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ACTorDIE!〜声優業界下層階級哀話〜  作者: 野乃々田のの
第1章 雛沢ももえの誕生
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1ー1 「人並みに」

【安沢とし子】の少女期は、清廉な多幸感に溢れる青春からは程遠かった。



人並みに学校に行き、

人並みに誰かの悪口を言い、

人並みに誰かをいじめ、

人並みに誰かを階段から突き落とし、


人並みに教師をいじめ、

人並みに教師を休職に追い込み、

人並みに停学を喰らい、


人並みに体を売り、

人並みにヤリ捨てられ、

人並みにマリファナと大麻を嗜み、

人並みに補導され、

人並みに親に手を上げ、

人並みに親の財布から金を抜き、



人並みに親から罵声を浴びせられ、

人並みにその三倍の罵声とおまけのグーパンチを返した。



「アタシの人生、こんな感じのまんま終わってくんだろうなー。」

 とし子はくわえタバコでパチスロのリールを眺めながら、自分の人生がこのまま永遠に上向きにならないであろう事を悟った。

 とし子、時に齢17。

 店内には入り口近くに設置されている大型ビジョンで流れている子供向けアニメ「カンパンマン」の如何にもキッズアニメらしいけたたましい音が大音量で垂れ流しにされ、ここで手元が狂うと生活が立ち行かなくなりやがては首を吊らねばならなくなるスロッター達の神経を逆撫でしていた。


『ごめんねカンパンマン、もう悪い事はしないよ!』

『分かってくれればいいんだよ。』

『うん、ありがとうカンパンマン!僕、これからは心を入れ替えて人の為に役に立つ仕事に就くね!』


 この店の今日の客層は3ヶ月前に突如この街の工場を襲った発注減に伴い失業したのち働く意欲を失った者が4割、元より仕事に就くつもりなどなく親や親族の稼ぎをくすねて暮らしている下層不労所得者が4割、これといった考えもなくただ破滅へゆらゆらゆったり歩みを進めているだけの者が2割。いずれもこの先心を入れ替える事もなければ人の役にも立つ事もなかろう奴らばかりだ。

「うっせぇぞ、このしょうもないアニメを止めろこの野郎!」

 どうやらカンパンマンにトラウマかコンプレックスを抉られたらしい中年男がそばに居た痩身でピアスだらけの若い店員に食ってかかった。が、ピアス男は慣れた様子で素早く中年男の手首を取り、足首を後ろ側から蹴飛ばして受け身が取れない姿勢で中年男を転倒させた。

 後頭部をしたたかに打ちつけて鼻血を出しながら横たわりそのまま起き上がらない中年男の容体を、客の誰も気に留めない。当たり前だ。皆自分のパチスロの方が大事だし、これ位の小競り合いはこの店ではよくある事なのだ。

 開店から10年程経つこのパチスロ店の駐車場では、これまでに2年に1人のペースで通算4人のガキが撥ねられたり轢かれたり親に暴力を振るわれたりして死んでいる。これだけ頻繁に死亡事故・事件が起きているにも関わらず客は平気でガキを連れて来るし、パチスロが大好きな警察とその警察にしっかりみかじめ料を支払っているパチスロ店の癒着のせいで再発防止の機運が高まる事は一向にない。

 そして案の定、その年の夏にガキがもう一人死んだ。どヤンキー丸出しの両親に車の中に置いて行かれ、2人して血眼で良台を探している間に蒸し焼きになったのだ。

 全身を真っ赤に染め、穴という穴から体液という体液を垂れ流し、恐らくは死ぬ間際に味わったのであろう想像を絶する苦しみと恐怖をその顔にこびりつかせた我が子の亡骸を前に、ヤンキー夫婦は口汚く責任をなすりつけあい、駆けつけた警察に「俺は(アタシは)無罪だ」と主張した。低俗な夫婦喧嘩は当然の如く、殴り合いに発展した。溜息混じりに止めに入った警察官はまずヤンキー夫のこめかみを警棒でぶん殴って黙らせ、ヤンキー妻を羽交い締めにして落ち着かせるフリをしてどさくさ紛れにその無駄にデカい乳を3回揉んだ。

 薄くなった髪をほぼ白に近い金髪に染め上げたパチスロ店店長は警察の調べに「ウチも大概迷惑しとるんですわ。毎回毎回妙な事件ばかり起こされて、また客足が遠のくわい……。」と薄笑いを浮かべてヘラヘラ応じたのち、突如「イイ事を思いついた!」とばかりに破顔一笑し「ねえ、こういう事ってお上から手当なんぞが出たりゃせんモンですかね?被害者救済って必要でしょう?」と何とも珍妙な事を大真面目に言って警官を呆れさせた。


 この町で「人並みに暮らす」とは、こういうことなのであった。

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