま両親である国王夫妻からの呼び出しを受けた。
どうせいつも通りの説教だ。
アイリスに仕事を押し付けるなとか。
アイリスを気にかけてやれとか。
アイリスばかりを頑張らせるなとか。
長い廊下を歩きながら面倒臭いと感じていたハリーは部屋に入った後も二人の話をろくに聞いていなかった。
「お前とアイリス嬢との婚約を解消した」
「全て貴方のせいだからね」
重大な話をされていたにも関わらずハリーは聞き流しアイリスとマイラと三人で過ごす未来を頭の中に描いていたのだ。
アイリスが王城に来なくなったと愚か者が知ったのはそれからしばらく後の出来事。
そして彼女が好きな人と幸せな日々を過ごしていると知ったのもその後の話だった。
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