17.もう一仕事
「……と、いうわけで夜の六時になると僕はリードと交替する。そこからの十二時間は彼の時間。その逆で朝の六時から夕方の五時五十九分までは僕の時間ってことになってるんだ」
掃除のおかげで綺麗になったダイニングテーブルに二人で着く。
朝食にするには味が濃すぎるマカロニチーズを突っつきながらライトは自身の性質をショウに説明してくれた。
「なるほど。昨晩リードさんがしていたことはライトさんにはわからないんですよね」
「そう。なぜだか彼は僕のすることを全部知ってるんだけどね。だからこれで情報共有してもらってるんだ」
と、言いながらボイスレコーダーと手帳を掲げて見せるライト。
「昨晩の事件のこと聞いたよ。仕事に巻き込んじゃってごめんね」
「いえ……」
「ショウちゃんのことを助手だなんて。ボスにはリードのやつのジョークだったって伝えておくから、君はもとの生活に戻ったほうがいいよ。送っていくから住所教えてくれる?」
「また住所きくんですか?」
昨日、帰り道は車内で聞かれたのにと首を傾げる。情報を共有していると言っていたから、ショウの住まい事情も含まれていると思っていたのに。
ボイスレコーダーたちに視線を送るショウに、ライトはきょとんとしながら目を瞬かせた。
「また? ちょっと待って。リードのやつ書き忘れたのかな……」
手帳の中にショウの住所を探し始める彼は本当に何もしらされていないようだ。
「あの……わたし……実は今行くところないっていうか、住んでたアパート丸ごと大火事になっちゃって、だからその流れで連れて来てもらったんですよね……」
「そ、そんな大変なことになってたの?!」
「はい。なので」
驚いて聞き返すライト。真相や片割れの怠慢を手帳の中に探すよりもこちらを見て話してくれるのは彼らしい。
ショウは気まずさからふらふらと落ち着きのなく動かしていた目を一度ぎゅっと瞑って、それから彼の瞳をしっかり正面で見据える。本気が伝わるようにと、声にも自然と力がこもった。
「ライトさんの助手の件なんですけど、正式にやらせてもらえませんか?」
「えっ」
「お手伝いなんでも。料理も洗濯も掃除も、毎日かかさずするのでここに置いてください」
予想外の提案だったのだろう。飄々としていることの多かったライトが初めて見せた珍しくぽかんとした表情と間。
ここぞとばかりに頭を下げてお願いするショウをしばらく見つめて「うーん」と困り顔もする。
「どうかお願いします!」
「ショウちゃん……わかった。そこまで言うなら無理には帰さない。君の気が済むまでうちにいていいよ」
「本当?!」
「うん」
ダメと言われても置いてもらえるまで粘るつもりだったが、ライトはいやにあっさりと滞在を許可してくれた。
ショウが聞き返してもいつものあのにこにこと人好きのする笑顔で頷いたが、ひとつだけ条件を出した。
「ただし、危ないことはしないって絶対に約束して」
「危ないこと……」
昨日リードに連れられて行った裏路地で、殺人犯に刃物を向けられた記憶がショウの脳裏に過ぎる。
助けてもらったけれど、あれも危ないのカウントに入るのかな? でも、ライトさんは知らないみたいだしいいかな? それに、これから気をつければいいことだもんね!
「……はい!」
「いま、ちょっと間があった気がするんだけど、やっぱり昨晩リードになにかされたんじゃ……」
「ありません!」
ペカッと輝く笑みが気になるところであったが、それ以上何も答えないショウの圧に押し負けて曖昧なままこの話題はお開きとなった。リードの適当な伝達が偶然なのかショウが優位になるよう気遣ってくれたのかはわからないままで。
次に決める必要があったのは当面の間におけるショウの生活空間についてだった。
「お掃除してすっかり綺麗にしてもらっちゃったね。こっちの部屋が空いてるし、ちょうどいいかな……」
「別のお部屋? 奥にもまだあったんですか、って、ううわあああ!」
部屋のようすにすっかり上機嫌になったライトに連れられ廊下の先。
ガチャリとドアを開けた途端、一室に封印されていたゴミ山が雪崩を起こしそれに足を取られたショウが悲鳴を挙げて尻もちを着く。
「あちゃー……好きに使っていいよ、っていいたかったけどこの状態じゃ……」
居住スペースの確保が優先でさすがに奥の部屋までは見ていなかった。
手付かずの魔窟の前でどうしようかと悩むライトの隣、昨日と同じ光景が再び現れて呆然としていたショウであったがすぐにすっくと立ち上がる。覚悟を決めたその表情はさながら歴戦の勇士である。
「大丈夫です。ここも片付けてお借りします」
「そう? ありがとう。じゃあ一緒にやろっか」




