側妃5<溜らずセレンげは宴から逃げ出してしまった・・>
へこみそうになる心を奮い立たせてケルレンは微笑む
ケルレンとフールンの視線が一瞬合って、
でもすぐにフールンは瞳を逸らす。
フールンを見ていたセレンゲは、その一連を涙で歪んだ視界で
じっと見ていた。
二度三度首を振るとセレンゲはこれ以上は耐えられないと
いうように顔を背け宴の席を立ち上がり早足でその場を
離れていった。
その間誰もが何も言えなかった。
「さあ・・・・・皆さん、大いに騒ぎ飲むが良い」
イェニセイ族長の声に再び先ほどのことは
なかったかのように徐々にざわめきが戻るが
「うちのフールンを好きでいてくれる
小さいセレンゲを泣かしてさ、俺達の大事なケルレンを
悲しませてずいぶん陰湿なことするな・・・・イェニセイ族長。」
チーフォンのその言葉に一斉に宴の皆が其方を向く。
「許婚のセレンゲを大事にしたい。
大事な一族で兄妹も同然のケルレンももちろん大事にしたいって
フールンの気持ち分からないか?・・・・それが間違ってるか?
セレンゲが、ずっとずっと小さな時から許婚で好いていた相手に
嫁入り前から自分以外に大事な奴が居るって分かって
しかもこんな場で突きつけられて悲しい気持ちにならない訳ねーだろ?
ケルレンが、生まれたときから一緒だった兄妹みたいな
片割れみたいな相手に自分選ばないって言われて理性で分かってても
切ない気持ちにならない訳ねーだろ?」
まちがってるか?
チーフォンの言葉が鋭い瞳がその場を支配する。
居並ぶ自分より遥か年上の族長、総領達を射すくめて
チーフォンは真っ直ぐに言葉を発する。
「長兄・・・・・・チーフォン兄上・・。
もう良いですよ・・ありがとうございます。」
にっこりとフールンは微笑を浮かべる。
それはチーフォンとケルレンにだけ向ける本当の微笑みだった。
「思った以上にチーフォンとフールンの兄弟仲は強固らしいですね・・
兄弟で一人の女を想っているというのに
憎しみや妬みは無いのか・・・・・・・・・そんな筈は無いでしょう・・?」
そっと宴の片隅でその不思議な魔性の紫の瞳で
見ていたフフヤガーン(紫)の視界を遠く離れたところで
共有していた彼が静かに漏らす。
フフヤガーンを使いイェニセイの族長に協力している魔族
彼の名は、黒の伯爵ザラド。
太古より生きる真紅の魔王の血の末、
生き残るのが数少ないと言われる人との混血児
魔王の若君の養育係を務めたと言われる最上級魔族。
「この地で大いなる災いを起こさせて頂きますよ
私の若君をこの地にお呼びする為に・・・。」
「なるほどな・・・・陰湿ときたか。
・・・言い寄るわ・・・ハンガイの若造が」
剣呑な目になってイェニセイ族長がチーフォンを見る。
「気に障ったら悪いな」
ニカッと笑ってチーフォンはイェニセイ族長を見つめ返す。
イェニセイ族長がフールンの方に視線を送ると
動ずることなく静かにイェニセイ族長とチーフォンを見ている。
「・・・・真にうらやましい事だ。
・・・ハンガイの族長殿は」
イェニセイ族長は、もう一度チーフォンに視線をもどし
フールンを見て最後にケルレンを見てふと視線を落として呟く。
(良い目をしている三人ともな)
「セレンゲ姫は行ってしまったがここにはまだケルレン姫も
我が妃レンチョン<チョイルン>も居る。・・・・ゆっくりと楽しんでゆかれると良い。」
イェニセイ族は、侍女に命じて西域から取り寄せたという
赤い酒を出させるとチョイルンとケルレンに
手でフールンとチーフォンに注ぐように命じる。
宴に来た他の族長達にも侍女に注がせた。
酒を手に持たされ驚いたのは
・・・・というか慌てたのはケルレンだった。
(いまだかつてやったことも無いそんな事を
しかもチーフォンとかフールン相手に今、この場でやれっていうのか!?)




