第6話 親の馴れ初めは聞きにくい
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『駈け落ちの妖精姫』
個体名:オレハ=バラメント
種族 :妖精種
スキル:一般
<風魔法><水魔法><治癒魔法>
<植物魔法><舞踊><歌唱><家事>
<栽培><暗器術><隠密><愛憎>
称号
<花酔い><透明化><隠し身>
<祝福の花園>
特殊
<魔導神の加護><精霊魔法>
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『駈け落ちの妖精姫』
他種族の男と結ばれるために逃亡した妖精国第1王女。
その愛の深さと切望は新たな可能性を創り出すほどに強く、愛する者たちと添い遂げるためならどんな手段も厭いとわない。
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母さんのステータスに刻まれている称号やスキルの数々を見て僕は戦慄していた。突っ込む箇所はいくらでもあるが、まずはこれだろう。
「か、母さん……お姫様なの?」
「そうよ。もう昔のことだけどね」
「……大丈夫?」
「もちろん。連れ戻しに来た日には血を見ることになるけどね」
怖い! 5歳児の前で言うことじゃない。
顔は笑っているのに目は全く笑っていない。まるでスキルを発動したように目が怪しく光っている。ちょっと怖すぎる。
「……じゃあ、あ、<暗器術>も?」
「あらあらフィー君、どこでそんな言葉覚えたのかしら」
「う、ううん、どんなスキルなのかなーって」
だめだ、完全に変なスイッチが入ってる。ていうか<暗器術>ってやっぱり暗殺とかのスキルだよね。
どこの誰だ、妖精種は近接戦闘が苦手って言ったのは。<隠密>っていう最悪のスキルとセットにすると滅茶苦茶強いじゃないか。
それから駈け落ちした時に追手から逃れるためなのか、やたら隠れる系のスキルが多い。<透明化>って強すぎない?
<隠し身>はスキルによる追跡からも隠れられるから、これもセットにすると最強だ。でも匂いや音までは隠せないとか。
そして<祝福の花園>。一風変わった感じのこのスキルの詳細は次のようなものだった。
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<祝福の花園>
植物の成長を促進して立派な花を咲かせ、実りと繁栄をもたらす。
また精霊の好む空間を作り出すことができる。
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聞くところによると栽培系スキルの最高峰のようなものらしい。精霊に好まれるということはそういうことだ。
これと他のスキルなんかを利用して母さんは家の裏手に菜園を作っている。もはや畑と言っていいほど広くたくさんの野菜などが育てられているのだが、このステータスを見た後だとそれも納得だ。
この<祝福の花園>によって我が家の食卓には高級な野菜や果物が並び、加えて精霊によって菜園が清廉な環境に保たれていることにより害獣なんかの被害を抑えているらしい。まあ僕が近づくと逃げていくらしいが。
精霊が見えなくてよかったと思う。本気で僕の前から逃げていくのを見せられたら心が折れてしまいそうだ。
「で、この<魔導神の加護>っていうのは?」
「それは『魔導神』様からいただいたの」
「会ったの!?」
「? そうよ。前の家の近くに住んでいたの」
そんな身近なところにいたの!?
冥界の入り口に行かないと会えない『冥界神』様とは大違いだ。早く加護の内容をツッコミたい。
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<魔導神の加護>
魔導の神髄に至った叡智の神の加護。己の突き進む道のみを見据える覚悟が込められている。
魔力増大、高速魔力回復、鋭意集中
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見事にチートだよね、これ!? どれか一つでいいから欲しいんだけど!
やっぱり『冥界神』様への突っ込みは決定事項だ。あの神社のお守りみたいな効果がおふざけでないと信じたい。
それよりも『魔導神』様の加護がほしい。僕は母さんに縋りついた。
「僕ももらえる!?」
「うーん……フィー君はまだ難しいかな? あの方は魔法の研究以外にあまり興味をもたれないから」
「そんなぁ」
「私も<植物魔法>を研究させる代わりにもらえたからね。フィー君も珍しい魔法を使えるようになったらもらえるわよ」
それはかなり厳しいと言っているのと同義だ。ハーフの僕は魔法の方も中途半端なのだから。
多少は使える可能性があるが、一人前になるのは難しいらしい。<精霊魔法>も使えないため魔法使いは諦めなくてはならない。
「落ち込まないの。まだまだフィー君はこれからでしょう?」
「そうだね……。僕、がんばるよ」
「偉い偉い。さすが私たちの子よ」
そう言って母さんは僕を褒めてくれた。
頑張るのはいいのだが、このままではまた『真面目』と呼ばれるようになりそうで怖い。幸いにしてこの世界での努力は楽しいのでいいのだが。
「そうだ、フィー君におまじないしてあげる」
「なに?」
「じっとしててね……」
そう言うと母さんは僕の髪を一部いじり始めた。
僕の容姿は獣人種と妖精種を足してちょうど2で割ったようなものだ。
プラチナブロンドの髪に獣耳とエルフ耳。体格は比べる相手がいないが、聞くところによると両者の中間である純人種と同じくらいらしい。
顔は父さんみたいな狼顔ではなく、普通の人に犬鼻の先っぽをくっつけた感じだ。母さん曰く、将来は厳つい顔ではなくかわいい顔になりそうだとのこと。
体毛は手足に少し。そして尻尾も生えている。
将来像がまったく想像できないけど、父さんのように2足歩行の狼にはならないようで安心している。やはりできるだけ前世の背格好に似せたいと思うのはわがままな思考だろうか。
「はい、できた」
そんなことを考えるうちに母さんのおまじないとやらは終わったようだ。
髪に触れてみると右側が一房だけ編み込まれている。部分的に体毛が長い僕だからそんなことも可能なのだろう。
「これがおまじない?」
「そうよ。私も小さい頃はこうしてたの」
どうやら深い意味があるのではなく、母さん個人の思い入れが深いらしい。
僕は髪を編まれるという新感覚にしばらく頭を振って遊んでいた。
「どう? いやなら解くけど……」
「ううん、大丈夫!」
「そう、ならよかったわ」
これもおしゃれの一部と考えよう。前世ではできなかったことだ。
「ちょっと早いけど、今日の勉強はおしまいにしましょうか。お母さんは菜園に行ってくるわね」
「はーい、いってらっしゃい」
僕は1人、今日習ったこと、そして知った事実に思いを馳せるのだった。
♢ ♢ ♢
「父さん、ステータス見せて!」
「お? どうしたいきなり」
僕は井戸の側で水を浴びる父さんのところに言ってステータスを見せてもらうように頼んだ。
「今日母さんにステータスを見せてもらったら、いろいろすごくて。それで父さんはどうなのかなって」
「ああ、オレハか。確かにあいつのステータスには驚いただろう」
妖精国第一王女に駈け落ち、そして<魔導神の加護>。ツッコミどころが多すぎて本当にびっくり箱みたいだった。
こうなると父さんの方にも期待が持てる。いや、ツッコミたいわけじゃないけど。
「父さんはどうなの? 母さんよりすごい?」
「そうだな。オレハほどではないかもしれないが、それなりに頑張ってきたぞ」
「見てもいい!?」
「はは、仕方ないなぁ」
<演技>スキルによる迫真の子供っぷりに敵う者などおるまい。目論見通り、父さんはあっさりとステータスの閲覧を許可してくれた。
「ほら、見てみろ」
そうして脳内に映る情報。僕は焦りを殺してそれを読み込んだ。
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『白き旋風の姫攫い』
個体名:ディエンテ=バラメント
種族 :獣人種(白狼)
スキル:一般
<狩猟術><体術><棍術>
<見切り><剛力><剛脚>
<尖爪><鋭牙><鋼靭><気配察知>
称号
<柔体化><鋼体化><刹那>
<背水><白破>
特殊
<鳴神の加護><獣化>
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<鳴神の加護>
天地を震わせる戦神の加護。再会と再戦の誓いが込められている。
身体能力向上、高速自然回復、心眼。
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……よし、落ち着こう。母さんよりはマシだけど、こっちもいろいろと言いたいことが多い。
「まず、姫攫いって……」
「ははは、オレハに結婚を申し込んだときにちょっとな」
ちょっと、って何があった!? 攫っちゃったの!? たしかに母さんの方も駈け落ちってついてたけども!
今日1日で2人の馴れ初めがすごく気になりだしてきた。一体2人に何があったんだ。
「どうやら姫様を攫うのは一発で称号につくらしい」
でしょうね! 世間的に見たら大犯罪だよ、これ!
母さんの同意はあったらしいけど、向こうの家がどう思っているのかを思うと怖い。
「大丈夫なの? 怒られたりしない?」
「大丈夫だろう。連れ戻しに来た時は俺が撃退してやるからな」
ぜんぜん大丈夫じゃない! 実力行使する気満々だ!
母さんも<暗器術>とか持ってたし、うちの家庭はなんでこんな荒々しいことになってるんだろう。
でも確かに実力的には申し分ない。近接戦闘系スキルを多く持っているし、種族固有スキルの<獣化>を使えば身体能力はさらに上がるからね。
母さんが搦め手で攻めるタイプなら、父さんは正攻法でってところだ。
「あと、この<鳴神の加護>は……」
「ああ、なんかやりあった時にくれた」
「なんでやりあってんの!?」
うちの父さんは神様と戦ったことがあるらしい。それで加護をくれるって……。
しかもこっちも見事にチートだし。これ一つで近接戦は万事解決だよ。そこのところどうなんですか、『冥界神』様?
どうやらこの世界での神様の位置づけを変えないといけないようだ。神様は結構積極的に僕たちの生活に関わっているらしい。
母さんの実家の近くに住んでて、父さんと戦って再戦を誓われる。うん、どんな家族だ。
「ぼ、僕ももらえたりする?」
「いや、あの熊公に一発傷をつけでもしないと難しいだろう
神様に傷をつけたらもらえるって……なんかおかしいような。それと神様を熊公とか呼んでいいの?
考えるに多分『鳴神』様というのは戦闘狂であるようだ。僕とは一生縁がないだろう。
「それで父さんは勝てるの?」
「はは、無理だろうな。若い頃でさえ勝てなかった上に、あいつはもう五位についてるからな」
ん、五位? 順位付けがあるのか?
よくよく考えると僕はこれらの神様について良く知らない。『六柱神』ってくくりにあるみたいだけど、その基準もあいまいだし。
「ねえ、『六柱神』って何なの?」
「知らなかったのか。『六柱神』というのはな……」
『六柱神』。
それはこの称号世界で『神』という称号を授かった6人。
この称号を持つ者は常に6人と固定されている。仮に1人がその座から落ちた場合は次の1人が選ばれる。
『神』なだけあってその称号スキルは破格のものが多い。特に共通して得られる<不滅>、<眷属>などが有名。そのうちのひとつに加護を与える<加護>スキルもある。
彼らの中には順位がある。決めるのは『命名神』で、長く一位を死守し続ければ神界に至ることができると伝えられている。
現在の『六柱神』は次の通り。
一位『天海を支配せし覇龍神』
二位『調和に導きし建国神』
三位『生と死の楽園たる黒樹神』
四位『魔の果てに至りし魔導神』
五位『天裂き地割る鳴神』
六位『世界を繋ぎし空転神』
一番若くて『鳴神』の二十年。もっとも古い神は『覇龍神』で二千年以上もこの地位につき続けているらしい。
ほかにも『魔導神』は三位から六位を転々とし続け、それでも千二百年近く生きているとか。
神に至った時点で寿命からは解放され、死んだとしても神の座から落ちない限り<不滅>スキルによって復活する。本当に規格外の存在だ。
これらは変更があるたびに『命名神』様からの『天啓』というものによって伝えられる。どんなものかはまだ僕にはわからない。
さて、ここで頭をよぎったことがひとつ。
地球から僕を召喚しようとした謎の存在。『冥界神』様曰わくどこかの神様だったらしいけど、この中にピンとくる神様がいる。
そしてもうひとつ。
冥界の入り口で出会い、そして僕に便宜を図ってくれた『冥界神』様。<加護>スキルで加護を与えてくれたから、というのは理由として弱いが、あの『顔のない女性』はこの世界で神に至り、そのまま神界へと昇った古い『六柱神』の1人なのではないだろうか。




