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18話

 自分の心臓をひと突き。あっという間に受付嬢さんまで死んでしまいました。ちなみに受付嬢さんはちゃんと左胸を刺していました。

 こちらに背中を向けていて見えませんでしたし、自殺するとは思っていなかったのでさすがのわたしも止められませんでした。

 どくっどくっどくっ、と耳に聞こえてきそうなほどの勢いで受付嬢さんの胸から真っ赤な血が溢れてきて、床をどんどん侵食していきます。

 お兄さんといい受付嬢さんといい、この一家は刃物を隠し持つのが得意な暗殺一家なのでしょうか。つい、そんなどうでもいいことを考えてしまいました。


「早まったことを……なぜこんな簡単に命を捨てることができるんですか」


 すでに動かなくなってしまった受付嬢さんのまぶたをそっと閉じてあげました。意外にも健やかな表情を浮かべていました。

 生きるのが辛かったのでしょうか。生きる意味を見失ってしまったのでしょうか。

 それでも──


「最後に死ぬのが葬儀屋でしょう。簡単に死を選択してはならないのに」


 死を見届ける──それが葬儀屋ですから。

 家族の死とはそんなにもショックなのか、わたしにはわかりません。

 もう舌打ちは聞けないのですね。残念。


「あとは門番さんとお母様くらいでしょうか。確認が取れそうなのは」


 それでもダメならお隣さんとか親戚の方とかを当たるしかありませんね。すごく大変なので門番さんは自害しないでくれると助かるのですが。もしそんなことをする素振りを少しでも見せたら、今度こそ止めましょう。

 来るとわかっていれば、わたしに不可能はありません。どや。


「ひとまず所在がわかっている門番さんのところへ行くとしましょう」


 考えていても時間を無駄に浪費するだけ。とにかく動く。

 わたしは受付嬢さんの身なりも整えて祈りを捧げ、お兄さんと弟さんの隣に寝かせてあげてから門番さんのいるところへ向かいました。

 ところが──


「いない?」

「はい。急用ができたと仰って」


 若い門番さんが代わりにお勤めを果たしていて、肝心の門番さんの姿は見当たりませんでした。


「どちらへ?」

「さあ。慌てて出て行かれたので。よほど大切な用だったみたいです」

「でしょうね」

「はい?」

「いえ、こちらの話です。ところで門番さんのご自宅はご存知ですか?」

「ええ。以前招待してもらったことがあります」

「では大丈夫ですね。そちらへ葬儀屋を向かわせておいてください。頼みましたよ」

「え? どういう──」


 急いで踵を返します。勘の良すぎるわたしは察してしまいました。

 門番さんは自宅の騒ぎを聞きつけて急行した?

 いいえ、違います。




 ──逃げたのです。わたしから。

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