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称号世界の混ざりモノ  作者: 浮谷柳太
第一章 田舎暮らしの幼少期
5/30

第5話 お勉強の時間

※2話同時投稿の2話目です。

 ご注意ください。

 僕の称号の効果が判明してから長い月日が流れた。体感時間では5年というところではなかろうか。


 というのも少なくとも白狼の獣人種が暮らす集落には日付という概念がないのだ。今が何年の何月何日かというのが分からないのだから、当然カレンダーなんかも存在しない。

 かろうじて生活するうえで季節の概念はある。『芽吹きの季節』、『花開きの季節』、『実りの季節』、『木枯らしの季節』がそれぞれ日本で言う春夏秋冬に相当する。


 現在は陽春の候、すなわち『芽吹きの季節』だ。ちなみに僕が生まれたのは『木枯らしの季節』の終わりだそうだ。冬と春のちょうど境目に生まれたと言えばいいのだろう。


「フィージル、準備はいいか」

「はい、父さん!」


 5歳と言えばもう言葉もしゃべれるし、立って動き回ることもできる。そういうことで僕も将来を見据えた教育が始まった。


 獣人種にとって求められるのは、家族を養っていけるだけの獲物を狩る技量、強さだ。また、それだけでなくこの集落では強さによって有利不利も決まる。


「来い!」

「うあぁぁぁっ!」


 腰を低く落とした父さん、ディエンテ=バラメントに向かって僕は勢いよく跳びかかった。


 外見からも分かる通り、獣人種の身体能力はかなり高い。力の強さだけではなく体のしなやかさにも優れ、戦いにおいては爪や牙といった自前の武器を持っている。

 まさに戦闘に特化した種族だと言えるだろう。


 だがひとつ問題があるとすればーー


「フィージル、もっと体は低くだ! 手も使え!」

「難しいって!」


 ーーハーフゆえか、その戦い方が僕に合っていないのだ。


 獣人種は素手で戦うのが基本だ。彼らにはそれで戦いを成立させるだけの肉体をもっているし、それぞれのもつスキルを組み合わせると戦法はかなり広がる。


 しかし僕はハーフだ。それに半分の血は肉体的に劣る妖精種のものである。

 妖精種は男女関係なく体が小さく、筋肉量も少ない。草木を育て花を愛でる種族なのだからそれも当然だ。そんな彼ら彼女らは精霊に親しまれやすいという特徴がある。


 精霊とは自然界に存在する小さな生命体のことだ。その姿は普通の人間には捉えることができず、自然の意思に従ってそこら中に揺蕩(たゆた)っているという。

 妖精種はそんな彼らから力を借りて<精霊魔法>という種族固有のスキルを発動することができる。これが遠距離限定では妖精種に敵う者はいないと言わしめるスキルである。


 だがここでも問題がある。僕の称号、『(いびつ)な混ざりモノ』の悪影響だ。

 これによって「純なる者」に嫌われる宿命を背負った僕は、そもそも精霊が近寄ってくれない以前に姿を見ることさえできない。そのためか、僕のスキル欄に<精霊魔法>の文字が刻まれる兆候は今のところない。

 自我が弱いために精霊は総じて「純なる者」の定義に当てはまる。好きなものには近づき、嫌いなものには近寄らない。これは称号に関係なく誰しもが持つ基本的な本能だろう。


 よって、僕は今のところ中途半端な獣人種の身体能力のみで体を鍛えているのだがーー


「甘いぞ!」

「うわっ」

「ふはは、まだまだだな」


 組み付こうと跳びかかる僕だったが、父さんに捕まりそのまま持ち上げられてしまった。もはや親子がじゃれ合っているようにしか見えない気がする。


「父さんのように立派な戦士になるんだぞ」

「うん、がんばる」


 こうして今日の戦闘訓練、もとい親子のスキンシップは終了したのだった。






 ♢ ♢ ♢






「フィー君、今日もお勉強の時間よ」

「はい」

「うふふ、フィー君はいい子ね」


 家に戻ってからは母さんとの勉強が待っている。


 あの集落中の子供たちを泣かせた騒ぎの後、母さんは僕に英才教育を施すようになっていた。たとえ何があっても生きていけるだけの知識を身に着けさせるためらしい。

 僕としても暇を持て余すよりはその時間を有効に使いたいと思っていたので願ってもないことだ。今では『獣人語』もほぼマスターしていた。


 そしてこれが今のステータスである。






==================



『歪な混ざりモノ』

 個体名:フィージル=バラメント

 種族 :混血種

 スキル:一般

     <演技><思考加速>

     称号


     特殊

     <冥界神の加護>



==================






 変わったのは一般スキルのみだ。称号は相変わらず迷惑な効果をまき散らすばかりである。


<演技>はおそらく僕が子供っぽい演技をしまくったせいだ。今の僕が日本に帰ったなら、天才子役として有名人になれるかもしれない。まあ、頭が高校生だったので反則みたいなものだけど。

<思考加速>は自重せずに勉強を頑張ったせいか。寝る前に『喉語』を復習したり今後について考え続けたおかげだろう。それほど大きな効果はないが、それでも一瞬の処理能力が上がったのを感じられる。


 今のところ両親は僕の成長が早いのをこの<思考加速>のためだと思っているようだ。狙ったわけではないけれど、先に疑われるような可能性を潰せたのは大きい。

 そして<演技>は……まあ、今のところ触れられていない。そっとしてくれている。


「じゃあ今日は……称号について教えましょうか」

「はい」


 お行儀よく返事をして、僕は内心でやっと来たと期待する。

 母さんにステータスのことを教えられたのはごく最近だ。実はかなり前に自分で発見していたということは知っていない。

 それまで僕のステータスを確認していたのは<看破>のスキルを持つ族長であり祖母、ナリス=バラメントである。彼女はあの日、僕たちを立派な家に招き入れて事情聴取をした白狼のおばあちゃんだ。


 おばあちゃんが族長ならその息子の父さんも次期族長になりそうなものだけど、そのあたりは複雑な事情があるらしい。ナリスばあちゃんが訪ねてきたときに話しているのを少しだけ聞いた。

 あのとき父さんは珍しく怒っていたけどなんだったんだろうか。


「ステータスは開ける?」

「うん……開いたよ」

「じゃあ、それをお母さんに見せて?」

「はい」


 僕は母さんの手に触れて軽く念じる。親しい間柄なら身体的接触によって他人に自分のステータスを見せることができるのだ。


「よくできました。それじゃあ自分の称号は?」

「『歪な混ざりモノ』だよね」

「……そうよ。それがフィー君の称号」


 母さんは顔を悲しげに歪めていた。自分の息子にこんな称号がついていたら悲しくもなるだろう。

 僕はここで気づかない振りをして不思議そうに首を傾げる。5歳児に慰められても母さんの心が晴れることはない。下手な慰めは母さんをさらにおいつめる結果にもなりうるのだ。

 こんなときに僕は自分が嫌いになる。本当は考えられる頭があるのに、それを隠して子供の振りをしているのだ。<演技>スキルがあるだけに罪悪感は募るばかりである。


「称号は、その人を表す2つ目の名前よ」

「2つ目の?」

「そう。でもね、本当の名前とは違ってその人の生き方次第で変わったりもするの。フィー君はずっとフィー君のままだけど、この称号はずっとフィー君を表すものにはならないわ」


 これを聞いて僕はかなり安心した。このまま子供にや精霊に嫌われたまま生きるのは精神的に厳しい。

 いまだに僕は同年代の友達がいない。集落に降りることもできない僕は父さん、母さん、ばあちゃんと以外に話をしたことがないのだ。皆が優しいので不満はないけれど、やはり寂しさを感じずにはいられない。


 母さんが僕の目を覗き込んで言う。


「フィー君、いっぱい頑張って称号を変えなさい。悪いことはしちゃだめよ? それもちゃんと称号に表れるんだから」

「何をすればいいの?」

「そうね……たくさんいいことするの。そうすれば『善行を積みし者』なんて称号に変わるかもしれないし」


 なるほど、称号はその人の人生や本質を一言で表したものみたいだ。

 そうなるとこの称号を見るだけで良い人か悪い人かも一発で分かってしまう。それは同時にこの称号のままだと僕に何かしら被害が及ぶことは避けられないということだ。なぜなら僕はまだ「混ざりモノ」で、人として判定されているのかすら怪しいのだから。


「どれくらいすればいいの?」

「いっぱいよ。あまり考えすぎるのもだめ。それも称号に出ちゃうからね」


 母さんが言うには、(よこしま)な気持ちで良いことをしても、称号にはそのまま反映されるらしい。

 たとえ表向きは優しく振る舞っていても、それが悪意のある目的のためであれば『善行を積みし者』などという称号はつかない。

 とにかくこの称号というシステムはかなり優秀なようだった。


「誰が称号を決めてるの?」

「神様よ。お空の上から見守っているの」


 随分とはっきり言い切られた。やはり異世界だと目に見える形で神様もいるのだろうか。

 ……いや、もっと身近なところにあったな、そういえば。


「特殊スキルの『冥界神』様?」


 僕が冥界の入り口で会った顔のない女性、『冥界神』様は明らかに神と言えるだけの力をもっていた。なにしろ召喚陣に驚いて転落死した僕を転生させてくれたのだから。

 こうしてステータスにはっきりと名前がある以上、あの方が言っていたことも事実なのだろう。


 しかし母さんは困ったように首を横に振った。


「ごめんね、お母さんは『冥界神』様を知らないの。お空にいるのは『命名神』様よ」

「『命名神』様?」

「そう、この世界のすべてに名前を授けた古い古い神様。そのお方がステータスを作っているの」


 創造神とかではなく『命名神』ときた。この世界の名付け親みたいなものだろうか。

 この神様が称号をつけているのなら納得もできる。神様相手に人間の姑息なやり口などいかほどの意味もない。正しくその人の生き様が表れるわけだ。


 そうなると僕を召喚しようとしたのはこの『命名神』様なのだろうか。聞く限りかなり高位の神様のようで、異世界の人間を召喚するようには思えないのだが。


「他に神様はいないの?」

「調べればたくさんいるけど、今お姿を見られるのは『六柱神』様たちね」


 ……あれ、神様見られるの?

 僕の思っている神様とはずいぶんと違う。なにか宗教で信仰されているとか、そのくらいの認識だったんだけど。

 この世界では神様も一緒に暮らしているのかな? 僕は恐る恐る訊いてみる


「か、母さんはその『六柱神』様たち? とお会いしたことがあるの?」

「あるわよ。加護も授けてもらったわ」


 おおう、あっさり頷かれた。しかも加護って。

 どうやら認識を改める必要がありそうだ。この世界に神様はいる。それも加護を授けてくれるほど僕たちとの距離は近いらしい。

 僕のスキルに<冥界神の加護>があってもそれほど驚かれなかったのは、たぶん一般的にあり得ないことでもなかったからだろう。


「どんな加護か聞いてもいい?」

「いいわよ、というかお母さんのステータスも見る?」

「え、いいの?」

「もちろんよ。家族なんだから見せるのは当たり前でしょ?」


 そう言いつつも母さんは少し恥ずかしそうだ。この世界の常識が分からない。

 言葉だけでなく早急に一般常識も教わる必要がある。僕が勉学から解放される日は遠いだろう。子供だからある意味当然だが。


「それじゃあ……」

「いい? お父さん以外に言ったらだめよ? 約束だからね?」

「う、うん」


 やたら念を押された。見るのが怖くなるんだけど。


 しかしすでに手は握られている。体の小さいとはいえまだ5歳の僕の手は母さんのそれよりも小さい。

 その手を通して僕の中に何かが流れ込み、そして頭の中にステータスが浮かんできた。透明な板のようなものに文字が浮かんでいる。






==================



()け落ちの妖精姫』

 個体名:オレハ=バラメント

 種族 :妖精種

 スキル:一般

     <風魔法><水魔法><治癒魔法>

     <植物魔法><舞踊><歌唱><家事>

     <栽培><暗器術><隠密><愛憎>

     称号

     <花酔い><透明化><隠し身>

     <祝福の花園>

     特殊

     <魔導神の加護><精霊魔法>



==================



==================


『駈け落ちの花舞姫』

 他種族の男と結ばれるために逃亡した妖精国第1王女。

 その愛の深さと切望は新たな可能性を創り出すほどに強く、愛する者たちと添い遂げるためならどんな手段も(いと)わない。


==================






 ……ツッコミどころがありすぎる!



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