7-3「誰も見ていない」
しかし、部下やタレントへの度重なるパワハラ・セクハラに加え、事あるごとにスポンサーと喧嘩したり番組の中に自分の作家性(右寄りの政治的主張など)を織り込んだりといった事を繰り返している内に、畑中は徐々に各テレビ局・大手芸能事務所から敬遠される様になった。
となると、当然起用出来るタレントの選択肢も狭まる。畑中の命令に忠実な奴隷気質の3.5流芸人とZ級アイドルが体を張ったり、聞くに堪えない自虐や暴露に身を晒しタレント生命と人としての尊厳をすり減らすだけのバラエティショーに、視聴者はちゃんとそっぽを向き始めた。
決定的な打撃となったのはここ数年あらゆるメディアで急激に進行した「コンプライアンス」とやらの厳格化であった。視聴者もこのムードにボンヤリと感化され、一昔前ならばジョークで済んだ様な尖った企画や演者の何気ない発言が炎上の火種になり、スポンサーらも番組放送後の視聴者達のSNSでの反応やネットニュースの動向に敏感になった。
当然、畑中の様な作風のテレビ屋はより肩身が狭くなる。勿論「昔ならではの過激なお笑いが見たい」という意見もSNSや匿名掲示板には少なからず見られ、畑中も「コンプライアンスがナンボのもんじゃい!」と意気軒昂にTwitterで吠えたりしたが、結局はこれらの声もそれ以上にやかましく、それでいて実態がよく見えない『善良な視聴者』とやらの声にかき消されていった。達川はハリボテの良識をまとった、この『善良な視聴者』達によってテレビの世界を追われる事になったのである。
愛人の乙浜メイは「アンタもう使い物になんないわ」と吐き捨てて、畑中の後輩にあたるキー局の音楽番組のプロデューサーに乗り換えて行った。深酒ついでの激情に任せて一日100回復縁嘆願のメールを送ったら後輩プロデューサーと懇意のヤクザが会社までやって来て、部下の目の前で死なない程度に痛めつけられた。畑中はここで、自分が同業の後輩から最早取るに足らない存在と見下されている現実と、程々の怪我で多大な恐怖を植え付けるヤクザ達のリンチの手心の妙技をしっかりじっくり味わったのだった。
気付けば畑中の年齢も例の飲酒運転暴走事故のあと再就職もままならず、3年経ったところで首を攣って死んだ師匠を大きく追い越した。
近頃酒を煽ったりドラッグをキめている時に思い出すのは、元々映画監督志望だった師匠が酔うと必ず「テレビなんぞ邪道だぁぁ、ゴミだぁぁ、映画こそが芸術文化なんだぁぁぁぁ」と言って大暴れしていた光景だった。
今なら、師匠が言っていた事がわかる。
師匠にとって映画がそうであった様に、畑中にとってはやはりテレビこそが娯楽の王様であり、いずれ還るべき故郷なのだ。
ネット動画の世界にはびこるオモシロ素人共が如何に持て囃されたとて、所詮アイツらがやっている事はテレビの焼き直しだ。
YouTubeやネット番組でサムい笑い屋に大袈裟な愛想笑いを上げさせて悦に入る都落ち芸能人なぞと同じレベルまで落ちてたまるものか。
俺は絶対地上波のスターダムに舞い戻り、俺を追い落とした頭の硬いジジイの後頭部をナタでカチ割り、俺の番組を暴力的で観てられないなどと言ったフニャチンのガキ共のアナルに片っ端から拳を丸ごと突っ込んでやるんだ。
そんな畑中の近頃の主な収入源は、CSやケーブルテレビの何処の誰だか分からないローカルタレントが司会の、誰が見てるんだか分からない番組の制作である。こんなクリエイティビティのカケラもない仕事に興など乗るはずがなく、撮影にせよ編集にせよ強めの酒かコカインかシャブで気分を上げないとやっていられない。
これ迄何度か、ドラッグをキメながら素材の中に0.2秒ほど洋物の無修正ポルノ画像や自分の無修正ポコチン画像を挿入してみた事があるのだが、今のところ特にお咎めはない。
何故か。簡単な理由だ。
誰も見ていないからである。
今日の仕事はいつの間にかタイタニアレコードのアニメレーベルでそこそこのお偉さんになったミュージシャン志望時代のツレからお情けでもらった、25年前のアニメの周年記念イベントの配信作業である。
ショッピングセンターの片隅のチャチいホールに臭い中年オタクがひしめき合い、キャピキャピ声で喋る中年女をアイドルの様にチヤホヤするという想像するだに反吐が出そうなイベントだ。資料に載っていた出演者4人の顔写真を見てみても、誰一人としてヤりたいと思える女がいない。
今日の仕事は無価値だ。
金にもならない、箔もつかない。ならばせめて演者の一人や二人でもヤリ捨てさせろと言いたいが、出て来る女共に揃いも揃ってその魅力がないとなれば尚の事モチベーションが上がらない。
これならまだ地下芸人とAV女優がただ乱痴気騒ぎをするだけの品性下劣なイベントの現場の方が、ヌケる分だけまだマシだ。
仕方ない。
この後何かストレスを発散させなければいけない様な問題が勃発したら、この現場にいる若造の誰ぞにポコチンをしゃぶらせて鎮めよう。もうこの際野郎でいいや。その方が荒く扱える。
畑中はつい先日入社した、一番若くて生気のない痩せ型メガネ社員(21才)に目を付けた。何処かのタイミングで適当に因縁を付けてイマラチオ地獄を味合わせてやろう。




