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プロローグ

 今にも雫が零れ落ちそうな灰色の雲の下、石畳の広場にはガヤガヤと騒がしく多くの民衆が集っていた。彼らが見つめる先には無骨な石造りの舞台があり、その中央にはギロチンが設置されている。

 この群衆は稀代の悪女エレオノーラ・ヴァレリアの処刑を待っている。告知された時間まではあと半刻ほど。群衆の視線には好奇心と僅かな羨望が乗り、罪人に対する憎しみや嫌悪感等はない。自分たちとは別世界の高貴なる美女が、自分たちよりも惨めな目に遭うという状況に対する高揚感があるだけだ。


 その高貴なる美女が何をしたか?曰く廊下ですれ違った騎士の歩き方が気に入らないと辺境に左遷させた、曰く激昂して文官に書類を叩きつけた、曰く過激な嫉妬心で王子と親しくなった下位貴族の女の子を泣かせたとか。それらは彼女の生家の立場によって有耶無耶にされてきたが、遂に生家の力でもどうにもならない事をやらかしたらしい。

 集う民衆に見えているのは事実のほんの一部である。彼女の行動の一つ前の出来事は、その後起きた事は見えていない。それも当然の事だろう、一部だけを見せるように仕組まれているのだから。



 群衆の中にマントを羽織りフードを深く被った人物がいる。町中で会えば不審者に見えるが、この異常な集団は誰もその人に気を留めない。その人物がフードの下で口を歪めて、舞台の端の椅子でふんぞり返った王子を睨みつけていようとも。

 歪めた口の中でブツブツと唱えられている呪文は、群衆の喧騒に消されて誰の耳にも届かない。だが、魔力を含ませた呪文は間違いなく見えない糸となって天へと伸びている。


 広場の後方からゴーン、ゴーンという鐘の音が聞こえてきて、舞台の上に人が現れた。全身鎧の騎士に両腕を捕まれ引きずられる様に現れたのは、エメラルドグリーンの髪を靡かせた華奢な女性、稀代の悪女と言われるエレオノーラ・ヴァレリアその人である。

 彼女の姿を観た群衆が静まり返っていく。美女とは聞いていたが、美少女とは聞いていない。あんな可愛らしいお嬢さんが稀代の悪女だって?


「エリーさまー!」


 困惑で静まり返った所に響き渡ったのは幼い子どもの叫び声だ。その声の感情は明らかに思慕と悲しみであり、群衆に更なる疑問を撒き散らかした。


 困惑で身動ぎした人々の合間を縫ってフードの人物は舞台に近付く。隣の者と目を合わせて困惑を共有する群衆は不審者の動きに気づかなかった。フードの人物が動いている事に気づいたのはエレオノーラだけだった。彼女はサファイア色の瞳を細めて小さく笑い、軽く頭を揺らした。

 エレオノーラの顔の横でキラリと光るものがあるのを確認したフードの人物は口の中で唱えていた呪文の仕上げを口に出した。


「命の神よ。エレオノーラ・ヴァレリアの命をお預けする。どうか神の国にて彼女に一時の平穏を。私が迎えに行くその日まで」


パリン


ガラスの割れる様な音と共に雲間から光が射し、エレオノーラの体が浮かび上がる。強い光に目がくらみ、誰もが瞼を閉じた。雲が閉じて光が止んだ時にはエレオノーラはこの世界から居なくなっていた。


滑り込みのネトコン参加します!


本編、今日中に少しは出します。

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