19話
さて、報告が大変遅くなって申し訳ありませんが、全身の皮が剥がされた遺体には、とある共通点がありました。
それは、関節の部分に深めの切り込みが入っていること。そこから皮を剥ぎ取った、ということでしょうか。そのほうが綺麗に剥ぎ取れるのかもしれません。
わたしが確認した遺体は、葬儀屋で見せてもらった男性の遺体。次に弟さん。どちらも同じ跡がありました。
──そして、門番さんにもありましたね。首に不自然な跡が。手首にも。
遺体と同じ共通点を持ちながら動いている。
つまり、わたしがお喋りした門番さんはとっくに死んでいて、悪魔が宿った魔人になっていたのです。
わたしは魔人なんかに取り調べされ、お喋りをして街に入ったわけですか。知らぬが仏とはこのことですね。気づいてしまったら最悪な気分です。
「この街に巣食っている悪魔は随分と頭が回るようですね。それなりに生き長らえてきたのかもしれません」
人間の言葉を理解し、人間の社会に溶け込んでいるのがいい証拠。
……最低最悪の冗談です。急ぎましょう。
門番さん改め、皮を剥ぐ魔人が逃げた先に心当たりはありませんが、わたしの直感が告げていました。
葬儀屋から宿屋へ向かう途中の路地裏で見かけた白猫。──のように見えたあれは、わたしの白い旅装束を模して騙し、弟さんを殺して皮を剥いだ魔人だったのではないか、と。翻って物陰に入っていく布地を猫の尻尾と勘違いしたのです。
「見かけたのはこの辺りでしたね」
記憶を頼りに、目撃した路地裏までやってきました。なにか証拠が残っているかもしれません。
「問題はどうやって魔人を見つけ出すか」
門番さんになりすまして仕事をしたり、わたしになりすまして弟さんを殺したりしたわけですから、この魔人の変装は相当なものです。
別の誰かになりすましていたら、簡単には見つけられないでしょう。
と思っていたのですが。
「やっぱりあの子では殺せなかったか」
わたしと同じ声に背格好をした人物──いえ、例の魔人が目の前に現れました。深くフードをかぶっていて顔は見えません。
魔人はこちらに軽く手をあげて挨拶してきました。
「やあ、勤勉なお嬢さん。誰かをお探しかな?」
「……ええ、そうですね。ちょうどあなたを探していました」
魔人は仰々しく両手を広げました。
「それは嬉しいな。実は私も君を待っていたんだ」
「てっきり逃げたかと。わざわざ殺されるために待ってくれていたとは」
「そちらが、わざわざ殺されるために来てくれたのさ」
言いながら魔人はフードを後ろへ下ろしました。
出てきたのはわたしにそっくりの顔でした。ですがあくまでそっくりなだけ。まるで歪んだ鏡です。
「比べるまでもなくわたしのほうが可愛くて美しくて誰もが振り返る絶世の美少女ですね。贋作め」
わたしの美しさは誰にも真似などできません。どや。
でもこれでお兄さんや弟さんが騙されたのだと思うとちょっとショック。
「そうだね、この顔は似ているだけ。だからこそ欲しいのさ。上から下まで余すとこなく……ね。一目惚れってやつさ」
妖艶に光る瞳。ぺろりと舌なめずりした口の周りから、皮が剥がれ落ちて肉が露出しました。
きっと今のわたしは相当嫌そうな表情をしていることでしょう。不快感しかありませんでした。




