20話
「雨は良い。不完全な顔をフードで隠しても違和感があまりない。君のこの格好は都合が良かったよ」
「雨が良いものであるのには同意です。ですが理由は正反対ですね。雨はわたしという存在を引き立てるためにあるのです。出来損ないの顔面を隠すためにあるわけではありません」
雨も滴るいい女とはわたしから生まれた言葉なのだから。
魔人と同じ意見なのは癪ですが、雨に対する想いが違います。どや。
「君は私の理想の姿をしている。そろそろ手持ちの皮も底を尽きかけているのでね、良かったら君の皮を譲ってくれないか?」
「まどろっこしい。短く」
「死ね」
「やればできるじゃないですか」
化けの皮が剥がれた魔人の表情が露わになりました。
──それは、この世のものとは思えないほど醜悪で極悪な顔をした存在でした。
化けの皮が剥がれた魔人の顔は、バラバラのパーツを継ぎ接ぎしたかのような不確かな顔で、見るに耐えません。
「気分が悪くなりますね。早く終わらせましょう」
魔力を感じて集めて高め、戦闘態勢へ。
あのとき、街に訪れたわたしに門番さんは言いました。『いいタイミング』と。
この魔人にとって都合のいいわたしがちょうどやって来た。だから『いいタイミング』だったのです。
「シャッ!」
鋭い呼気と共に、魔人は懐から取り出したナイフでわたしの首を切り裂こうと飛びかかって来ます。
「その程度でわたしを殺すと? 不可能ですね」
首を狙っていると見え見えの攻撃にまんまと当たるわけがないでしょう。
「あなたにわたしの白は奪えないし汚せない」
蝶のようにひらりと躱し、手の平を差し向けて魔力の領域を魔人めがけて展開しますが素早く動いて狙いを定めさせてくれません。
「その魔法は知っているよ。離れて動き続けていれば当てるのは難しいだろう?」
「なぜ知っているのか疑問ですが、概ねその通りです」
領域の形を変えるのは容易ですが、それと比べて移動させるのは難しいです。わたしを中心に展開される領域は離れるほど精度と速度が落ちてしまいます。
「ですが〝難しい〟だけで不可能ではありません。やり方はあります」
相手の動きを予想して、先んじて領域を置いておけばいい。
「そこです」
距離はあっても細い路地裏。わたしの魔法と相性はいい場所です。またしても突っ込んできた魔人の進路上に領域を展開。トラップのようにタイミングを見て圧縮を──
「甘いよ」
わたしが手を握り領域を閉じる直前、持っていたナイフを全力投擲。しかも一度の動作で数本も。正確に飛んできたナイフを迎撃するために領域を閉じ、ナイフを圧縮して防ぎます。
間髪入れず、魔人のナイフがわたしの首めがけて閃きました。
──真っ赤な血が舞い散りました。




