調査
「柊、ちょっとリビングに来なさい」
母親が深山を呼び出す。リビングにいると父と兄と母が待ち構えている。
「何」
無表情で聞く。
「前に付き合ってる人がいると言っていたが、それは早田花菜という子か」
調べたな、嫌な感じだと深山思った。
「そうだけど」
父と母はあからさまにため息をつく。
「その子はやめなさい。調べたけれど父親は高卒の警察官、母親も高卒の区役所職員よ。柊どころか桜林高校にもふさわしくないわ。」
母親が身辺調査書を差し出すが深山は見ない。
「遊ぶ相手も選んだほうがいい。こういう育ちの人間はこの先トラブルを持ってきかねない。お前が軽い気持ちでも、相手が本気にしてトラブルになったらどうする」
深山の父が厳しい口調でいう。
深山の両親は悪気が全くないことを深山は知っている。
心から自分たちとは違う人種だと思っている。
だから厄介なのだ。
ここで深山が何を言っても通じない。
「何か言ったらどうなの?柊、聞いてるの?」
母親は再度身辺調査書を差し出すが深山は見向きもしない。
「何を言われても、俺は早田と別れるつもりはないし、この先もずっと付き合っていくつもりでいる。軽い気持なんかじゃないんだ」
「いったいどうしちゃったの?この子が本当にあなたとつりあうとでも思っているの?もし誰かに見られでもしたら。考えるだけでもゾッとするわ」
母親は顔を真っ赤にして怒っている。
「静子、落ち着きなさい。柊、いいだろう。付き合うのは構わないが人目につかないようにしなさい。特に家周辺にだけは連れてこないように。そしてこの家には絶対に上がらせないように」
深山の兄は弟の手が怒りに震えているのを見て驚く。
「あなた、息子がこんな女に付きまとわれてるっていうのに」
「まぁまぁ、今は物珍しいだけだ。すぐに飽きるさ。」
深山は抑えきれないほどの怒りを感じる。
これ以上いると感情が抑えられないと判断し席を立つ。
「どこに行くの、話は終わってないのよ!」
母親が声を荒げる。
「何言ったって無駄だろ。俺は話すことはないよ。」
「柊!待ちなさい!柊!」
深山の兄が母親を制止する。
「俺が話してくるよ」
そういって柊の部屋に向かう。
「何だよ、兄さん」
「おまえらしくないな。感情的になって」
「俺らしいってなんだよ」
「そんなにその子が好きなのか」
「…。」
「恋愛なんてな、しないほうがいい。めんどくさいだけだ。相手も傷つく。結局同じような家同士で付き合うのが一番平和なんだ。わかってるだろ」
「兄さんは百合子さんと結婚して幸せなの?」
「まぁ、幸せだよ。不満もない」
「嘘つくんだ」
「何が言いたい」
「じゃあなんで今でもそのネクタイピン使ってんだよ。」
深山はそのネクタイピンが兄のかつての恋人がプレゼントしたものだと知っている。
そして、兄がその人との結婚を両親に猛反対されたのちに破局したことも。
「ものに罪はない」
「スーツはしょっちゅう新調してるのに」
「柊…。それはそれだ。恋愛と結婚は別なんだ。綾子のことはいい思いで、それだけだ。」
「それがつらかったから俺に恋愛しないほうがいいって言ってるんだろ、兄さんは」
「……。」
図星だ、と深山の兄は思う。
「ごめん、言い過ぎた。もう一人にしてくれないか」
「分かった。」
お前の気持ちもわかるよ、怜はそう言いたかったが言えなかった。
それは自分があの時の選択に後悔をしていると認めることになるからだ。




