幼馴染の本音
カイは今なんて言ったの?
私を好きだと言ったように聞こえたのだけどきっと幻聴よね。
アイリスは彼からの言葉を受け止めきれずにいた。
「アイリスが好きなんだ」
好きという言葉は幻聴でも聞き間違いでもなかった。
カイが私を好き?
その好きはどういう意味の好きなのだろうか。
「友達として好き、なのよね?」
きっとそうだ。長年の友人として好かれているのだろう。勘違いをしてはいけないとアイリスは自分を律した。
確認の為の言葉を聞いたカイは困ったように笑って、黙って首を横に二度振る。アイリスのそばに近づいて膝を立てて顔を見上げた。
「友達としても勿論好きだよ。でも、この好きはそれ以上のものだ。君を一人の女性として好きになってしまったんだ」
カイからの告白に目を見開いたアイリスは驚きのあまり言葉を発することが出来なかった。そんな彼女の手をそっと握ってカイは言葉を続ける。
「アイリスへの気持ちに気がついた時には遅かったんだ。僕の想いは婚約者がいる君に向けていいものじゃなかった。だから会う事が出来なかった。近くにいたら気持ちを抑えきれなくなるって分かっていたからね」
一呼吸した後にカイはもう一度口を開いた。
「僕は良い奴じゃないから君が婚約を解消したって聞いて嬉しかったんだ。ようやく自分の気持ちを伝えられるって。それに他の奴に奪われる前に言わないとって焦りもあって、だから今日ここに来たんだ」
アイリスから見たカイはいつもの年上らしい余裕のある表情ではなく、切羽詰まったようなどこか少年らしさを感じられるものだった。
見たことのないそれにアイリスは胸の奥がぎゅっと掴まれたような気分になる。自分もあなたのことが好きだと早く言いたいのに慣れてないせいで上手く言葉が紡げないでいるとまた彼が口を開いた。
「アイリス、僕は君が好きだ。だからどうか僕の婚約者になって欲しい」
婚約者…?私がカイの婚約者に?
予想外の告白にアイリスは驚き、歓喜の声を漏らしかけた。すぐにでも頷きたかったがどこか冷静な自分に止められる。
ここで頷いて良いのだろうか。婚約者を失ったばかりの身で他の人と婚約をすることは周りから見たら決して良いものじゃない。もちろん彼の申し出は嬉しいが躊躇してしまう。
「アイリスが僕の事を兄のようだと思っているのは分かっている。でも、どうか僕にチャンスを与えてくれ」
カイのことを兄だと思っていたのは本当に幼い頃だけなのに。
アイリスの心の中を知らないカイはチャンスを逃すものかと必死だった。そんな彼に心を動かされないアイリスではない。
「カイ、あなたは誤解してるわ」
「誤解?」
「私はあなたのことを兄だなんて思ってないの」
いざ自分の気持ちを伝えようとすると心臓が爆発してしまいそうなくらい速くなる。緊張で喉の奥が張りついたような渇きを感じながらアイリスは言葉を紡いだ。
「私もカイが好きなの。小さい頃からずっとあなたが好き。私の初恋なの」
好きという言葉を出すだけでこんなに恥ずかしくなるのね。
今まで生きてきた中で最も照れ臭い瞬間だった。アイリスの告白を受け取ったカイは驚きに目を見開き、次の瞬間には嬉しそうに笑う。まるでずっと欲しかった玩具を買い与えられた子供のような無邪気さがあった。
「アイリスも同じ気持ちだったなんて嬉しいよ」
「でもね、あなたの婚約者になるのは難しいわ」
その言葉にカイは顔を青ざめさせた。そんな彼を見たアイリスは罪悪感でいっぱいになり、目を逸らしてしまう。
「それはどうして?」
「だって私は婚約を解消したばかりなのよ。それなのにすぐに他の婚約者を作ったら私たちの不貞を疑われるかもしれないわ」
実際にハリーという婚約者がいながらもアイリスは心の奥底でカイを想い続けていたのだ。ある意味、心の不貞を働いていたようなものだろう。だから自分が悪く言われる分には良い。でもカイが悪く言われるのは絶対に嫌なのだ。
アイリスの葛藤を分かっているのかいないのかカイは「なんだそんな事か」とまるで問題なさそうに呟いた。
「心配しなくても大丈夫だよ、僕に任せて」
【☆☆☆☆☆】で評価をして頂けると嬉しいです。




