番外編① エタり回避の海水浴回【挿絵水着あり】
番外編
――覇天軍、真夏のバカンス
白い砂浜。
どこまでも続く蒼い海。
覇天軍本拠地――エルドレイン公爵家が所有するプライベートビーチ。
その一角に、いつもとは違う光景が広がっていた。
「ざーこ♡ ざーこ♡ サーブもまともに打てないとか、なにそれ♡」
砂浜に響く煽り声。
ビーチバレーのコートでは、四天王メスガッキーナがにやにやと笑っていた。
「う、うるさいですわ……っ!」
男爵令嬢リリアーナが必死にレシーブする。
――が。
バゴォン!!
次の瞬間、キャサリンの放ったスマッシュが砂煙ごとボールを吹き飛ばした。
「遅ぇんだよ!!」
立派なリーゼントはビクともせず、サラシ、フンドシ姿で仁王立ち。
開放的なビーチに晒されたその肉体は、鋼鉄のように引き締まっている。
「……若いって尊いわねーでござるな」
パラソルの下。
地味だが露出の多い水着のマーガレットが、本から目も上げずに呟く。
その隣では――
「……」
赤いセクシーなビキニ。
覇姫エレクシアが、優雅に紅茶を口にしていた。
海風が、その白磁のような肌を撫でる。
まるでそこだけ別世界。
「……そういえば、どうして急に海水浴なんだ?
いや、もちろん休息は必要なのだが」
エレクシアの隣にいる醜姫ブスが純粋に尋ねる。
「天挑覇極大武會に向け英気を養うため、まあ正直に言うと、エタリ防止だな」
エレクシアが脚を組み直す。
その美しい仕草に思わず喉がなる醜姫ブス。
「エタリ防止?」
「うむ、これはここだけの話だが、最近どうも熱が冷めてきたらしい。それで、危機感を抱いた他の作品では、温泉に行ったそうだ」
「フム、そこはよく分からぬが、
あちらが温泉ならば、こちらは海水浴というわけだな。しかし、なぜ温泉や海水浴なのだ?」
「サービス回、というやつらしい。
……くだらぬ話ではあるがな」
「なるほど、承知した。
それならば、オレなんかの水着姿で良ければ、お披露目してやろう」
醜姫ブスが立ち上がり、その鋼鉄のような肢体を惜しげも無く晒す。
「まあ、このオレの醜い体になど需要はないかもしれんがな」
そう言って、満更でも無い顔でポージングをとる醜姫ブス・グロリア。
「フフフ、さすがは醜姫だ。
その見事に鍛え上げられた肉体は、漢なら誰でも見惚れるだろう。
まさに歴戦の強者の風格よ」
「それにひきかえ、我が身は―――
どれだけ鍛えても筋肉がつかぬ。
闘気を纏わねば、竜種程度にすら遅れを取るぞ」
やれやれと首を振るエレクシア。
「そ、そうか。そう言ってもらえると嬉しいがな。
それとエレクシア、貴女は美の化身。
美を司る女神が筋肉ダルマでは何かと都合が悪いのだろう。
とにかくだ、エタり防止とやらにオレが役に立つのなら、いくらでも見せてやろう」
「うむ、助かる。
漢たるもの全身全てが武器。
お前の鋼のような肉体美を見せつけてやれば、間違いなく士気とやらも上がるだろうよ。
……まったく、手間のかかるやつだ」
エレクシアが、心底呆れたようにため息をついた。
───その時だった。
「……っ」
ビーチバレーをしていた四天王メスガッキーナの足が止まった。
「……なに?なにか聞こえない?」
苛立ったように眉をひそめる。
風に混じって――
かすかな、泣き声。
「……ガキの叫び声が、かすかに聞こえた」
覇姫エレクシアが、静かにカップを置いた。
「行くか」
その一言で――
覇天軍の空気が、戦場のそれへと変わった。
────────
海岸から離れた、人気のない岩場。
その奥に――古びた倉庫があった。
中から、すすり泣きが漏れている。
「へへ……いい値で売れそうだなぁ」
下卑た笑い。
縄で縛られた、まだ幼き子供たち。
「や、やめて……おうちに帰りたいよお」
「ガキ共うるせえぞ!静かにしねえと酷い目にあわせるぜ!」
「うわーん、誰か助けてええ」
――その瞬間。
――ドォン!!
扉が吹き飛び、水着姿の女たちが現れた。
盗賊のひとりが、慌てて短剣を抜く。
「な、なんだ貴様らは!?
……ヒヒ、女共がそんな格好で何の用だ?」
「可愛がってほしいのか……?」
言い終わる前だった。
「……」
醜姫ブス・グロリアが一歩前に出る。
白いビキニに包まれた肉体は――
美とは真逆。
だが、その肉体に宿る筋肉と圧は、圧倒的な強者のものだった。
「ひ、ひい化け物!く、来るなっ――」
ギリッ――
次の瞬間には、男の喉が万力のような腕に締め上げられていた。
「が……あ……っ」
片手で軽々と盗賊の体を持ち上げる。
「……覇天軍のテリトリーで人攫いなどとは。
よほど死にたいらしいな」
そのまま――投げ捨てた。
ドンッ!!
壁に叩きつけられ、男は沈黙する。
もう一人の盗賊が背後から斬りかかる。
バゴッ!!
肘が、後ろへ叩き込まれる。
「ごはっ!?」
空中で体が折れ、そのまま壁へ激突した。
キャサリンが、ニヤリと笑う。
「……さすが醜姫パイセン。相変わらず、えげつねえ強さだ」
一歩近づき、グロリアの肩を軽く叩く。
「……ただよォ」
「アタイらにも獲物を分けてくれると助かるぜ。
残ったゴミは三匹か……ちょうどいい」
「――失せな」
バゴォン!!
キャサリンの拳が、一人を吹き飛ばした。
「ぎゃああああ!?」
四天王セラフィーナの影が揺れ
残りは――すでに全て、地に沈んでいた。
メスガッキーナが盗賊共を蹴り飛ばす。
「ざーこ♡ 反応おそ♡
この程度でよく人攫いなんてやってるね♡」
「さーて、どこの組のモンか――たっぷり聞かせてもらうぜ」
キャサリンが指をバキバキと鳴らし、
「情報を吐かせた後は――魚のエサでござるな」
マーガレットがヒヒヒと笑う。
─────────
「もう大丈夫ですわ」
リリアーナが子供たちの縄を解き、傍らでマーガレットが傷付いた子を治療する。
震えの止まらない一人の少女が、怯えたまま顔を上げた。
エレクシアが少女に近付き、赤いビキニのまま少女を抱き寄せた。
「もう、何も怖くはない」
細く白い腕が、優しく包み込む。
戦場で敵を砕くその腕とは思えぬほど、静かで、柔らかな抱擁。
少女の額が、エレクシアの胸元に触れる。
最初は戸惑うように震えていた身体が――
次第に、ほどけていく。
「……お姉ちゃん、あったかい……」
エレクシアは何も言わず、ただゆっくりと背を撫でる。
「まるで……戦女神さまみたい……」
一瞬の沈黙。
「……ああ」
小さく息をつき、エレクシアは目を細めた。
「そうであれと、在るだけだ」
腕の中の温もりを、確かめるように――
ほんのわずか、抱きしめる力が強くなる。
──────────
子供たちは無事に保護され、去っていった。
夕焼けの海。
静かな波音。
「……なんかさ、調子狂うんだけど♡
せっかくのバカンスだったのにさ」
メスガッキーナがぼそっと呟く。
キャサリンが笑う。
「パイセン、悪くねえだろこういうのも。
アタイらには――戦場が似合うのさ」
波が、静かに寄せては返す。
覇天軍のバカンスは――
まだ終わらない。
続く。
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